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我が校の「ミスキャンパス」、誰のため? 疑問抱いた大学生、取材して深まった違和感

研究室から見える世界 更新日: 公開日:
写真はイメージ(gettyimages)

■ジャーナリズムをゼミで実践

白戸ゼミは「ジャーナリズムの実践」をテーマに活動しており、今年2月8日の拙稿「『感動』じゃない障害者動画、学生が作った 見た人から届いた、ハッとするコメント」では、日本のテレビにおける障がい者の描き方に疑問を抱いたゼミ生たちの取材成果を紹介した。

今回はゼミ内の別の取材班による活動についての報告である。障がい者問題の取材班と同様に、学生たちは昨年11月3日に学内で開催された「オープンゼミナール大会」で、「誰のためのコンテスト? 立命館におけるミスキャンパスの必要性を考える」と題して取材成果を発表した。

一部大学のミスキャンは「女性アナウンサーへの登竜門」とまで言われ、現に日本のテレビ局には「元ミス〇〇大学」が少なくない。

「そもそもミスキャンって、誰がどのような目的で主催しているの?」「マスメディアは社会的公器のはずなのに、ミスに輝くことがアナウンサーになる事実上の条件と言われる社会はおかしくないか」

オープンゼミナール大会を4カ月後に控えた昨年7月、ゼミの3回生7人(男1人、女6人)は取材班を結成し、対象別に①運営団体と協賛企業、②ミスキャンパス立命館の出場者、③一般の立命館大学生、の三つに分かれて取材を開始した。

運営団体の取材担当になった桐本紗輝さん、田中惟心さん、寺辻穂波さんの3人が「ミスキャンパス立命館2021実行委員会」に取材を申し込むと、実行委の学生2人が応じ、企画の歴史や概要について説明してくれた。

■だれがどう評価?実行委員会の答えは

「ミスキャンパス立命館」の公式インスタグラム
「ミスキャンパス立命館2021」の公式インスタグラム

実行委の説明によると、ミスキャンパス立命館が始まったのは2010年。実行委は有志の集まりで、現在メンバーは19人。全員が立命館大学の学生だが、大学当局に公認された団体ではない。

ミスキャンパス立命館に出場する女子学生は基本的に自薦だが、実行委が「スカウト」と称して出場を促すこともあるという。2021年は5月10日~6月7日に出場者を募集し、応募者の中から7月12日に「ファイナリスト」と称する候補者6人を選出。12月12日の最終審査でグランプリ1人を決定する流れだった。

「なぜ、ミスキャンを毎年開催するのか」との質問に対し、実行委からは「学生の力で何かを成し遂げ、関東の大学に負けずに関西の大学を盛り上げたい。京都の独自性を生かし、京都に寄り添いたい」などと説明があった。

ファイナリストに選ばれた女子学生6人は、グランプリ選出までの約5カ月間、「人間力向上レッスン」と称する「お稽古」に参加し、人前でスピーチする練習などを繰り返す。さらに、茶道などの講習を受ける「文化体験発表」という企画も存在する。

2021年のミスキャンパス立命館には民間企業29社が協賛・協力した。化粧品、美容品販売、脱毛クリニックなど女性の美容に関する企業や、留学あっせんなど若者を顧客としている企業が多い。ファイナリストに選出された6人は、協賛・協力企業の広告にモデルとして登場し、各企業の商品やサービスのPRに貢献する。取材班が29社に取材を申し込んだところ、8社が応じ、広告効果などについて説明してくれた。

「女子学生が人間力向上レッスンを通して自分を成長させ、文化体験発表などによって文化と美を尊重する心を養い、京都という土地の魅力を発信していくことがミスキャンパス立命館の目指すところ。最も優れた形で京都の文化と魅力を発信できる女子学生をファイナリスト、さらにはグランプリに選出しているのであり、容姿で選出しているのではない」。実行委は取材班に対し、そのように説明した。

だが、取材班は実行委に様々な質問をぶつけていく中で、ミスキャンパス立命館の運営に対する疑念を深めていった。最初の出場者募集の段階で、何人が応募してきたのか。この点について実行委は「非公開」を貫き、非公開にする理由についても「答えられない」と回答した。6人のファイナリストは誰が選んでいるのか。審査基準、審査方法、評価項目、評価項目の点数化の詳細はどうなっているのか。これらの点についても全て「答えられない」とし、答えられない理由についても「答えられない」との回答だった。

取材した田中さんは「どのように出場者をスカウトしているのか、誰の評価でどのような点数配分に基づいて審査しているのか。そうした点について、いくら質問しても明確に答えてくれず、うやむやにされて終わりました」と振り返る。

ミスキャンパス立命館2021のツイッターには約1万6000のフォロワーがいる。実行委は「グランプリの決定にあたっては実行委による最終審査に、SNSを利用した一般市民による投票結果が加味される」としている。

