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ウクライナのザポリージャ原発、ロシア軍が「基地化」 技術者300人、今も監禁か

World Now 更新日: 公開日:
ウクライナ中南部のザポリージャ原発で、ロシア軍の攻撃で焼けた訓練棟
ウクライナ中南部のザポリージャ原発で、ロシア軍の攻撃で焼けた訓練棟=3月、ウクライナの原子力企業「エネルゴアトム」のTelegram投稿より

ロマン・ベススメルトヌィ氏

――ザポリージャ原発には、ロシア軍が多連装ロケット砲システムなどを配置した、と言われているが。

ロシア軍は3月後半以降、そうした武器を常に置き続けています。今も(第6号基まであるうち)第1号基、第2号基、第3号基の敷地内には多連装ロケット砲を含め、ロシア軍の武器があります。

――それをロシア軍はどのように使っているのか。

ドニプロ川を越えた位置にあるミコライウ州、ザポリージャ州への攻撃です。例えば、多連装ロケット砲システムなら、17キロの射程があります。

ザポリージャ原発の場所=Googleマップより

――ロシア側は否定しているが、ロシア軍はザポリージャ原発に対し攻撃しているのでしょうか。

はい。2月の本格侵攻後、一番危険だったのは、今夏、第1号基の非常電源装置が攻撃された時でした。

非常用ディーゼル発電機を動かすための燃料タンクに砲弾が当たり、破壊されました。その結果、第1号基は非常電源から切り離されました。

その時は、原発の機器冷却系を動かせなくなり、重大事故が起きる可能性がありました。

ザポリージャ原発
ザポリージャ原発=同原発のホームページから

――ロシア側は、ウクライナ軍が原発を攻撃していると主張しています。

ウクライナ軍では、各兵士に民間施設を攻撃してはいけない、という教育がなされており、原発をウクライナ側が攻撃することはありません。

――ウクライナの全原発を統括する企業「ウクルエネルゴ」本社(キーウ市)が攻撃されたと聞きました。

私が住む高層マンションの窓から、その本社は見えます。11月15日、朝食と取っている時、イラン製のドローン「シャヒード」が本社に当たる瞬間を見ました。

ロシアの攻撃は精密性を欠いており、ミサイルやドローンが当たる確率は一般的に5%と言われています。

今、一番大きな問題は、彼らが変圧所を狙っていることです。ウクライナでその数は多くない。停電が各地で起きています。

ロシア軍のミサイル攻撃を受けたウクライナ・キーウでは大規模な停電が発生した
ロシア軍のミサイル攻撃を受けたウクライナ・キーウでは大規模な停電が発生した。市内の中心部でも街灯が消え、人々は降りしきる雪の夜道を歩いていた=2022年12月16日夜、関田航撮影

――ロシア側はロシアの原発を管理する企業「ロスアトム」の人間をザポリージャ原発へ派遣し、ウクライナ人技術者を管理しようとしているとも聞きました。

ウクライナ人の技術者は今もザポリージャ原発にいます。しかし、ロスアトムは、ロシアの規則通り働け、と命じるので、うまくいっていません。

そのため、ウクライナ人の原発の管理責任者、技術者、労働者が「非協力的だ」として、しばしば監禁されたりしているのです。

――ザポリージャ原発を占拠しているロシア人にとって、原発を動かすうえで技術的な問題はあるのでしょうか。

ウクライナは独立後の30年の間に、多くの産業分野が欧州の規格に合わせるようになってきています。原発も例外ではありません。

ウクライナの原発の燃料集合体は、ソ連時代の四角形のものをやめ、カナダの六角形のものを採用しました。私の推測ですが、ロシア側は四角形のものしか知らないので、ウクライナの六角形の燃料集合体を扱うことができないのでいるのではないでしょうか。

――大統領府もあなたの自宅から近いが、そこがロシアに攻撃されたことはありますか。

驚くことに、ありません。大統領府や国会がある一角については一度も、です。

大統領府の建物が建てられたのはソ連時代の1930年代です。二重構造になっていて、地上部分の見えている部分のほか、地下深くにも執務室などがあります。

そこを攻撃するには精密誘導兵器を何度も使う必要があるでしょうが、ロシアにはそれをするだけの数がありません。

◇     ◇     ◇

――あなたは、どんな仕事をしているのですか。

ザポリージャ原発の技術者全体をマネジメントしています。今は、電話などを使い遠隔で指示を出しています。ロシアとの交渉など、政策的なことは知らされていません。

――ザポリージャ原発では、ロシア軍はどこに、どんな兵器を隠しているのですか。

12月上旬の約10日間、蒸気タービンが設置されているタービン建屋(縦60メートル、横100メートル)に武器を持ち込みました。出したり、入れたりしています。

また、汚染水を運搬する直径2メートルの管が原発構内を走っています。高さが4メートルあり、柱で支えられています。その柱と柱の間の地上部分に武器を置いています。

ロシア人は、その管が攻撃されることはなく、そこが安全だと考えているのでしょう。多いのは、歩兵戦闘車や装甲された兵員輸送車です。

ロシア軍は原発構内に兵舎を作り、ローテーションでいろいろな軍部隊が来ています。ロシア南部のイスラム教徒軍団「チェチェンツィ」や傭兵集団の「ワグネル」などが交代で来ています。

――1号基から6号基まで全て停止しています。なぜですか。

750ボルトの送電線網が4ラインあります。それがすべて砲撃により切断されました。原発構内ではありません。外に広がる送電線のどこかが切断されたのです。

――原発そのものが砲弾で攻撃されて、破壊される可能性はありますか。

原子炉建屋は、大型飛行機が衝突しても耐えうる構造になっています。砲撃で壊されることはないと思います。

――福島第一原発では非常用電源が機能せず、大事故につながりました。その可能性はあるのでしょうか。

可能性は常にあります。砲弾が飛び交っています。でも、冷却装置が働かず、福島第一原発のような事故が起きることは、今のところ一度もありません。

――ロシアによる攻撃で一番ひどかったものは?

1号基のそばに原発技術者を育成する教育施設が数棟あるのですが、3月、そこは砲撃で完全に焼け落ちました。

実は原発構内への攻撃よりも、原発から4キロ離れた工業地帯への砲撃がひどいのです。そこでは、両国の軍隊が砲撃しあっています。

――ロシアはザポリージャ原発の幹部や技術者を拉致・監禁しているといわれています。

これまでウクライナ人技術者ら500人が拉致・監禁された後、解放されました。今は300人が監禁中で、行方が分からなくなっています。ロシアに協力するよう強要しようとしています。