――通常国会でも少子化対策を巡る論戦が続いています。
日本で語られる少子化対策の多くはフランスをお手本にしています。内閣府の資料によれば、フランスの合計特殊出生率は1993年に1.66でしたが、2019年は1.87で、欧州連合(EU)で高い出生率を維持しています。
フランスは、子どもの数が増えるほど所得税率を下げる税制や、結婚していない母子家庭への支援、海外からの移民受け入れなどに取り組みました。
ただ、フランスと日本では状況が異なります。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合が7%から14%に増えるのに、フランスの場合は90~100年かかりました。少子化対策の準備にかける時間的な余裕があったわけです。
これに対し、日本は22年、韓国も19年しかかかりませんでした。急激な少子化政策の導入は社会的なあつれきを生みます。例えば、「外国人が増えるのは嫌だ」「未婚のまま、子どもを産むのは倫理的に問題がある」といった声です。
――日本はもっと早く少子化対策に取り組めなかったのですか。
日本では2000年ごろから高齢者の数が急増しました。このため、政府は当時、介護保険制度の導入を決めました。このとき、同時に少子化対策に取り組むべきでした。「少子化対策は最大の高齢化対策」だからです。
しかし、当時の日本は少子化対策まで手を回す余裕がありませんでした。さらに当時、非正規労働者を増やす政策を取ったため、若者たちの所得を抑え込んでしまいました。
また、日本は世界のデジタル化の流れに乗れませんでした。デジタル化は仕事の手続きを迅速化し、生産性を上げます。この競争で日本が負けたため、所得が伸びず、少子化に向かう状況を作ってしまいました。
2011年以降、一貫して日本の人口が減り続けているため、専門家やメディアの間で危機を訴える声が高まりました。それに岸田首相が応じたのが実体です。
――岸田首相の「リスキリング(学び直し)発言」に批判が出ています。
学び直しは、英米仏なども採用している政策です。ただ、情報分野など新たに成長が見込める産業で働けるスキルを提供します。出産や育児で一度職場を離れても、新たに高所得が期待できる職場に移れる好循環を生み出しています。日本は依然、終身雇用制が主流なので、この制度の導入には解決すべき問題が残っています。
政府与党の少子化対策に対する批判の声が多いのは理解できます。日本社会が衰退していくことへの悲鳴だと受け止め、対策を急ぐ必要があります。
――自民党は2012年に撤廃した児童手当の所得制限を撤廃しようとしています。
私は撤廃に賛成です。2012年当時と現在では、少子化の深刻度が違います。世論も「支援強化」を望む方向に動いています。女性が出産した後、職場復帰するのが当たり前という社会を作らなければなりません。
現在の医療の世界では、女性の医師が育児を考え、外科などの激しい勤務を避ける動きがあります。外交官の世界でも、教育が難しい発展途上国への赴任を避ける傾向があります。女性が男性と同じように参画できる社会を作る必要があります。
――少子化は安全保障にも深刻な影響を与えるという指摘があります。
人口減は社会からダイナミズムを奪います。人口が減少する国には投資しない経済投資家もいるほどです。少子化が進めば、予算規模が縮小し、兵士の数も減ります。軍事力の基盤が失われます。欧米ではこの問題を解決するため、女性兵士の数が急増しています。こうした事情から、傭兵や無人機などを導入する国も増えているのです。