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脱ロシア「エネルギー独立戦争」、かく戦えり リトアニア外相ら語る

World Now 更新日: 公開日:
リトアニア南部アリートゥスにある変電所=村山祐介撮影

1990年に旧ソ連から独立を宣言した後、30年近くにわたってロシアとエネルギーをめぐる「独立戦争」を戦ってきたリトアニア。電力網の国際連系線などのインフラ構築で、悲願の「脱ロシア」を果たした道のりを閣僚らが語った。(村山祐介)

外相リナス・リンケビチュス(56)

リトアニアにとってエネルギーは安全保障に直結した問題だ。ロシアから強い働きかけや圧力、ある種の脅迫もあった。意に沿わなかったときに『補修だ』などといって石油の供給を止められたこともあった。

突破口は14年に完成した天然ガスの輸入施設だった。この地域、そして欧州における真の「ゲームチェンジャー」になった。必要なガスをすべて調達できるようになり、我々に対して欧州で一番高い価格を突きつけてきたロシアも即座に価格を2割引き下げた。もう我々を脅すことはできない。

そしてスウェーデンとポーランドの国際連系線で大きく前進した。工事中、ロシア海軍が軍事演習を頻繁に始めたのだ。考えられるか? 1カ月に26日間も演習するんだぞ。工事船に航路を変更させたりしもした。こんな軍によるフーリガン行為をするなんて、よっぽど我々が気に入らなかったんだろう。外交ルートで10回抗議したが、ロシアから回答が来たのは一度きり。『何ら法律には触れていない』と!

ただ、我々はロシアとの関係を切りはしない。ガスであろうと石油であろうと、市場で一番安ければ買えばよいのだから。

エネルギー相ジギマンタス・バイチュナス(35) 在任2016年12月~

我々は電力も石油もガスもロシアにほぼ全面的に依存していた。ガス価格は04年に1千立方メートル当たり80ドルほどだったのが、10年ごろには500ドルになった。欧州で一番高い。つまり我々に対する懲罰ということだ。

だがこの数年、エネルギーの安全保障において本当に劇的で、前向きな変化が起きた。バルト3国は「エネルギーの孤島」だったが、スウェーデンとポーランドとの国際連系線ができたことで、電力供給が安定し、電力価格も下がった。社会と安全保障、エネルギーの自立に極めてはっきりした成果をもたらした。

25年に欧州の電力網と連結する計画が、脱ロシアの最終段階だ。ロシアの電力網システムへの最後の依存も断ち切って、技術的に、政治的にも、経済的にも信用できる電力網につながりたい。これでエネルギー独立戦争は完結する。

前エネルギー相(現交通通信相)ロカス・マスーリス(47) 在任2014年9月~2016年12月

旧ソ連から独立を宣言した後、ロシアはエネルギーを「経済兵器」として政治の道具にしてきた。だから我々はエネルギーのロシア依存を脱することを決断した。

06年に石油ターミナル、14年に液化天然ガスの輸入施設、そして15年にスウェーデンとポーランドとの国際連系線が完成して経済的に自立できた。その間、工事船にロシアの軍艦が立て続けに4回も退去を要求してきた。軍事演習をするから出て行けと。バルト海ではかつてなかった異例の事態だ。武力を誇示したかったんだろう。情報システムも何度も、そして日常的にロシアのサイバー攻撃を受けている。

連系線ができたことで、こんな小国でも、あんな巨大で危険な隣国に逆らって、我々が決めたやり方で物事を成し遂げることができたという、国としての誇りが得られた。誰も我々に指図はできないし、手荒に扱うならやり返す。これがリトアニアの魂だ。

国防省防衛政策局長バイドタス・ウルベリス(41)

ロシアの振る舞いや攻撃的な行動、軍備拡大、諜報活動は我々にとって最大の脅威だ。クリミア占領やウクライナ東部、グルジアやモルドバ、そしてシリア。ロシアは必要と判断すれば軍事力を使う。それも我々がかつて見たこともないようなやり方でだ。この地域には核弾頭搭載可能なミサイルも配備された。戦略爆撃機が核攻撃を想定したような飛行をするなど冷戦期と同じような動きを見せている。ロシアがどう出るかは予測できない。弱点を探し、あらゆる機会を利用するだろう。

我々はエネルギーとサイバー攻撃、移民や金融危機など非軍事的な要素も組み合わされた、あらゆるシナリオに備えている。国を不安定化させたければ、混乱状況を作り出せばよい。サイバー攻撃や送電線の切断で、停電してインターネットも銀行も街灯もないまま1週間過ごす状況を想像してみればいい。スウェーデンやポーランドとの国際連系線は国の安全保障でもあるのだ。

その工事の間、ロシア海軍は実弾をつかった軍事演習を重ね、民間の船舶を回り道させた。友好的な振る舞いではない。我々もヘリと艦艇を周辺海域に出動させた。ロシアの行動にいつも理由があるわけではないが、送電線建設にぴったり符合していた。