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北朝鮮とのタフな交渉、疑い深い相手との接し方 元トップ外交官の目

揺れる世界 日本の針路
元駐米大使の佐々江賢一郎氏=牧野愛博撮影

インタビューシリーズ「金丸訪朝30年 日朝外交これまで、これから」

  1. 金丸信吾氏(金丸信・元副総理次男)
  2. 田中均氏(元外務審議官)
  3. 石破茂氏(衆院議員)
  4. 佐々江賢一郎氏(元駐米大使)
  5. ジェームズ・ケリー氏(元米国務次官補)=10月1日配信予定

――まず、核・ミサイル開発ですが、どうして解決できないのでしょうか。

最大の根本的な問題は、北朝鮮が交渉相手に抱く深い猜疑心だ。常に相手を疑い、「自分たちをだまそうとしているのでないか」と考えている。このため、可能な限り、核やミサイルを温存しながら、暫定的な合意に持ち込もうとしてきた。

それでも、当初は北朝鮮にとって核・ミサイル開発は生存のための手段だった。それがいつの頃からか、目的そのものに変化した。

1994年の米朝枠組み合意に基づき、北朝鮮に軽水炉を提供する朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が機能していたころは、北朝鮮も、米国の出方によっては最終的に核放棄に応じても良いという考えだったのではないか。この頃は、まだ北朝鮮の核開発の水準は低く、米国の関心も核不拡散に向いていた。

ところが、北朝鮮は6度の核実験を実施し、多数の中距離弾道ミサイルを持ち、米本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)まで開発した。脅威は格段に上がり、北朝鮮もせっかく開発した核・ミサイルを維持したい意欲が強くなってきたようだ。北朝鮮の現在の戦略は、米国など国際社会に核保有を認めさせることに変化し、交渉はさらに難しくなった。

――交渉のタイミングを逸したとも言えますが、どうしてそのような事態を招いたのでしょうか。

米国は政権ごとに外交の優先課題、アプローチ、担当者が変わるからだ。

J・W・ブッシュ政権は6者協議を推進し、2005年9月の共同宣言や、2007年2月のロードマップ合意を達成した。

だが、北朝鮮が核開発の申告・検証に消極的で、見返りを含め、一つ一つの行動をサラミのように薄く切って分けたため、協議が進まずに時間切れになってしまった。

2005年9月に北京で開かれた6者協議。会議を前に握手する(左から)ロシアのアレクセーエフ外務次官、日本の佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長、中国の武大偉・外務次官、米国のヒル国務次官補、北朝鮮の金桂寛(キムゲグァン)・外務次官、韓国の宋旻淳(ソンミンスン)・外交通商次官補=北京の釣魚台国賓館で、代表撮影

オバマ政権は米朝協議に慎重で、中国や国連を使って北朝鮮に圧力をかけたり、対話を迫ったりした。中国は協力もしたが、北朝鮮を徹頭徹尾、追い詰めることはなく、結果的に中国に逆に利用される格好になってしまった。

トランプ政権は発足当初から北朝鮮が挑発を続けたため、大きな課題になり、米朝首脳会談に結びついた。

だが、首脳と事務レベルとの認識に大きな違いがあった。2019年2月のハノイでの第2回米朝首脳会談では、米国は事務レベル協議で包括的な核放棄の合意が必要だと伝えたのに、金正恩氏にはきちんと伝わっていなかった。交渉が行き詰まるなか、米国の関心が北朝鮮から別の問題に移ってしまった。

■けんか腰で交渉は成り立たない

――北朝鮮外交官との交渉は難しそうですね。

本当に交渉したいなら、大きな声で強く相手を責めるだけでは成果を得られない。自分たちの立場を主張することは大事だが、相手を交渉者として認めることも大切だ。

日本の場合、世論が日本人拉致問題を引き起こした北朝鮮に厳しい態度で臨むことを望む空気がある。ただ、人間的な話し合いもなければ、北朝鮮側は心を開かないだろう。

特に北朝鮮の場合、常に交渉相手を疑っていて、「自分たちをだまそうとしているのではないか」「裏をかかれるのではないか」と考えている。こちらの発言が本当なのか、必ず検証しようとする。北朝鮮の表舞台の交渉者には常に監視がついているため、うかつなことも言えない。

ただ、善人が悪事を働くこともあれば、悪人が善行を施すこともある。北朝鮮も全て悪人ばかりということはない。交渉の際に強硬な姿勢を見せていても、時折、個人的な違う顔をのぞかせることがある。そのときを逃さずに、こちらが反応できる感性があるかどうかも重要だ。

