1. HOME
  2. LifeStyle
  3. いい会社って?選ばれる企業の必須条件になりつつあるアメリカ発「Bコープ」認証とは

いい会社って?選ばれる企業の必須条件になりつつあるアメリカ発「Bコープ」認証とは

コトを起こす スタートアップ、その先へ 更新日: 公開日:
人種、ジェンダー、国籍、言語、世代、価値観において、多様性を包括できる組織でないと優秀な人材が集まらなくなる時代はすぐそこに=株式会社Hub Tokyo提供

「革新的な技術やビジネスアイデアで急成長し、一気呵成(かせい)にIPO(新規株式公開)へ!」。スタートアップといえば、こんな企業像を思い浮かべるかもしれません。でも、実はそれはスタートアップという概念のごく一端を表しているにすぎません。

途上国で社会起業家らの支援に携わり、東京・目黒でコワーキングスペースを営む槌屋詩野さんが、スタートアップの現場で起きていることや、そこに関わる人たちの姿から、その先にある「コトを起こす」とは何かを考えます。

今年の夏前に、日本の大手新聞から初めて、「Bコープ」について取材を受けました。

いよいよ日本でも波が来る。「いい会社」がバズワードになりそうな気配を感じます。

Bコープ(B Corporationの略)はアメリカの「B Lab」が始めた認証制度で、環境や社会への配慮、透明性、説明責任といった観点から定められた基準を満たすことで、「いい経営」のお墨付きをもらう仕組みです。

パタゴニアやダノン、ネスプレッソなど有名なグローバル企業を含む2千を超える企業がすでに認証を受けています。昨年は環境に配慮した天然素材のスニーカーメーカー「オールバーズ」がBコープでありながらナスダックに上場したこともニュースになりました。

日本での知名度はまだ低いですが、私の周りでは数年前からBコープ研究が活発になりだして、その頃からの仲間であるバリューブックス取締役の鳥居希さんは今年6月に、黒鳥社と 「B Corp ハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善」をバリューブックス・パブリッシングから出版。

それもあって、特に今年の前半から、書籍の制作過程から生まれた、Bコープについて学ぼうとするオンラインコミュニティーの会員が急増しています。

2016年秋、バリューブックスの鳥居希氏(写真右)と一緒に初めてサンフランシスコのカンファレンスで「B Corp」について学んだ筆者(左)。この時はじめてハンドブックを手にした=株式会社Hub Tokyo提供

新しく入ってくるのは企業のESG担当者、就職先や投資先としてBコープ企業に関心を持っている人、ビジネスの新たなチャンスを察知した広告会社の人たちと、バックグラウンドは多様です。

ついに日本でもBコープに光が当たり始めたのですが、認証する側の「B Lab」は世界規模の申請急増に対応が追い付かず、審査結果待ちの長いリストができているらしいです。一度、認証取得しても3年ごとに更新が必要なため、審査の処理能力はかなり大幅な増強が必要です。

Bコープ認証の普及で「日本の大企業」離れが加速?

とはいえ、このボトルネックは近いうちに解消されるでしょう。

大手企業、面白い企業、カッコいい企業がBコープを取得したという情報はすぐに拡散するし、企業自体も大いに宣伝する。メディアも注目する。

そうなると、何が変わるのか。

日本では、まず大企業が打撃を受けるだろうと、私は予測しています。 

Bコープのアセスメントは、ガバナンス・従業員・コミュニティー・環境・顧客という5つの領域から成り立っていますが、アメリカの特に西海岸ではすでに、Bコープ取得が就職・転職先選びの基準になってきています。ブラックな働き方もあり得るスタートアップに入るよりは、社会にも環境にも従業員にとっても「いい会社」で働きたいという価値観が広がっているのです。

その流れは日本にも来ています。

つまり感度が高く、情報収集ができる、当然、英語も不自由しない、優秀な人たちが、Bコープ取得企業で働こうとする。あるいは、そういう会社を自らつくりたいと思う人が一気に増えます。

いわゆる「日本の大企業」は、人材獲得が今にもまして格段に難しくなります。死活問題です。岸田政権が誕生してさかんにスタートアップ支援が言われていますが、Bコープの波はさらに、そうした大企業離れを加速させると思います。

ここからは私の見立てですが、「いい経営」をしたい、そういう仲間を増やしたいというBコープのコンセプトは、特に日本の大企業には、自分たちへのアンチテーゼとして映るようです。「アメリカでは大企業トップ同士の会話に当たり前のようにBコープが登場しているけれど、日本のトップが語れるのはESG投資まで」と、投資業界の知人から聞きました。

Bコープを知っていても、その波にどう乗ればいいのか分からない。そもそも、波に乗っていいものかどうかも判断がつかないでいるように見えます。

「いい会社」「いい経営」 が注目ワードに

10年の間に時代は大きく変わります。

その兆しの一つが、最近、頻繁に耳にする「いい会社」という言葉です。

カンファレンスのテーマを「いい会社」で企画したいと相談を受けたり、江戸時代から続く生活雑貨の老舗「中川政七商店」が他社と一緒に「いい会社ってなんだろう」と問題提起したり。ブランディングやコンサルティング、広告を打つ側が、「いい会社」「いい経営」を打ち出すメニューに力を入れ始めているのは間違いないと思います。

様々な産業に顧客を持つDXエージェンシー「スパイスファクトリー株式会社 」CSOChief Sustainability Officer)の流郷綾乃さんは先日、「DX支援する会社には、持続可能性を求める変革を促しているし、今後は社会的にネガティブな案件は受けないことを徹底していく」と話していました。

Bコープ認証という形をとらなくても、環境や社会への配慮、透明性、説明責任など、同じ方向性の価値観を重視する人たちは、coolだし、ブランディングしやすいというわけです。

そのような企業をつくる人、そこを選んで働く人たちは、何がcoolかを見極められる人たちなわけで、顧客としても魅力的だというのはBコープ的発想です。オールバーズは商品を買ってくれるターゲット層と、自社で働く人たちの層が重なっています。日本ではまだ、そういうブランディングが少ないですが。

2015年に米サンフランシスコで開かれたカンファレンスSOCAP (Social Capital Market)で、著者Ryan Honeymanの講演を聞き、本人から直接買ったBコープのハンドブック=株式会社Hub Tokyo提供

更新は毎年!Bコープの審査基準

体裁だけ整えた見せかけの「いい会社」が増えるだけでは、と疑問ですか?

ここがまた、面白いポイントでもあるのですが、Bコープって、いい経営を目指す人たちのオーガニックなコミュニティーが出発点なんですよ。だから認証したから終わり、ではなくて、一緒に学びながらずっと高めあっていきたいというコンセプトが、生まれながらに埋め込まれているんです。だから、審査基準にあたるB Impact AssessmentBIAがなんと毎年変わります。

公式ウェブサイトには、世界中の企業の実践例がたくさん掲載されています。

BIAに取り組む時、私はメキシコの企業の人事の取り組みを読み始めて、次から次へとネットサーフのように多くの会社の事例を読みあさりました。読み物として面白いし、経営者である自分が自分の会社で試してみたい情報があふれているんです。

「いい経営を右肩上がりで続けていく」って、売り上げだけでも、利益率だけでもない。投資家を満足させるだけでも不十分で、従業員にも、社会にも環境にも良い結果を出そうと追求し続けること。

ものすごくハードルが高いですが、そこに加わりたい、互いに学びあっていきたいという人と企業が急速に増え、コミュニティーが拡大を続けている。このうねりは、見せかけだけの人たちを吹き飛ばす強さがあるとみています。