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【石破茂】「北朝鮮は恐ろしい」では交渉は動かない 政治は世論の誘惑に負けるな 

揺れる世界 日本の針路
石破茂元幹事長。2020年9月の自民党総裁選演説会で=東京・永田町の自民党本部、遠藤啓生撮影

インタビューシリーズ「金丸訪朝30年 日朝外交これまで、これから」

  1. 金丸信吾氏(金丸信・元副総理次男)
  2. 田中均氏(元外務審議官)
  3. 石破茂氏(衆院議員)
  4. 佐々江賢一郎氏(元駐米大使)
  5. ェームズ・ケリー氏(元米国務次官補)=10月1日配信予定

■現実は北朝鮮に有利に動いている

――なぜ、日朝関係は30年も動かないのでしょうか。

与野党問わず、多くの政治家が「北朝鮮は悪逆非道な国だ」と決めつけて、問題を解決するよりも、「北朝鮮は恐ろしい」と考える国民世論の支持を得ようとしてきた。この主張には、「北朝鮮はやがて崩壊するに違いない」「本当の米朝戦争は起きない」という二つの前提があったと思う。

この主張が繰り返されたため、30年前よりも「北朝鮮はとんでもない国だ」という意識が強まり、日朝関係は改善されなかった。

――ご自身も1992年に訪朝されていますね。

「地上の楽園ではないだろう」と思っていたが、一度この目で確かめたかった。金丸訪朝団が作った関係を発展させる超党派訪問団に参加した。平壌の空港に着いたチャーター機は滑走路の端に止まり、出迎えもなかった。

マスゲームでは、白馬にまたがった金日成主席が北朝鮮の人々をいじめる日本兵を打ち倒す物語が展開した。平壌市内の視察では、案内役の日本人妻がビルを指さして「首領様の指導のお陰で、予定よりも早く建設できた」と褒めたたえた。学生少年宮殿では、英才教育を受けていた10歳くらいの少女たちが、一斉に同じ笑顔を浮かべて私たちにあいさつした。高麗ホテルからみた夜景は、暗く映画のセットのようだった。

世界の色々な国に行ったが、こんな国が本当にあるのかと思った。徹底した独裁、個人崇拝、恐怖政治、マインドコントロールを行っている。訪朝後に会った韓国の国会議員に「怖い思いをした」と打ち明けると、「金日成が統治しているうちは大丈夫だ。彼は自分が神ではないと知っている。だが、息子(金正日総書記)は自分を神だと錯覚するかもしれない」と言われた。

私は農政に携わっていたが、それから防衛の仕事を始めた。

――では、世論が「北朝鮮を恐ろしい国だ」と思うことも自然な現象ですね。

世論が浮ついているとは思わない。突然、自分の家族が姿を消し、それが北朝鮮による拉致だったのであれば、怒りがわき起こるのは当然だ。横田めぐみさんは拉致被害の象徴であり、ご両親も立派な方だったから、世間の共感を集めたのだと思う。

世論が「北朝鮮はとんでもない国だ」と考えるのは自然であり、拉致被害者家族の方々が「北朝鮮は許せない」と思うことも当然なことだ。
ただ、政治には常に「国民の共感を得たい」という誘惑がつきまとう。そこに問題があったと思う。

2002年10月、拉致被害者が24年ぶり帰国。チャーター機から降りる、前列右から地村保志さん、浜本富貴恵さん、2列目右から蓮池薫さん、奥土祐木子さん、その左奥は曽我ひとみさん=吉村功志撮影

――前回や今回の自民党総裁選で、日朝が相互に連絡事務所を作ることを提案しました。

今の状況が続いても、何も解決しない。北朝鮮にしてみれば、「将軍様(金正日総書記)が拉致を認め、謝罪した。だから、日本は評価して関係が劇的に改善するに違いない」と思っていたのだろう。だが、日本はますます怒り、お互いの不信感だけが募った。

また、北朝鮮は体制が崩壊した他の国の例を徹底的に研究したはずだ。ソ連は国民に真実を知られたから、ルーマニアは軍隊を大事にしなかったから、リビアとイラクは核兵器を持っていなかったから、それぞれ崩壊したと考えているようだ。

こうした状況が相まって、拉致問題は解決せず、北朝鮮は核とミサイル開発を着々と進めた。これが30年間に起きた事実だ。政治家は「北朝鮮は許せない」と言うが、現実の状況は北朝鮮に有利に動いているという認識を持つべきだ。

本当に拉致被害者の方々が亡くなっているのか、北朝鮮の主張が間違っていないのか、国と国の立場から交渉すべきだ。連絡事務所をまずつくり、一歩ずつ信頼を作ることから始めるしかない。

■敵基地攻撃能力の前にやることがある

――北朝鮮のミサイルを巡っては最近、敵基地攻撃能力の保有を巡る議論が起きています。

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を唐突に廃棄したことから始まった。元々、イージス艦を日本海に常に配備するという負担を軽減するのが目的だった。イージス艦はミサイル防衛が専門ではないし、南西海域に回した方が良いという意見もあった。海上自衛隊の負担軽減という目的はどうなったのか。いきなり、敵基地攻撃能力の保有を議論することには、論理の飛躍がある。

北朝鮮が2019年10月に発射した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」型=労働新聞ホームページから

「座して死を待たず」「被害が出てからでは遅い」という意見もある。「敵が攻撃に着手した段階なら、敵基地を攻撃できる」という着手論も論理的には正しい。

しかし、北朝鮮は固体燃料を使った弾道ミサイル開発を進めており、何時間も猶予があるわけではない。金正恩氏が「日本を攻撃する」と明言する保障もない。着手論を根拠にして敵基地攻撃を行うのは難しい。北朝鮮は移動発射台も保有しているから、どこからでも撃てる。

トマホーク巡航ミサイルを米国から購入するにしても、攻撃目標をプログラムするためには米国の情報協力が必要だ。速度も遅いから、途中で迎撃されるかもしれない、

敵基地攻撃能力の保有を目指す前に、外務省や陸海空自衛隊などの専門家が参加して米国との間で総合的な戦略をつくるべきだろう。

――北朝鮮に対する戦略も含め、日韓関係をどうすべきでしょうか。

個人は嫌いなら絶交すれば良いが、国は引っ越すことができない。日本人は果たして、どこまで韓国のことを知っているのか。

最近、小室直樹や岡崎久彦の著書を読んだが、いずれも「日本の最大の間違いは、朝鮮半島に対する同化政策だった」と指摘していた。

日本はよかれと思って、鉄道やダムなどのインフラ整備や教育を行った。朝鮮戦半島の人々にしてみれば、国がなくなったわけだから、喪失感があった。また、今の南北分断のルーツは日本による朝鮮併合がある。今の世代になっても、その責任はある。

そういったことに思いを致さず、ひたすらに相手をあしざまに言うことは許されないだろう。関係が悪化するなかでも、相手のことを知る努力をすべきだ。

日韓関係の改善は日本の安全保障のためでもある。逆にいえば、日朝関係の改善は、日韓関係をより正常に近づける助けになるだろう。

■次回は北朝鮮問題を巡る6者協議の日本代表も務めた、佐々江賢一郎元駐米大使に聞きます。(9月30日配信予定です)