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日本に来ると実感する、チップを計算しなくていいありがたさ

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:
北村玲奈撮影

日本に来るとほっとする。単に日本が安全で清潔で、たいていのことは円滑に進み、人々が親切で礼儀正しく、食べものがすばらしいから、というだけではない。

私が肩の荷をおろせるのは、滞在中にチップを計算しなくてもいいからだ。レストランでもバーでもタクシーでも、ドアマンやツアーガイドやホテルのスタッフに対しても。天国である。

これがどれほどすばらしいことかお気づきだろうか。アメリカやカナダを旅行したことがある方なら、日本のチップ不要文化をありがたく思うことだろう。

一番ややこしいのがレストランだ。コロナ禍の今はニューヨークの店で食事することもないので、正直安堵(あんど)している。それはそれは高額な会計の15%を計算し、すでに対価が支払われているホールスタッフや食器の片付け係に、自発的とされる余分な支払いをしなくてもいいのだから。

アメリカ人ですら自国のチップ文化を嫌っている。疲れるし、威圧的で、とにかく高い!

「自発的」と書いたが、アメリカでチップを払うかどうかは、客の意思に任されているわけではない。もしも意図的に払わずに店を出ようものなら、店の人はここぞとばかりに外の道までついてきて、非礼をとがめるだろう。

私はチップの計算が本当に苦手だが、食後にわざわざ携帯を取り出して電卓をたたくようなケチな人に見られたいと思う人はいないだろう。

だいたいチップというのはごく気軽に、喜んで、考え込むことなく渡すものであって、厳密に計算されるべきものではない。そんなの1円も渡さないより恥ずかしいことだ。

■各国で異なるチップ文化

チップ文化はほかの国ではどうなっているのだろう。中国、韓国、シンガポールは日本とかなり近く、事実上チップがない。旅先でもいつもの習慣を守らずにはいられないアメリカ人は別として。

東南アジアの国々やインドでも、チップの支払いを求められるのは観光客だけだ。それもタイのサムイ島やベトナムのホイアンなど、西洋人が大挙して訪れる場所に限定されているのは幸いなことだ。

南米やヨーロッパでは国によって微妙に異なり、豊かな国ほどチップを求められることが多い。おかしな話だ。

フランスのレストランでは、食事代にサービス料が上乗せされる。それでも、お客はさらに1、2ユーロをテーブルに置いていく。ヨーロッパでは大体どこでもそうだ(イタリアのレストランでは姑息なチャージ料「コペルト」をとられることもある)。

イギリスはより複雑だ。特に大都市では最近、チップを求められるようになってきた。金額はほんの気持ち程度(1ポンドくらいか)から食事代の20%まで様々で、たいていはお勘定にすでに含まれている。そうと知らずにチップを2度払ってしまう外国人も多い。1度は会計のときに、もう1度はテーブルにいくらか残す形で。

私の暮らすスカンディナビア地域では、ホールスタッフはごくまっとうな待遇を受けているのでチップは全く期待されていない。だからこそ私はここに住んでいるのだ。

コロナ禍によって、チップを払う圧力が強まる地域があるかもしれない。ロックダウン下で破産を免れた店も、厳しい経営状況に直面している。賃金が極限まで切り詰められるようになり、どの店の従業員にとってもチップの存在はこれまで以上に重要になるだろう。

再び私たちが旅に出られるようになったら、こうした状況を思い出そう。その時ばかりは、私も喜んでチップを払うつもりだ。(訳・菴原みなと)