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朝ドラ好きの少女、モンゴル高専から日本の会社へ 中小企業を支えるKOSEN卒業生 

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モンゴル高専を卒業後、日本装芸で働くバヤルサイハン・ノミンさん=2022年4月12日、大田区矢口の同社、荒ちひろ撮影

「ここでは、古い鉄管をさびにくいステンレス管に交換しました。安全の確認や、一つ一つ写真を撮って、記録するのも施工管理の仕事です」

5月11日、東京都八王子市の大規模団地の現場事務所で作業していたのは、バヤルサイハン・ノミンさん(22)。モンゴルの首都ウランバートル出身で、モンゴル高専技術カレッジの建設工学科の卒業生だ。

団地の外廊下に出ると、慣れた手つきで墜落制止用器具とヘルメットをつけ、脚立に昇った。天井近くを通る新しい給水管に近づいて、ボルトがきちんと締まっているか一つずつ確認していく。なめらかな日本語で、新しくなった水道管について説明してくれた。

改修工事を終えた給水管を確認するバヤルサイハン・ノミンさん。モンゴル高専を卒業後、東京都大田区の設備会社「日本装芸」に入社し、現場施工管理を担っている=2022年5月11日、東京都八王子市、荒ちひろ撮影

高校入学直後の15歳の秋、知り合いに開校したばかりの日本式の高専を勧められた。日本から先生が来て、新しい技術を学べるという。NHK連続テレビ小説の「カーネーション」や「ごちそうさん」が好きで、日本に興味があった彼女にとって、日本語の授業があることも魅力に感じた。すぐに転校を決めた。

2年生の冬に日本の高専との交流で1週間、日本を訪れた。「とてもきれいで、すばらしい国。絶対にまた行きたい」。必死に勉強し、4年生の夏、空調や給排水設備の新築や改修工事などを行う設備会社「日本装芸」(東京都大田区)でのインターンに選ばれた。

モンゴル高専4年生のころ、測地学の実習で1週間郊外に行き、実際に山の高さなどを測った。バヤルサイハン・ノミンさん(右から2人目)と同級生ら=本人提供

1カ月体験した職場で、日本の高専卒の若い社員たちが活躍しているのを見て、「大学に行くより学べるのではないか」と思ったという。「仕事を通じて好きなことを見つけ、もっと先を考えられるかなって」

進学を勧める両親を説得し、卒業後の2020年1月、同社に入った。仕事の流れや図面の書き方を覚え、現場施工管理として、これまでに二つの大規模改修工事を完成まで担った。

将来的には、大学でさらに勉強して帰国し、モンゴルの環境問題に取り組みたい。そんな夢を描く。

ウランバートルは開発が進む一方で、伝統的なゲルが集まる地区もある。上下水道は整備されておらず、零下30度にもなる冬は暖房用に安価な石炭を燃やすため、公害問題になっている。

「冬は煙がすごい。日本から来た先生たちは『日本の50年前みたいだ』と言っていました。『そのときも高専の卒業生が解決に役立った』って」

そんなノミンさんを、社長の斎藤隆司さんは温かく見守る。「技術を持ち帰り、生かした仕事をしてくれたら、会社としても幸せですし、夢は広がりますね」

バヤルサイハン・ノミンさん。モンゴル高専を卒業後、東京都大田区の設備会社「日本装芸」に入社し、現場施工管理を担っている=2022年5月11日、東京都八王子市、荒ちひろ撮影

モンゴルは14年、海外で初めて日本式の高専3校を首都につくった。日本の高専で学んだ卒業生らが、教育大臣や議員、経営者などになって活躍。自国に日本式高専をと声を上げた。

日本側も「支援の会」をつくり、教員の派遣やカリキュラムづくりを助けた。会の代表理事で長年、都立産業技術高専などで教えた中西佑二さんは日本の中小企業と高専生のマッチングにも力を入れる。

モンゴルの高専3校の合同卒業式=2019年6月17日、ウランバートル、バヤルサイハン・ノミンさん提供

中西さんが商工相談員を務める東京都品川区では17年度から交流事業を始め、短期の技術体験や区内企業での1カ月のインターンを行ってきた。19年度には、1期生の中から3人が就職。待遇は日本の高専卒業生と同等以上だという。

区の商業・ものづくり課の小川和朗さんによると、区内には製造業1500社ほどが集まるが、大半を占める中小企業は技術者不足に悩む。一方、モンゴルには高専で学んだ技術を生かす就職先がまだまだ少ない。区内の企業で働き、ゆくゆくは帰国してモンゴルの産業発展に貢献してほしい――。小川さんはそんな願いも込め、企業に声をかけて回る。

総合配電盤メーカーの「勝亦電機製作所」の勝亦章浩社長は、呼びかけに応じた一人だ。少子化に加え、大手企業も技術者の採用に力を入れていて「中小企業はとても厳しい」と話す。インターンシップに迎えた高専生たちはみな「国を豊かにしたい」と言った。「日本の若者にはない志で、私たちにも刺激になると思った」

電気電子工学を学んだツゴバドラフ・ウランゼブさん(22)もそんな一人。「モンゴルでは50~60年前のロシアの技術を使っている。新しい技術を学ぶために、日本で働きたい」。入社3年目、当初は苦労したという日本語でのやりとりにも慣れ、設計職として仕事を任されるようになった。そしてこの春、母校出身の後輩ができた。

4月に品川区の勝亦電機製作所に就職したモンゴル高専卒業生のエンフビレグ・テムーレンさん(手前)。奥は2019年10月に就職した先輩のツゴバドラフ・ウランゼブさん=2022年4月18日、同社、荒ちひろ撮影

4月12日、品川区の中小企業センターに、来日したばかりの若者6人の姿があった。20年6月にモンゴル高専を卒業した2期生だ。新型コロナの影響で予定から1年半遅れたが、区内の5社で働き始めた。

その中の一人、勝亦電機のエンフビレグ・テムーレンさん(22)は、緊張した面持ちながら、よどみない口調で抱負を述べた。

「みなさまから温かい言葉をいただき、感謝の念に堪えません。一日でも早く戦力となれるよう、一生懸命頑張らせていただきます。厳しくご指導のほど、よろしくお願い申し上げます」

品川区の科学技術交流事業を通じて区内の企業に就職するモンゴル高専の卒業生ら(前列の左3人と右3人)。新型コロナの影響で予定より約1年半遅れて、ようやく来日がかなった=2022年4月12日、区立中小企業センター、荒ちひろ撮影

アニメがきっかけで日本に興味を持ち、日本で就職したいと、高専へ進んだ。「日本語の敬語が好き」と言い、卒業後の1年半、会社の担当者とマンツーマンで80回近くオンラインの面談を重ね、この日を心待ちにしてきた。

「一日でも早く仕事を覚えたい。そしていつかは、日本とモンゴルをつなぐ仕事がしたいです」