また、北朝鮮では本当の権力者は前面に出てこない。どうやってディープ・ステート(権力機関)とつながるのかも大事な問題だ。

金丸訪朝団など、1990年代に相次いだ日本の政治家の訪朝をみても、最初からけんか腰では交渉は成立しないことは明らかだ。

同時に、金丸訪朝団は北朝鮮に一方的に譲歩したという批判がある。北朝鮮にとっての最大の懸念は常に米国であり、その他の国は二次的なものだ。日本は、北朝鮮にとって、経済協力をしてくれる相手、あるいは米国の対北朝鮮政策を和らげてくれる存在として期待しているだろう。

1990年9月26日、北朝鮮・妙香山の招待所で握手する金丸信元副総理(左)、金日成・北朝鮮主席(中央)、田辺誠社会党副委員長=同行記者団撮影

――日本が最大の懸案事項に据えた拉致問題も進展していません。

日本は「拉致問題が解決しない限り、国交正常化はしない」としている。北朝鮮が死亡したと主張する被害者について確証を得ていないから、当然、日本に帰すよう求める。北朝鮮もそれ以上回答しないという状況で、行き詰まっている。

北朝鮮としては米朝協議を先に進め、米朝が動けば日本も動くだろうと計算している。でも、日本は過去、6者協議で合意した北朝鮮に対するエネルギー支援をしなかったこともある。

――独裁国家の北朝鮮に経済支援する意味がないから、正常化しない方が良いという意見もあります。

確かに、金正恩体制を強く締め上げるべきだという声はある。北朝鮮の体制をどのように評価するのかが重要だ。北朝鮮は90年代、飢餓で大勢の人が死んだが、独裁体制は続いている。経済の一部も自由化しており、今日明日にも体制が崩壊するということはないだろう。

体制が続くという前提であれば、接触した方が良い。例え、敵対国であっても、対話が全く無い状態は危険だ。冷戦時代の米ソも対話は続けた。相手との距離を測るだけでも意味がある。対話しないと、何も動かない。

制裁や経済支援などを組み合わせ、大きな枠組みのなかでギブ・アンド・テイクの関係を築くべきだ。部分的な合意はだめだ。核やミサイル、日米などとの国交正常化、安全保障体制などをすべて含む包括的合意がなければ、意味がない。もちろん、日本にとってはそのなかに拉致問題が入る。

■日韓、いがみ合っている時間はない

――今後、北朝鮮を巡る交渉をどう展望しますか。

ひとつは、11月の米大統領選がどうなるのかだ。北朝鮮は案外、民主党を好むかもしれない。トランプ政権は対話にも応じたが、一時は本当に北朝鮮への武力行使も検討していたからだ。トランプ氏、バイデン氏のどちらが当選するにしても、米国の北朝鮮に対する関心が下がっているので、北朝鮮は一時的に軍事的挑発を行って、緊張を高めようとするかもしれない。

米中関係が悪化しているなか、中国が米国との関係改善に役立つと判断すれば、北朝鮮の非核化に本腰を入れる可能性もある。中国も北朝鮮の非核化は望んでいる。自らに有利な形で、朝鮮半島の安定を損ねてまではやらないという条件付きではあるが。

日本は辛抱強く、交渉を促進させるしかない。米国と協調し、何が長中短期のゴールなのかすり合わせるべきだ。ミサイル防衛などの抑止体制を強化しながら、交渉の再開に持っていく。北朝鮮との間で、お互いの要求事項が何なのかをすべて並べ、専門家が解決の順番や期間について再度議論すべきだ。

2002年の日朝平壌宣言に基づいて交渉してもいいが、改めて北朝鮮に確認を取らない方が良い。確認しようとすれば、北朝鮮は対価を求めてくる。

また、関係国と北朝鮮との交渉は同時並行的に進めるべきだ。バラバラに進めると、自国の利害を優先させようとして、足並みが乱れる。

その意味で、日韓関係は重要だ。両国の一部に、相手を敵視する声があるが、弾を撃つ方向を間違えていると言いたい。北朝鮮が核・ミサイル開発を続けているなか、地域の安全保障を含めてそれぞれのより大きな国益を考えれば、日韓がお互いに角を突き合わせている時間はない。

■次回は北朝鮮をめぐる6者協議の米国代表を務めた元国務次官補のジェームズ・ケリー氏に米国の視点を聞きます。(10月1日配信予定です)