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ルーズベルト、チャーチル、スターリンをナチスが暗殺計画? 真相に迫った本

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
『The Nazi Conspiracy』=山本正樹撮影

人気コンビ3作目のノンフィクション

第2次世界大戦下の1943年、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、スターリン旧ソ連書記長の3者(ビッグスリー)による首脳会談が、連合国占領下のイランの首都テヘランで行われた。

本書『The Nazi Conspiracy(ナチスの陰謀)』は、このテヘラン会談におけるナチスドイツによるビッグスリーの暗殺計画という、あまり知られていない陰謀を追ったノンフィクションだ。

著者のブラッド・メルツァーは政治スリラー小説などで知られる作家で、テレビ番組制作や漫画の原作の分野でも活躍する。

共著者のジョシュ・メンシュは米国史を専門とし、ヒストリーチャンネルほか各局でテレビ番組制作に携わるドキュメンタリー作家。このコンビによるノンフィクションは、これが3作目になる。過去2作もベストセラーとなっている。

替え玉立て、ソ連大使館に逃げ込んだ米大統領

1941年、ドイツは欧州の大部分を占領後、ソ連へ侵攻し、太平洋では日本による真珠湾攻撃を機に米国が連合国側に参戦。ルーズベルトは、戦争終結には米英ソ首脳が一堂に会し、戦略の詳細を話し合い、また、連合国の結束を世界に誇示する必要があると考えていた。

会談の準備は難航した。チャーチルとスターリンには信頼関係がなく、スターリンが開催場所に指定したテヘランは米国から遠く、警護に加え国内問題も抱えるルーズベルトの大きな負担となった。

舞台はベルリン、ロンドン、ワシントン、モスクワ、テヘランほかを行き来する。ホロコーストや真珠湾攻撃、山本五十六・日本軍連合艦隊司令長官の極秘襲撃、イタリア首相ムソリーニの救出作戦など、大戦中の出来事に触れながら、ナチスの潜伏工作員や英ソ情報機関、米シークレットサービスなどの動きを追う。

当時、ドイツ空挺部隊の数人がテヘラン近郊に潜入していた。極秘会談の情報が漏れたことを知ったソ連の情報当局は、暗殺計画の存在を英米に通告した。

テヘラン到着後に暗殺計画を知らされたルーズベルトは、安全確保のためソ連大使館に向かった。注目を集める大統領専用車両には替え玉を乗せ、自身は目立たない車の後部に身をかがめ、別ルートを移動した。

暗殺計画は実在したのか、ソ連の謀略だったのか

メルツァーはこの暗殺計画に関する小さな記事をオンラインで読み、興味を持った。計画は結局、実現せず、残された文書も少なかったため、事実が検証されないまま忘れ去られていた。

メンシュとともに英米情報機関のファイルを調べ、ドイツの図書館で資料に当たり、不明瞭なロシア語資料を発掘するうちに、いくつかの対立する見解が浮かび上がってきた。

意見は大きく二つに分けられた。

実際に計画は存在したが、裁判で死刑を免れたナチスドイツ幹部が最後まで真実を語らなかったとする説。もうひとつは、暗殺計画の情報がソ連からのもので、ルーズベルトが宿泊したソ連大使館の部屋が盗聴されていたことから、スターリンがルーズベルトとチャーチルをだましたという説だ。

結論は読者に委ねられているが、メルツァーはルーズベルトのシークレットサービスの証言から、暗殺計画は信頼性の高い情報だったと考えているという。

第2次世界大戦当時、諜報(ちょうほう)活動と暗殺は非常に重要な戦略だった。劣勢になったドイツが、戦局を変えようと3者の暗殺を計画したとしても不自然ではない。

また、盗聴は別として、テヘラン会談の際にスターリンが、ルーズベルトとチャーチルをだますようなリスクを取る必要性は低かったはずだという。

スリラー小説のような短い章立てで、一気に読み進められる。章ごとに映画の一場面を見せられているようで、ノンフィクションであることを忘れそうになる。

巻末には膨大な資料の出典が示されている。

著者は残された瑣末(さまつ)な資料から事実を拾いあげ、つなぎ合わせることで歴史上の事実をよみがえらせようと試みた。第2次世界大戦への新たな視点をくれる一冊だ。

米国のベストセラー(eブックを含むノンフィクション部門)

2023年2月26日付The New York Times紙より
『 』内の書名は邦題(出版社)

 Spare
Prince Harry プリンス・ハリー
英王室内での確執、母親の喪失、兵役、メーガン妃との結婚について詳述。

 The Body Keeps the Score
Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク
『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊国屋書店)

トラウマが心身に与える影響と革新的な治療法を記したロングセラー。

 I'm Glad My Mom Died
Jennette McCurdy ジェネット・マッカーディ
女優で映画監督の著者が、摂食障害や母親との困難な関係について語る。

 Love, Pamela
Pamela Anderson パメラ・アンダーソン
活動家でもある女優が生い立ちや家族、名声の獲得、元夫たちについて回想。

 The Light We Carry
Michelle Obama ミシェル・オバマ
元大統領夫人が自らの経験を語り、困難な状況に対処する方法を紹介。

 People vs. Donald Trump
Mark Pomerantz マーク・ポメランツ

トランプ前大統領の捜査を担当した検察官がマンハッタン地区検察の内幕を暴露。

 Never Give an Inch
Mike Pompeo マイク・ポンペオ
トランプ政権の国務長官が語る、自身のアメリカ第一主義への貢献。

 Friends, Lovers, and the Big Terrible Thing
Matthew Perry マシュー・ペリー
人気ドラマ俳優の回想録。幼少期のエピソードや断酒にまつわる苦労話。

 The Nazi Conspiracy
Brad Meltzer and Josh Mensch ブラッド・メルツァー&ジョシュ・メンシュ
ルーズベルト、スターリン、チャーチルの殺害を企てたナチスの陰謀を描く。

10 All About Love
bell hooks ベル・フックス

『オール・アバウト・ラブ: 愛をめぐる13の試論』(春風社)
フェミニストの象徴であった筆者(故人)が、二極化する社会の原因や愛の意味を探求。