だが、SNSによる投票総数は「非公開」。最終審査の審査員は誰か、審査基準、評価項目などは、ファイナリスト選出時と同じくやはり「非公開」であり、非公開の理由についても実行委の回答は「答えられない」であった。

■「理想の女性像」に押し込めていないか

取材班の学生たちは「まるでブラックボックス」と口をそろえる。実行委を取材した桐本さんは言う。「日本のミスコンの歴史を調べれば、長年にわたって容姿を基準にミスを選んできたことが分かります。ところが、多様性が尊重される時代になり、『容姿で選んでいる』とは言いにくくなりました。そこで、文化や魅力の発信といった理由を後から付け足し、実際には実行委メンバーが女子学生を容姿で選んでいるのではないでしょうか。ここまで何も明らかにされないと、そう思わざるを得ませんでした」

佐久間愛莉さん、白坂咲々良さんは、出場経験者を取材した。2018~20年の大会でファイナリストに選ばれた女子学生5人が取材に応じ、応募理由や最終審査までの活動に関する感想などを語ってくれた。白坂さんは、5人を個別に取材したにもかかわらず、5人の話に次のような共通点があったことが強く印象に残ったという。

「全員が『ファイナリストとして半年間、様々な活動を経験することで、自分は成長できた』と判で押したように言っていました。もう一つは、『引っ込み思案だったので、人前で堂々と振る舞える大人になりたかった』『自分に自信を持てなかったので、変わりたかった』など、ミスキャンを通して自分を変えたかったという発言が印象に残りました。自分を成長させたいのならば他の方法もあると思うのですが、なぜミスキャンなのかは、話を聞いてもよく分かりませんでした」

白坂さんの取材報告には、私にも思い当たるところがあった。以前、私との個別面談やリポートで、「大人たちに夢を踏みにじられた過去を思い出すと、自分に自信が持てない」「高校までいじめられた経験があり、暗い気持ちで生きてきた」といった悩みを吐露した女子学生が2人いた。いずれも「だからミスキャンに出場し、自信を持てる人間になりたい」と語り、うち1人は将来の夢として「女子アナ」を挙げていた。

学生たちの取材に対し、ファイナリスト経験者たちは「ミスキャンを通じた成長」を強調する一方、ミスキャンへの違和感も口にした。2019年から、ファイナリストが自己アピール動画を公開し、視聴者に課金する仕組みが導入された。あるファイナリスト経験者は「ミスキャンに夢中なオジサンたちがお金を払ってくれる。課金額を増やすと最終審査で有利になるので、結局は自分らしさを殺して、視聴者に喜んでもらえそうなかわいい女の子を演じなければならなかった」と振り返った。

実行委からはファイナリストに対して「飲酒・喫煙の禁止」「彼氏がいる場合は、SNSに彼氏の写真を掲載してはならない。外で手をつないでもいけない」「深夜のSNS投稿はイメージを悪化させるので控えること」といった「清楚さ」を強調するための数々の指示が出ていた。白坂さんは「協賛企業は若い女性たちに化粧品を売ったり脱毛を推奨したりするために、ファイナリストの女子学生をPRに利用したい。そのために、企業とその背後の消費者が求める理想の女性像の枠の中に、ファイナリストたちを押し込もうとしているように見えました。ファイナリスト自身が選考過程で、そうしたミスキャンの構図に徐々に気付いていったように感じました」と話した。

■学生の支持は根強く見えるが……

有森穂波さん、宮本菜々さんの2人は、立命館大学生にミスキャンについてアンケートを実施し、134人から回答を得た。ミスキャンパス立命館の存在を知っている学生は80%、ミスキャンにポジティブなイメージを抱いていると回答した学生は53%、今後もミスキャンを続けていくべきだとの回答は79%に達した。取材班のメンバーからは、次のような声が上がった。

「私たち自身、取材するまで審査基準が非公開であることを知らなかった。学生たちは、こうした実態を何も知らずにミスキャンを支持している」

「そもそも有志の集まりに過ぎない学生サークルが女子学生を格付けし、企業がそうしたイベントを巧みに利用しているのではないか」

「女性は常に『見られる対象』であり『評価される側』に置かれている。一方に画一的な美の基準での評価を欲する女性が存在し、他方に画一的な美の基準で女性を評価しようとする人々が存在する。今は『美人を選ぶ』とは言えないので、いろいろな理由を後付けして本音を隠しながらミスコンが続いている」

取材班が様々な資料を集めてみたところ、1891年(明治24年)に東京・浅草の凌雲閣で、女性100人の写真を見て誰が一番美しいかを投票で決める「百美人」と銘打ったイベントが開催されたとの記録があった。それから130年。「ミスコンの主催者、出場者、協賛企業、そして観客の私たち。みんな130年前の価値観で止まっていませんか? ミスキャンパス立命館はやめるべきだ」。それが学生たちの出した答えだった。