――監獄ビジネスとはどんなものですか。
監獄、つまり刑務所の運営をめぐって税金を含めた巨大なお金が動き、様々な組織や人たちが利益を得ている仕組みです。服役するものの割合は圧倒的に黒人が多いため、ある意味、彼らが搾取されているとも言えます。
順を追って説明しましょう。ちょうど民主党のクリントン氏が大統領だった1994年から2001年にかけて、全米各地で刑務所が増えました。
大統領選の中で、犯罪対策が甘いと批判されたクリントン氏は就任後、警察予算を急増させ 、取り締まりを強化します。例えば重罪で3回有罪判決を受けたら、懲役25年から終身刑になるという「三振法」が成立しました。
問題はこの重罪の範囲です。酒酔い運転や麻薬使用なども含まれ、受刑者はどんどん増加しました。これに伴って刑務所も増えたのですが、刑務所というのは巨大な利権のようなシステムなんです。
まず、刑務所が立地する州には連邦政府から補助金が出るほか、過疎対策にもなる。刑務所が誘致できれば受刑者はその場所の住民にカウントされ、その結果、議会などの代表権も増えます。
刑務所で働く人も必要なので雇用も創出されるほか、受刑者のための物資の納品や光熱費で潤う業者も出てくる。民間企業がビジネスとして刑務所経営に乗り出し、ノウハウを蓄積して海外にも刑務所ビジネスを展開するようになりました。
企業は受刑者たちに作業をさせてもうけますが、賃金は格安だし、健康保険や厚生年金(のコスト)を支払う必要もありません。作業内容は拡大し、電話のオペレーター業務をやる場所もあるほどです。
刑務所を誘致できる政治家を有権者は選出し、結果的に刑務所に服役者を送ることになる司法関係者の中には刑務所を運営する企業などに再就職するものもいる。企業、政治家、司法関係者…、刑務所をめぐる巨大な利権に群がる組織や人たちは「産獄複合体」と呼ばれています。
――受刑者は黒人が多いとおっしゃいました。なぜでしょう。
黒人が集中的に取り締まりの対象となっているからです。受刑者の多くは麻薬がらみの罪ですが、麻薬常習者の割合は白人と黒人とで変わりません。にもかかわらず、結果として黒人受刑者の割合が高いのです。これは、レイシャル・プロファイルと呼ばれる警察の取り締まり方に問題があります。
黒人だと車を止め、白人だと止めない。黒人居住区を狙い撃ち的に捜査する。 つまり、取り締まりにも黒人に対する差別や偏見が存在しているわけです。
黒人が次々と摘発、服役させられ、ときには不当に長期の刑期を勤めることになる。そうして彼らの存在が産獄複合体を潤わせる。そんな構図ができあがっています。
―――まるで奴隷制のようです。
共通性はありますね。どちらのシステムも黒人労働の犠牲のもとに経済的な利益が発生していますし、彼らに移動の自由はありません。
1865年の合衆国憲法修正第13条により、奴隷制は廃止され、黒人を含めたすべての人に自由を認めました。しかし、この法律には抜け道がありました。それは「犯罪者を罰する場合を除く」という例外規定です。
つまり、犯罪者、すなわち有罪判決を受けて服役するものは、本人の意に反する労役を可能にするということです。
この法律ができて以降、奴隷制があった南部では黒人の犯罪者が激増します。自由になったはずの黒人たちは様々な理由で逮捕され、長期にわたって刑に服すことになりました。1860年代ごろから刑務所には「囚人貸出制度」というものができました。受刑者が労働力として民間企業に貸し出される仕組みです。炭鉱、鉄道と道路の建設、林業などの労働を強いられました。
囚人労働では「事故死」が多く、待遇は過酷だったため、黒人たちにとっては脅しのような効果もありました。ひとたび裁判にかけられれば、陪審員は地元の白人有力者。有罪か無罪かを決めるのは彼らです。
奴隷制と比べれば、囚人貸出制度で労働に従事した黒人は少ないでしょうが、黒人社会に恐怖を与え、南部社会の秩序を維持するという意味では十分機能しました。
――BLM運動をどう見ていますか。
今までの黒人による公民権運動とは違い、全く新しいと思いますね。
これまでは白人の中産階級にお行儀のよい運動と見られるようにやってきた気がします。例えばBLMのように女性がリーダーになることはなかったです。性的少数者が前面に出ている点もかつてはあり得ませんでした。
刑務所システムについて、黒人運動が正面から反対したことはありませんでした。少なくとも記録では確認できません。
かつての黒人指導者たちは罪を犯した黒人と自分たちとは違うと、彼らは善良な黒人にとって害悪になるという認識だったんです。黒人の中でさえ分断があったんですね。
ところがBLMはそうした問題も積極的に取り上げてきています。白人にお行儀のよい運動だと思われるよりも、自分たちの価値観を前面に打ち出していますね。