みなさんどうも!
お元気ですか?
映画コメンテーター、映画ライター、映画パーソナリティー、映画評論家、映画批評家、いろいろいますね。
わたしの肩書は「映画コメンテーター」です。
私的には「映画ソムリエ」みたいな感覚で、こういうときにこんな作品を見たらどう?と、みんなに寄り添えられるような存在でいたいけど、もちろん映画は娯楽であり、好みも激しく分かれます。
でも、一言でも、あなたの心に響いてくれればうれしいなぁ。
わたしが映画コメンテーターとして走り抜けたこの21年間でしゃべり足りなかったこと、本当は伝えたかったけど、放送の関係で時間が足りなかったり、文字の媒体ならば文字数がいっぱいいっぱいだったから泣く泣く諦めたりして、心の中にしまっておいたものをこのコラムで話せたらいいなぁと思っています。
こんな世の中になって数年経ちます。
お仕事が思うようにいかない、就職もできない、恋人もできない、家族に会えないといろいろだから、人生そのもの、そして生き方のヒントになるような作品を、とまず思いました。
人の一生は数奇なものです。
いろいろあるけど、最後に振り返ってみるとちょっぴり笑ってしまうかも。
スウェーデンではベストセラーになった『幸せなひとりぼっち』。
原題は"En man som heter Ove”。
直訳すると「オーヴェと言う名の男」です。
タイトルからはどんな物語なのかまったく伝わらないけど、これはオーヴェという超頑固なオジサンの物語。
かわいい家が立ち並ぶ住宅地に住み、みんなの監視役にもなっていますが、誰に会っても文句ばかり。
しかし、その間に笑ってしまうほど面白いこともいっぱい起こります。
わたしが共感したのは、新しく引っ越して来たイランにルーツを持つ女性パルヴァネ。
夫と子どもが2人いて、今は3人目の子が生まれるのを楽しみにしています。
このパルヴァネがオーヴェの前に現れたことで、彼の人生が大きく変化します。
シンプルに彼女が明るいからと片付けてもいい。
けれど、私からしてみると、彼女にも移民家庭出身ゆえの様々な苦労があって、だからこそスウェーデン社会に溶け込むために、きっとすごく大変な思いをして、とてもオープンで人懐っこい人にならないと暮らしてこられなかったのではないかと思います。
オーヴェにとっては「トゥーマッチ」だけど、彼女のことを放っておけない魅力もあります。
では、オーヴェはひとりなのでしょうか?
そうです、タイトルにもあるようにオーヴェはひとりぼっちだけど、奥さんはいました。
でも、悲しいことにお亡くなりに。
でも奥さんのソーニャが今まで人のためにやったことは、彼女がいなくなってもずっと生き続けていて、教師だったソーニャのことをみんなは愛していた。
どんな大変な問題を抱えていた生徒でも、それらと向き合って解決していった。
それなのに旦那さんは、こんなに頑固ジジイだなんて!これもところどころ笑いのエッセンスになっていますし、大きな感動も呼びます。
実は映画の冒頭で、「生きる」ことをあきらめて、奥さんのところへと旅立とうと思ったオーヴェ。
なんだかんだ、生きてて良かったということが良く分かる一本。
意地悪をする人、助けを求めてる人、かつてはオーヴェと仲良しだったオジサンもいれば、飼ってるペットで迷惑を掛けてる人も。
でもいろんな人がいて、楽しい日々が送れる。
個人的には、パルヴァネの子どもたちの面倒を見なければいけない羽目になるシーンが最高に面白い。
もちろん、オーヴェの意に反してです。
明らかに嫌な顔をして子どもたちと接しますが、あのお母さんにして、あの子ども。
絵本を読んでとせがまれ、棒読みしたら「面白くない」「読み方がダメよ」とズバリ。
本領発揮で感情を込め、笑ってしまいます。
でも、子どもを面倒くさいと本当に思っているのか。
いいえ。
そこにも、とても悲しい理由も隠されています。
ハンネス・ホルムがメガホンを取りました。
彼はスウェーデンでは役者としても大活躍。
人気のテレビドラマにも出ていますが、監督もこなす。
日本に来たとき、わたしはラッキーなことにお会いできました。
インタビューした数々の監督の中で、最も思い出に残っています。
すごく印象的だったのが、「こんなベストセラーを映画化するって相当プレッシャーがあったのでは?」と質問したとき。
お決まりの質問だけど、ホルム監督の答えは思っていたのと違った。
「LiLiCoは映画紹介をするとき、その映画の話をしますか?」と聞かれました。
うん、まぁ、しているつもりではありますが……。
そうしたら監督が、「いいえ、LiLiCoは自分の話をしています」
なんかハッとして、震えた。
確かに!わたしというフィルターで話していますよ。
だってわたしの目、脳、心と感情を通って、みんなに薦めるので、自分自身の感情が入るのは当然です。
続いて監督は「だからあの映画は俺の物語だ」と。
つまり、プレッシャーなどない。
ホルム監督が感じた物語の中に、自分の親のことをスパイスとして足して、素晴らしい一本に仕上げたのです。
人とどう接したらいいのか、誰かがあなたのことを思ってる、愛する人を亡くしてもすぐにあちらの世界に会いに行かない、ルーティンも大事、少しだけ頑固もいいかも、ひねくれた人がいても、きっとその人を作り上げた過去がある――。
あなたの器が、間違いなく大きく、深くなります。
わたし今まで5回見ましたが、見れば見るほど面白くツボりますし、見れば見るほど人を好きになります。
明日、好きな人を抱きしめたくなる一本です。