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アメリカ海兵隊、最高位の四つ星将軍に初の黒人 246年かけて「ガラスの天井」を破る

ニューヨークタイムズ 世界の話題
昇進式でラングリーを囲む父と義母
昇進式でラングリーを囲む父と義母=Kenny Holston/©The New York Times

軍隊というところでは、昇進を祝う式典が数限りなく開かれている。2022年もそうだ。陸軍基地や空母、そして仏ノルマンディーでも行われた。かつての上陸作戦の激戦地オマハ・ビーチを見渡す崖の上が、舞台になった。

しかし、歴史に残る式典は、そうはないだろう。米海兵隊の将軍マイケル・E・ラングリー(60)の階級を示す肩と襟の星が2022年8月6日、一つ増えて四つになった。

246年の隊の歴史で初めて、黒人の大将が誕生した。海兵隊に四つ星将軍は3人しかおらず、「最高幹部」と位置付けられている。

式典は、首都ワシントンの海洋兵舎(訳注=海兵隊の主要な儀式の場となる歴史的建造物)で開かれた。

ラングリーはこの昇進の重みをよく理解していると感謝し(それまで海兵隊の大将はすべて白人だった)、会場は感動的な空気に包まれた。新たに、地域別統合軍である米アフリカ軍の司令官に任じられた。

ラングリーは式典のあいさつで、第2次世界大戦中にフランクリン・D・ルーズベルトが大統領令で海兵隊の人種制限をなくし、黒人の入隊が認められるようになったことに言及。それから道を切り開いてきた先人の名をいくつかあげた。

その中には、黒人として海兵隊初の将軍になったフランク・E・ピーターセンJr.がいた。(訳注=海兵隊で最も古く、規模が大きい)第1海兵師団初の司令官になったロナルド・L・ベイリーもいた。いずれも、退役時は三つ星の中将だった。

U.S. Marine Corps Lt. Gen. Michael Langley is promoted to the rank of General in a ceremony in Washington on Aug. 6, 2022. Langley窶冱 promotion marks the first time a Black Marine has served as a four-star general in the 246-year history of the Marine Corps. (Kenny Holston/The New York Times)
米海兵隊の中将から大将に昇進したマイケル・E・ラングリー=Kenny Holston/©The New York Times(写真はいずれも2022年8月6日、ワシントンで撮影)

ラングリー昇進の知らせに、黒人の隊員はわき立った。

昇進式の2日前に、ラングリーがアフリカ軍の司令部がある独シュツットガルトに持っていく新しい制服を受け取るために、バージニア州クワンティコにある海兵隊基地に立ち寄ったときのことだ。大勢の黒人兵が待ち受けていた。

「少しお待ちください。少しだけ」と黒人少佐に呼び止められたのをラングリーは覚えている。「握手していただけませんか」といわれた。

すぐに、白人もまじえて男女の隊員が群がり、新四つ星将軍との記念撮影をせがまれた。

昇進式の本番では、5人の士官が並んで座る姿があった。いずれもクワンティコ基地で遠征戦の訓練を受けていた同じクラスの仲間で、式への参加は急きょ実現した。

昇進式の3日前に、クワンティコ基地司令官の将軍デービッド・H・バーガーがこのクラスで講義をした。45分も話しただろうか。大尉ルソー・サンティルフォール(34)が手を挙げて尋ねた。「どうやったら、6日の土曜日の式典に参加できるでしょうか」

「最初は何のことだか、ピンとこなかった。何しろみんなの質問は、水陸両用作戦やその戦術用法に集中していた。そんなときに、土曜日が出てきたものだから」と昇進式の場でバーガーは話し、周囲の笑いを誘った。

クワンティコからサンティルフォールと一緒に来た大尉イブラヒム・ディアロ(31)には、余談があった。この質問の後で、クラスの仲間が次々にメッセージを自分に送りつけてきた。「次に(訳注=四つ星に)なるのはお前だろう」と冷やかし始めたのだった。

「そうなるほど長いことやり通せるかは分からないが」とディアロは前置きして続けた。「海兵隊の若手たちがこの昇進式を見て思うことは、任務をきちんと果たす限り、海兵隊では報われるということだ。その人物の出自に関係なくね」

ラングリーの昇進は、海兵隊にとっては待ち望まれていたことがようやく実現したという意味合いがある。アフリカ系米国人の入隊が認められたのは、米各軍の中では最後の1942年。

以来、将軍になった黒人は30人に満たない。しかも、最高位の四つ星は皆無だった。それが、白人には73人もいた。

中将になったアフリカ系米国人は7人。それ以外は一つ星か二つ星(訳注=准将か少将)で終わった。

その多くは、担当が兵站(へいたん)や航空隊、輸送で、「最高幹部」として選ばれることのない分野だった。

ラングリーは、アフリカ軍司令官になるまでは、米東海岸の海兵隊を率いていた。37年間の隊勤務では、小隊に始まり、連隊も指揮。アフガニスタン、ソマリア、沖縄に配属された。国防総省や、中東を受け持つ地域別統合軍の米中央軍で、上級ポストもいくつかこなした。

海兵隊の黒人将軍の少なさについて、ニューヨーク・タイムズ紙は2020年に報じている。その後で「なぜ、海兵隊はこれまでの歴史で黒人をトップクラスのポストに就けることがなかったのか」と米ニュース配信サイトのディフェンス・ワンに問われ、先のバーガーは壁の厚さをこう例えている。

「事実はこうだ。海兵隊ではみんなすごく、すごく、すごく優秀なんだ。(訳注=候補者を)10人とか12人とか選んだり、さらに30人増やしたりしたっていい。みんながみんな、甲乙つけがたいほど優秀なんだ」

U.S. Marine Corps Lt. Gen. Michael Langley is promoted to the rank of General in a ceremony in Washington on Aug. 6, 2022. Langley's promotion marks the first time a Black Marine has served as a four-star general in the 246-year history of the Marine Corps. (Kenny Holston/The New York Times)
大将への昇進式を迎えたラングリー=Kenny Holston/©The New York Times

ラングリーの昇進には、心が痛む特別な事情がからむ。大おじがアフリカ系米国人として初めて「モントフォード・ポイント」で訓練を受けた海兵隊員の一人なのだ。

1942年にルーズベルトが黒人の海兵隊入隊を認める大統領令を出すと、黒人新兵はノースカロライナ州にあるモントフォード・ポイントに入った。白人新兵が訓練される海兵隊基地キャンプ・レジューンから切り離された施設だった。

そもそもこの大統領令は、当時の海兵隊司令官トーマス・ホルコムに対して、黒人に門戸を開けることを強いるのに必要な手続きだった。「もし、白人5千人の海兵隊にするか、ニグロ25万人の海兵隊にするかということなら、自分は白人の方を選ぶだろう」といい放った人物だった。

そして、今、「世の中は変わった」と語る3人の最高幹部の一人がここにいる。

海兵隊の構成は、どうあるべきか。「単一の集団より集合体の方が、精神的にも強靭(きょうじん)になれることをわれわれは学んだ」とラングリーはいう。

そして、こう付け加えた。「ここは、ガラスの天井に妨げられるようなところとは関係ない――そんな目で、黒人の隊員が海兵隊を見るようになることを願っている」(抄訳)(Helene Cooper)©2022 The New York Time

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