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世界一高い木ハイペリオンは115m超、接近したら罰則 高すぎて先端もはや見えず

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
セコイアの林に分け入る森林保護官
セコイアの林に分け入る森林保護官=2014年6月3日、カリフォルニア州北部、ロイター

もう何百年も、巨木「ハイペリオン」は静かにたたずんでいる。米カリフォルニア州北部にあるレッドウッズ国立州立公園の奥深い一角。周りには同じような巨木がそびえ立つ。

ハイペリオン(訳注=ギリシャ神話の巨神族にちなむ名前)は、米太平洋岸北部に自生するセコイアだ。ハイキングコースなんてない。密集したやぶをかき分け、川を一つ渡らなければ、たどり着けない。

それでも、379.1フィート(約115.55メートル)もあり、世界一高い木として認定されているハイペリオンを見ようと、すごい数の旅行ブロガーや樹木オタク、趣味で木登りをする人たちが押し寄せた。おかげで樹木の下に生えている草や低木は、すっかり踏み荒らされてしまった。

そこで、この木に近づくことそのものを公園当局は禁じることにした。2022年に入って新たな規則が設けられ、近づきすぎた場合は最大で禁錮6カ月と罰金5千ドルが科せられるようになった。

「この措置の趣旨を理解してもらうことを願うばかりだ」と公園の資源管理担当レオネル・アルゲーロは話す。「私たちは大切な天然資源と訪問客の安全を守りたいだけなのだから」

こんな規則が必要になったのは、ハイペリオンへの到達ルートを残そうとしたり、木に登ったりする人があまりに増えたからだった。近辺には大量のゴミがたまり、人の汚物もまじるようになった。

新規則が施行されたのは22年3月だが、サンフランシスコのニュースサイトSFGATEが7月末に報じて注目を浴びるようになった。

ハイペリオンから1平方マイル(2.6平方キロ弱)以内に入ることを禁じているとアルゲーロは改めて説明し、公園当局は定期的に見回っているといい添えた。しかも、現場はかなりへき地なので、何かあっても救急医療は期待できない。

アルゲーロによると、逮捕されたり、罰金を払ったりした人は、今のところいない。5千ドルは罰金の最高額だが、施行初期の対応としては侵入が現認された場合は立ち退きを求め、すぐに応じなければ、150ドルの違反切符を切ることになりそうだ。

FILE -- The entrance sign for Redwoods National and State Park in Crescent City, Calif., July 23, 2008. The National Park Service restricted the area around Hyperion, a redwood in the park, after visitors and climbers left behind garbage and human waste. (Jim Wilson/The New York Times)
カリフォルニア州のレッドウッズ国立州立公園入り口に立つ標識=2008年7月23日、Jim Wilson/ⒸThe New York Times

同種のセコイアは、この地球で最も高く育ち、最も多く樹齢を重ねる木の一つだ。2億年ほど前のジュラ紀(訳注=恐竜の時代)にはすでに存在していたとされている。

ハイペリオンが発見されたのは、2006年だった。自然を愛好する2人の専門家が見つけ、セコイアの権威、米植物学者のスティーブン・シレットが確認した。以来、これほどの人気を集めるハイペリオンだが、それはある種皮肉な現象でもある。

「高さの勝者」でありながら、真下から見えるのは地上から150フィート(46メートル弱)まで。それから先は一番下の枝にさえぎられており、苦労して見にくるだけの価値がないとアルゲーロは話す。

「これまで見た中で最も見栄えのしない木」ということになってしまう、とアルゲーロは首を振る。「自分はこの公園で33年間も働き、公園内のほとんどの老齢樹を見てきた。

でも、この木は根元で見ても、それほどたいしたことはない。高いと思うことはあってもね」。そして、こう付け加えた。「一番上の150フィートを見ることができなければ、どれだけ高いかなんて関係ない」

それでも、下から150フィートの上に何があるのだろうかという謎が、わざわざやってくる一部の人を引きつけているようだ。

セコイアの若い木は、円錐(えんすい)形をしている、と環境問題を専門とするサンノゼ州立大学教授ウィリアム・ラッセルは指摘する。

しかし、老齢化するにつれ、それが円柱形に変わる。同時に枝が密集して一番上は冠のようになり、「それがこの木に登る人にとってはたまらない魅力になる」。

公園内の木に登ることは、研究目的以外は禁じられている。

しかし、趣味で登る人がいるとの話は、ラッセルの耳にはもう何年も前から入っている。こうした違法行為は、木そのものとその生育環境にとって「重大な問題」を引き起こすとラッセルは憤る。

もともと気候変動と商業伐採という、いつ果てるともしれない負荷が壊れやすいセコイアの生育環境を脅かしている。そこに、違法な木登り行為が加わるという図式になる。

「大きなセコイアの最上部の冠部分には、常に湿り気が必要だ。それには、この海岸地域特有の霧がうってつけの役割を果たす」とラッセルは語る。「この霧が多いほど、この地域のセコイアにはよいともいえる」

ただし、その最上部の生態系はもろい。冠そのものはある程度は乾燥に耐え、(訳注=シダ類などの)維管束(いかんそく)植物がかなり密生する。しかし、そこで巣を営むのは、絶滅の恐れがあるマダラウミスズメなのだ。

記念碑的な樹高に育つ木は、セコイアのほかにもマツ科常緑高木のトウヒや北米のベイマツなどがある。「まるで、光を求めて好戦的に競い合っているかのよう」とルーシー・ケルホウラスは例える。カリフォルニア州立工科大学フンボルト校で森林の生理学を教える准教授だ。

しかし、それぞれの木を個別に見ると、樹高は育つ土壌の組成や、木の種別、さらには生育場所によって左右されるという。ちなみにハイペリオンは、近くを小川が流れ、よく保護された北側の斜面にある。

セコイアを「死ぬほど好きになる」愛好熱の高まりは、ケルホウラスも気づいている。でも、「口をあんぐりあけて見とれるほど魅力的な高い木」を見ようと思うなら、同じレッドウッズ国立州立公園内にあるジェデダイア・スミス・レッドウッズ州立公園を薦めることにしている。「使う時間と体力を考えれば、こちらの方が断然お得だから」(抄訳)

(Remy Tumin)Ⓒ2022 The New York Times

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