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円谷英二氏が進化させた特撮、時代劇や歌舞伎の手法採り入れ発展 人気は今も衰えず

World Now 更新日: 公開日:
円谷英二監督
円谷英二監督=1960年3月、神奈川県・三浦半島、菅野喜勝撮影

特撮ヒーローの元祖が誕生したのは今から約100年も前のことだ。その後、時代劇や歌舞伎の手法を採り入れながら発展し、円谷英二氏によって革命的な進化を遂げる。一時苦境に立たされながらも、特撮ヒーロー作品は今も人々を魅了している。

 特撮ヒーローの元祖は、「目玉の松ちゃん」の名で親しまれた尾上松之助だろう。監督の牧野省三とともに、1910年代後半に忍術映画を量産した。

特撮といってもフィルムの編集を工夫した初歩的なもので、「トリック」と呼ばれていた。松之助は講談・歌舞伎のヒーローである猿飛佐助や児雷也にふんして宙を飛んだり、姿を消したり、大ガマに変身したり。トリックによる超人的アクションで悪者をやっつけた。忍術ごっこでけがをする子どもが続出し、社会問題にもなったという。

特撮を大きく進化させたのは、「特撮の神様」の円谷英二だ。

円谷は独自の技術を磨き、第2次大戦中に戦意高揚のための映画を何本も手がけた。「ハワイ・マレー沖海戦」では、精巧なミニチュアと映像の合成技術で真珠湾攻撃を再現。リアルな大スペクタクルは戦前・戦中の特撮の頂点といえる。

戦後、円谷は「ゴジラ」で東京の精巧なミニチュアを使い、巨大怪獣による街の破壊をリアルに見せた。

自宅でくつろぐ円谷英二氏
自宅でくつろぐ円谷英二氏=1966年11月、東京都世田谷区、杉崎弘之撮影

円谷は米映画「キング・コング」(1933年)のような人形アニメーションでゴジラの動きを表現したかったが、あまりに時間がかかるために断念。人がゴジラの着ぐるみの中に入る方法にしたことで、人間くさい動きで暴れ回る日本独自の怪獣文化が生まれた。

1960年代には、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「マグマ大使」「ジャイアントロボ」などで怪獣ブームが起こった。尾上松之助の忍術映画や歌舞伎にも、着ぐるみの大ガマが出てくる。テレビで大暴れした怪獣たちは、その末裔(まつえい)なのかもしれない。

「ウルトラQ」16話の「ガラモンの逆襲」冒頭映像=YouTubeのウルトラマン公式チャンネル

特撮には、時代劇や歌舞伎の流れをくむ場面がけっこうある。

1970年代、東映は石ノ森章太郎原作の「仮面ライダー」を製作した。その現場には、時代劇映画の黄金時代(1950~1960年代)を支えた人材が多くいた。時代劇映画が斜陽になったため、テレビの現場に回された人々である。

アクションを任されていたのは、殺陣を専門としていた大野剣友会。ライダーと怪人たちとの立ち回りや見えを切るようなポーズは、元をたどれば時代劇の動きだったというわけだ。

トランポリンを使ったライダー独特の宙返りも、プロデューサーの平山亨が京都撮影所で時代劇の助監督をしていたころ、忍者アクションに新味がほしくて工夫した手法がもとになっている。

戦隊シリーズにも、時代劇の伝統が息づいている。たとえば第3作から定番となった巨大ロボ。大刀を振るって必殺技を放ち、くるっと振り返ってポーズを決める、というのがパターンだ。

スーパー戦隊のヒーローたちは一人ひとり名乗りを上げた後、全員そろってポーズを決める。平山によれば、第1作「秘密戦隊ゴレンジャー」から続くこの伝統も、歌舞伎「白波五人男」のそろい踏みがモデルになっているという。

「秘密戦隊ゴレンジャー」のBlu-ray BOX用のCM動画=東映のYouTube公式チャンネルより

1970年代には、「帰ってきたウルトラマン」などによる第2次怪獣ブームと、「仮面ライダー」の変身ブームが重なった。特撮ヒーローの全盛時代で、年に十数本もの番組がつくられた。

その後、しだいにアニメに押されるようになり、オイルショックによる不況や製作費の高騰も響き、1980年代にかけて番組数が激減してしまう。

昭和から平成になり、特撮を見て育った世代が子をもつようになると、ほとんど途切れずに続いてきた「戦隊」に加えて、「ライダー」「ウルトラ」も復活。特撮ヒーロー御三家は、全盛期より1千万人も子どもが減った少子化時代をしたたかに生きている。

戦後の主な特撮作品

《1950年代 本格的な特撮映画の製作が始まった》

  • ゴジラ(1954年)
  • 空の大怪獣ラドン(1956年)
  • 月光仮面(1958年)

《1960年代 特撮映画の全盛期。テレビにも進出した》

  • モスラ(1961年)
  • キングコング対ゴジラ(1962年)
  • 大怪獣ガメラ(1965年)
  • ウルトラQ(1966年)
  • 大魔神(1966年)
  • マグマ大使(1966年)
  • 快獣ブースカ(1966年)
  • ウルトラマン(1966年)
  • 仮面の忍者赤影(1967年)
  • ウルトラセブン(1967年)
  • ジャイアントロボ(1967年)

《1970年代 テレビシリーズの全盛時代で、年に十数本もの番組がつくられた》

  • スペクトルマン(1971年)
  • 帰ってきたウルトラマン(1971年)
  • 仮面ライダー(1971年)
  • ミラーマン(1971年)
  • 快傑ライオン丸(1972年)
  • 人造人間キカイダー(1972年)
  • 愛の戦士レインボーマン(1972年)
  • ウルトラマンタロウ(1973年)
  • がんばれ!!ロボコン(1974年)
  • 秘密戦隊ゴレンジャー(1975年)

《1980年代 アニメブームにも押されて低迷し、番組数が激減。ウルトラTVシリーズも長期中断した》

  • ウルトラマン80(1980年)
  • 太陽戦隊サンバルカン(1981年)
  • 宇宙刑事ギャバン(1982年)
  • 仮面ライダーBLACK(1987年)
  • ゴジラvsビオランテ(1989年)

《1990年代 子どものころ夢中になった世代が作り手になり、原点回帰した。「ウルトラ」が復活した》

  • パワーレンジャー(1993年、米国)
  • ガメラ大怪獣空中決戦(1995年)
  • ウルトラマンティガ(1996年)
  • モスラ(1996年)