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『アメリカが中国を選ぶ日』著者に聞く 米英豪が「対中国」で手を組んで起きること

揺れる世界 日本の針路
オーストラリア国立大のヒュー・ホワイト教授=牧野愛博撮影

――AUKUSの目的と背景をどうみますか。

4つの要素があると思う。第1に、AUKUSは、フランスから通常動力型潜水艦を導入する計画で浮上した深刻な問題への対応策として生まれた。仏との計画では、費用やスケジュール、技術的なリスク、オーストラリアの産業にとって可能な作業量などが問題になっていた。

(※当初は約500億豪州ドル=約4兆300億円=とされた建造費用が約900億豪州ドル=約7兆3千億円=に増え、2020年代前半から始まる予定だった潜水艦の就役時期も大幅に遅れる見通しになっていた)

第2に、これらの問題に取り組むうえで、豪州政府は、数十年先に考えられるより脅威的な環境での戦略ニーズを満たすため、原子力潜水艦が必要だと強い助言を受けていた。

第3に、豪州政府は、通常動力型潜水艦から原潜に切り替えるのであれば、フランスとの計画を放棄することは、それほど恥ずかしいことではないと明確に考えていた。原潜に切り替えることで、フランスとの計画が誤っていたと認めるのではなく、新しい推進システムに移行する必要性があったと主張することができるからだ。

第4に、豪州政府は、中国の脅威の高まりに対応するために、米英豪の戦略的関係をできる限り構築することを熱望している。

中国による脅威を受けるほど、オーストラリアは古い「アングロサクソン」同盟国に対する伝統的な依存に戻っていくようだ。アングロサクソン同盟は、ますます不確実性を増す地域に安心を提供しているようにも見える。

――AUKUS構想を事前にご存じでしたか。

オーストラリア政府がフランスとの計画を巡る問題を懸念していたことも、代替策として原潜に興味を示していた事実も、かなり前から明らかになっていた。

また、原潜への代替策を選んだ場合、米英両国の技術へのアクセスを求めることが自然だという考え方も、周知の事実だった。ただ、私は発表の約2週間前にうわさがキャンベラ周辺で出回り始めた頃まで、具体的な提案については何も聞いていなかった。

――AUKUSとQUAD、ファイブ・アイズとの関係はどうなりますか。

私は、AUKUSがQUADやファイブ・アイズに対するオーストラリアのコミットメントに影響を与えるとは思わない。豪州政府は、お互いに補完し合う関係だとみている。

バイデン米大統領、ジョンソン英首相との共同記者会見に臨むオーストラリアのモリソン首相=2021年9月16日、AAPIMAGE via Reuters Connect

――モリソン豪首相は、核兵器を保有しない考えを示しました。オーストラリアの世論と専門家のAUKUSに対する評価を教えてください。

豪州政府の「核兵器を手に入れるつもりはない。豪州には核兵器保有について国民の支持基盤がない」という説明は非常に誠実だと思う。豪州世論は、政府が発表したAUKUSの枠組みでの原潜導入計画に好意的に反応したようだ。驚くべきことに、原子力の安全面に対する懸念は提起されていない。

専門家の意見はもう少し複雑だ。多くの専門家は、新たな潜水艦が稼働するまでに非常に長い期間がかかることや、重要な民間の原子力部門を持たない豪州が原潜を操作し、維持することの難しさ、そして政府が計画する、オーストラリアで潜水艦を建造するという巨大な技術的課題について懸念を提起している。

また、潜水艦が就役した後、米国と英国にどれだけの支援を求めるかを巡っても、潜水艦運用を巡る主権と独立性を損なう可能性があるという懸念が出ている。 私を含む一部の専門家は、果たして、原子力を運用することについて利点があるという意見が、困難と欠点を指摘する意見を上回るだろうかと疑っているし、プロジェクトの実現に疑念を抱いている。

――豪州と中国との関係はどうなりますか。豪州経済は打撃を受けませんか。

AUKUSは、中国との「新しい冷戦」のなかで、豪州がワシントンの支援に全力を尽くすことを確認した。これは、対中関係が過去18カ月間に見られた非常に深刻に冷却した状態から回復しないことを意味する。もし中国がオーストラリアからの輸入を制限して豪州を処罰する新しい方法を模索すれば、対中関係は間違いなく悪化するだろう。

もしそうなら、オーストラリア経済への本当の影響は短期ではなく、長期に及ぶことになる。短期的には豪州は数多くの輸出品で代わりの市場を見つけることができるが、長期的には、中国における未来の経済の機会に代わるものを見つけられないからだ。

――AUKUSは日豪安全保障協力にどのような影響を与えますか?

豪州政府は、日本との緊密な安全保障協力は、中国の増大するパワーと影響力への対抗策の重要な一部であり、AUKUSと互換性を持ち、相互に強化するものだと明確に判断している。可能な限り日豪協力が発展することを熱望しているし、原潜導入の決定が、日本の戦略的パートナーとしての豪州の地位と信頼性を高めることが望まれる。しかし、その協力がどこまで発展するかは、東京が日中関係をどのように位置づけるのか、豪州による原潜導入が賢明な動きであると、東京が信じるかどうかにかかっている。

より広い意味では、オーストラリアと日本の将来の戦略的なつながりは、今後の両国の戦略的利益と目標がどこまで一致するかにかかっている。明らかに、日豪両国は中国に懸念を持っており、両国ともに米国の支援と保護を求めている。しかし、それが今後数年間にわたる本当の協力を支えるために十分なものかどうかは、まだ明確になっていない。


Hugh White 豪首相・国防相の上級顧問(1985~91)、国防副次官(1995~2000)、豪戦略研究所長(2001~04)などを歴任。中国の台頭と米中関係の未来を予測した著書『THE CHINA CHOICE』は大きな反響を呼び、日本でも『アメリカが中国を選ぶ日』(勁草書房)として和訳出版された。