北極の氷は、世界のトップレベルの科学者らの予想すら超えたスピードで溶けている。北極海から完全に氷が消える日は、近いのだろうか。
少し前まで「21世紀中にも」と言われていたのが、この数年で「2050年」から「2040年」と、どんどん縮まってきた。特に昨年9月、北極海の氷面積が観測史上最小になったことがわかり、「Xデー近し」との見方が強まってきた。
その昨年、「2013年夏にも北極から氷が消える」と衝撃的な予測をしたのは、米海軍大学院(カリフォルニア州)のウィースロー・マスロウスキ教授らだ。
衛星観測による氷面積に加え、潜水艦の音波探知機などによる氷の厚さも調査データに含めており、計算の精度が注目されている。この予測は1979~2004年のデータに基づくものだが、同教授は「今は、2013年という結論に、より一層確信を深めている」と話す。
多くの科学者が「07年の氷の減り具合は特異な現象」と例外扱いしたが、今夏の減り具合も07年に近く、一過性ではないと判明したからだという。
北極海で起きている現象の理由については、温室効果ガスを筆頭に諸説ある。地球温暖化の影響が北極圏で最も顕著に現れるという見方は主流だが、氷が溶けているのは地球温暖化によるものではなく、数十年周期で起きる「海洋の振動で北極海に暖かい海水が流入したため」とする研究者もいる。
氷の溶け方が激しいことで、欧州とアジア、北米西海岸を結ぶ新たな航路の「開通」が現実味を増しつつある。
例えば横浜からドイツのハンブルクに運ぶ船荷は、スエズ運河を経由するのが普通だが、ロシア北方の北極圏を通る「北東航路」を使うと40%もの距離の短縮になる。
アラスカやカナダに沿った「北西航路」でも、アジアと欧州が近くなる。さらに氷が溶けていけば、北極海のほぼ真ん中、北極点そばを通過する航路が開ける可能性もある。
コロンブスやマゼランが世界の海を巡って確立した大陸間交易ルートによる「第1の変化」、パナマ運河やスエズ運河の開通でさらに海上交通が盛んになった「第2の変化」に続く、歴史的な「第3の変化」である。
商業化までの課題はまだ多い。氷が溶けたといっても流氷に衝突する危険は隣り合わせだ。また、氷の減り具合は一定でなく、砕氷船がつきそわなければ航海できない地域もある。リスクがはっきりしないため、損害保険もカバーできていない。
日本の海運業者もまだ様子見ではあるが、燃料高の中、将来的に航路が開けることへの期待は増している。