1. HOME
  2. World Now
  3. 「ウィル・スミスの平手打ちは妻を守った」に違和感 「男らしさ」の時代錯誤

「ウィル・スミスの平手打ちは妻を守った」に違和感 「男らしさ」の時代錯誤

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
アカデミー賞授賞式の壇上で司会のクリス・ロック(左)に平手打ちする俳優ウィル・スミス=2022年3月27日、アメリカ・ロサンゼルス、ロイター

3月27日、アメリカの俳優ウィル・スミスが第94回アカデミー賞授賞式の壇上で、コメディアンのクリス・ロックに平手打ちをしました。

きっかけは、ロックが、会場の前列に座っていたウィル・スミスの妻で、脱毛症であることを公表しているジェイダ・ピンケット・スミスの短髪について、悪質なジョークを発したことでした。

平手打ちをされた後、ロックはぼうぜんと立ち尽くし「ジョークだったのに」と釈明しましたが、ウィル・スミスは「妻の名前を口にするな!」と怒鳴り、怒りが収まる気配はありませんでした。

ウィル・スミスの平手打ちについて、日本でも海外でも広く報道されました。筆者はそのなかでも「ジェンダーの視点から見たコラム」に着目しています。

ドイツのStern誌の編集者であるSarah Stendel氏は、「愛の名のもとで行われる暴力。なぜウィル・スミスのスピーチは事態を悪化させたのか」というタイトルの記事の中で、自分の妻を所有物とみなす男性が、第三者に妻を侮辱されたとき、「暴力で解決した気になる」危険性について指摘しています。

そして、それは「妻が悪いことをしたから、妻を殴った」と語るDVの加害者男性と同じ思考回路であると書いています。

Stendel氏は「ドイツでは平均すると2日半に1度、男性が女性の配偶者または元配偶者を殺害している」「女性の3人に1人が、人生に一度は暴力や性暴力の被害に遭っている」という事実に触れ、「女性の名をあげ暴力をふるう男性にはウンザリ」と切り捨てています。

ウィル・スミスがロックに平手打ちをした後、壇上で涙を流しながら「愛というものは、時に我々を狂わせる。(中略)自分の人生は人を愛するためにあるものだ」などと語ったことについて、Stendel氏は「平手打ちを弁明した際に『愛』という言葉を持ち出したこと」を非難し、一連の行動は「有毒な男らしさ」だと書きました。

今回の騒動を受け、日本では「暴力はいけないけれど、ウィル・スミスは彼なりに妻を守った」という声もありました。

でも筆者は暴力がいけないのはもちろん、そもそもこういった場で「男性は妻を守らなければいけないのか?」と疑問に思います。

女性も自らの言葉で語ることができるわけですから、自分が侮辱されたと感じたら、自分でそのことについて声をあげ苦情を言うことができるわけです。

そして女性が声をあげたら、男性がそれを応援してやることこそが「女性の役に立つこと」です。妻の気持ちを代弁した気持ちになって、男性が勝手に行動することを「頼もしい」とする風潮に違和感を覚えます。

騒動の後、ウィル・スミスは反省し、アカデミー協会の退会を表明しました。

今回の平手打ちは「タイミング」の面でも最悪でした。前述のStendel氏は「世界中が『男による暴力』に震撼している今のタイミングで『男性が自らの強さを暴力で見せつける』ことが問題」だとし、ロシアによるウクライナ侵攻にも触れています。

アカデミー賞授賞式でウィル・スミスがステージに上がる直前、ウクライナの人々をおもんぱかり、会場では黙祷が捧げられたばかりでした。

我々はいま映像を通して「暴力はいけない」ということを毎日のように感じ取っているはずです。でも欧米でもウィル・スミスのビンタ事件について、「妻を守った」「妻をかばった」「愛の証」といった、いわば「昔ながらの男らしさ」を絶賛する声が一部にあるのです。

もちろん全体的な流れでいえば、いま世の中は男女平等に向かっています。

けれども今回のような出来事があると、世間ではいまだに「男らしさ」が美化されやすいのだと感じました。

「女性の気持ちを代弁した気になり暴力に訴える男性」について、世間でそれを称賛するような風潮には気をつけたいものです。