日本で韓国の本の人気が年々高まっている。映画化でも話題になった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著)だけではない。小説「アーモンド」(ソン・ウォンピョン著)が2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位に輝いたほか、エッセイや絵本まで幅広く韓国の本が翻訳出版され、よく売れている。11月28、29日には、K-BOOKフェスティバルがオンラインで開催され、小説「菜食主義者」の著者ハン・ガンさんら人気作家のトーク、翻訳者の座談会などが日本の読者向けに配信された。
「菜食主義者」は英国の文学賞マン・ブッカー国際賞を受賞したことでも知られる。日本でいち早く韓国文学の翻訳を手がけ、韓国文学ブームのきかっけを作った出版社「クオン」が2011年、「新しい韓国の文学シリーズ」として1冊目に刊行したのが「菜食主義者」だった。シリーズはこれまで20冊が刊行されているが、このうち3冊がハン・ガンさんの作品で、あとの2冊は光州出身のハン・ガンさんが光州事件について書いた小説「少年が来る」、そしてハン・ガンさんのエッセイ集「そっと静かに」だ。
この3冊を含めハン・ガンさんの作品は計6冊が日本で翻訳出版されている。「日本が一番多い」とハン・ガンさんは話していた。この6冊を翻訳した翻訳者4人による座談会を聴いた。
「菜食主義者」の翻訳者、きむふなさんは「菜食主義者」について「外国語に翻訳されるのにいい。平易な単語で簡潔な文章」と言う。「少年が来る」の翻訳者、井手俊作さんもこれに同意し、「こう訳す以外ないだろうという文章」と話した。
一方で、「ギリシャ語の時間」「すべての、白いものたちの」「回復する人間」の3冊を翻訳した斎藤真理子さんは、ハン・ガンさんを「繊細な作家」と言い、「美術的、視覚的な表現、特に色の表現を翻訳するのが難しかった」と話した。韓国語は色を表す言葉が非常に多いためだ。
「そっと静かに」の翻訳者、古川綾子さんは、「音楽について書いたエッセイだったため、1980年代の流行歌や韓国の伝統芸能パンソリなどを聴き、歌詞を確かめながら翻訳した」と話した。
翻訳者の座談会に続き、ハン・ガンさん本人のトークもあった。きむふなさんが進行を務め、事前に募集した読者からの質問にハン・ガンさんが答える形で進められた。
「ご自身の作品で一番最初に読んでほしい作品は?」の質問には「韓国では『少年が来る』と答えている。日本の読者には『ギリシャ語の時間』や『すべての、白いものたちの』の方が身近に感じられるかもしれない」と答えた。
韓国で「少年が来る」を最初に読んでほしい本として挙げる理由については、「光州事件から40年が過ぎたが、いまだに解決されない、誤解の多い事件。歪曲され、隠ぺいされた事件の真実を小説を読むことで感じることができれば、と思い、特に若い世代に勧める」と話した。さらに「多くの関係者が存命の事件で、資料調査には力を注いだが、そのせいか悪夢を見ることも多かった。小説は3行書いたら1時間泣いて、というのを繰り返しながら書き進めた」と、つらかった執筆作業について振り返った。
ハン・ガンさんのトークには、平野啓一郎さんがスペシャルゲストとして登場し、「コロナの経験は作品にどう影響していくのか、具体的にアイディアはありますか?」とハン・ガンさんに質問を投げかけた。「コロナ時代については私も悩み、いろいろ考えている。パンデミックのみならず、人類の未来に関して皆が悩み、考えている状況で、コロナについて書くというよりも、人類に対する心配、不安がこれからの小説に溶け込んでくるのではないかと思う」と答えた。
ハン・ガンさんのほか、K-BOOKフェスティバルではエッセイ作家のキム・スヒョンさんのトークもあった。日本ではキム・スヒョンさんのエッセイ「私は私のままで生きることにした」の販売部数が40万部を突破しており、韓国書籍の日本語版の販売部数としては歴代最多記録となっている。防弾少年団(BTS)メンバー、ジョングクの愛読書として話題になったことも影響したようだ。
ドラマの影響も見られる。「サイコだけど大丈夫」に登場する童話作家コ・ムニョン(ソ・イェジ)がドラマの中で出した絵本5冊が実際にも韓国で発売されて脚光を浴びると、すぐに日本語版も出版され、ドラマファンの間で人気となっている。また、Netflixオリジナルドラマ「保健教師アン・ウニョン」が9月に配信されると、原作の小説「保健室のアン・ウニョン先生」(チョン・セラン著)が注目を集めるなど、韓国書籍とK-POPやドラマの人気が相乗効果を見せている。