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カリフォルニア発「代替肉」の快進撃 新時代の食習慣へ

サンフランシスコ 美味しいフード&ライフスタイル
見かけも味も肉に近いインポッシブルバーガー @Impossible Foods

アメリカで植物性食品の消費が急増している。菜食主義者、ビーガン食主義者に加え、「フレキシタリアン」と呼ばれる人達が増え、脱肉依存ムーブメントの中心になっているためだ。フレキシタリアンとはフレキシブル(柔軟性)とベジタリアン(菜食主義者)を組み合わせた言葉で、環境意識が高く、肉や魚は極力少なく食べ、野菜中心のバランスの良い食生活を送る人たちのこと。「ウェルビーイング」(心身健康で社会に貢献した生き方)がトレンドになっているサンフランコ周辺では、特にこの傾向が強い。

この脱肉依存ムーブメントの牽引役となっているのは、いち早く植物由来の代替肉を開発したスタートアップ「インポッシブルフーズ」と「ビヨンドミート」だ。両社共、年々悪化する気候変動の改善をミッションに掲げ、「工業的畜産」ビジネスの危険性に警鐘を鳴らしている。

今年からスーパの小売店も始めたインポッシブルフーズ @Impossible Foods

インポッシブルフーズ社によれば、一個のハンバーガーを代替肉に変えるだけで、温室効果ガスを約87%、家畜を飼育するための土地面積が95%、家畜に与える水の量は74%削減でき、家畜のゲップや排泄による大量廃棄物を無くす事で環境破壊を防げるとしている。要するに人間は、この何十年間で家畜を危険水域まで増やし、過剰摂取しているというのだ。

新型コロナの感染拡大もムーブメントの追い風になっている。世界の流通が不安定となり、グローバル化が進んだ食糧調達を危惧する人や、家で料理をする人が増えた事で、安全と健康を重視した食の価値が再認識されているからだ。しかし肉食という「習慣」は簡単に変えられるものでもない。そこで両社は、えんどう豆や大豆を原料に、肉と同じ風味や味を再現しつつ、肉の栄養価はそのままに保った「フェイクミート」を完成させ、往年の肉好きをも脱肉に導いている。

PRイメージはポップでカラフル。若年層に支持されている@Impossible Foods

創業者はビジネスマンではなく思想家

ベンチャー企業の聖地、シリコンバレーには、「世界を変えよう」と様々なアイディアをひっさげた20代~30代の若きドリーマー達が集まってくる。毎日のように尖ったビジネスプランが生まれては消えてゆく。60歳を前にしたインポッシブルフーズ社の創立者、パトリック・ブラウン氏は2011年、まだ当時話題になっていなかった「植物由来代替肉」を掲げ起業した。

ブラウン氏は、スタンフォード大学で生物名誉教授として長年勤めていた。これまで生科学者、研究者として数々の賞を受賞し、輝かしいキャリアを持つ。名門、スタンフォード大学の教授と言えばまさに夢の職業。高所得で充実したラボで自由に研究ができる。もちろんリッチな老後生活も約束されている。

しかしブラウン氏は、その安定した生活を蹴って「自分が果たすべき使命がある」とリスクを伴うスタートアップを立ち上げた。残りの人生を賭けてのポリシーは一つだけーー「気候変動から地球を守りたい」。

それは生科学者としての使命だった。「もし全人類が肉中心の食生活をすれば、地球は三つでも足りない」とブラウン氏は言う。ブラウン氏が目標とするのは、狭い土地や施設に何千頭の家畜を押し込め人工飼料で強制成長させる「工業的畜産」の根絶だ。この畜産法は環境だけでは無く人間の健康にも被害を及ぼすという。また、一頭の牛から得られる動物性タンパク質は僅かで効率が悪い。この悪循環から脱却するには、肉食人口を減らす必要があるが、そのためには、肉同様に美味しく栄養価の高い代替肉を作るしかない。そう考えたブラウン氏は、植物を原料にした「肉」の開発に全身全霊で挑んだ。

数々の植物から科学的なフェイクミートを完成させた @Impossible Foods

肉の香りと性質を再現した「ヘム」の発見

ブラウン氏がこれまで培った生化学の知識と研究心が「ヘムの発見」というミラクルを起こした。ヘムとは、大豆根粒の中に含まれるレグヘモグロビンで、鉄分を含むタンパク質だ。生化学と遺伝子工学を駆使し抽出した「ヘム」を原料に代替肉の血液に相当する化合物を開発したのだ。生肉赤身の特徴を再現できる色素は、ヘモグロビンに見られる細胞で、生だと赤、焼くと茶色になり、味も微量の鉄分を含む肉らしい味わいの魔法の液体だ。しかしヘムは大量の原料に対し僅かしか抽出できない為、ヘムを培養をさせる技術も進化させている。

同社の戦略プランは、まずアメリカの国民食であるハンバーガーを代替肉に替える事。「South Florida Reporter」によれば、一年に全米で平均約500億個のハンバーガーが食べられているという。その全て、せめて半数でも植物由来代替肉に代える事ができれば、環境改善に大きなインパクトを与え、肉食依存の人たちの健康改善にもつながると考えている。

インポッシブルフーズ社は去年、食品生化学の集大成とも言える「impossible burger2.0」 を発売した。進化した代替肉はさらに肉味に近く食感もふくよかでジューシーだと評価が高い。しかもグルテンフリーなので、さらなる市場を取り込みそうだ。

「ビヨンドミート」と「インポッシブルフーズ」

一方、ロサンゼルスに本社を置く「ビヨンドミート」は、2009年、再生エネルギーエンジニアとして従事していたイーサン・ブラウン氏が起業した。同社は、去年5月に株式を上場し、初日に時価総額38億ドル(約4000億円)をつけるなどして、飛躍的なシェアを国内外に広めている。両創業者の環境問題に取り組む使命感は一致しているが、決定的な違いは、市場戦略と食材にある。

アジアに進出したビヨンドミート。食料危機の対応にもムーブメントは広がる ©Beyond Meat

「ビヨンドミート」の戦略は、2013年、米国最大手自然食品系スーパーの「ホールフーズ」からスタートした。ターゲットは環境、健康意識が高い消費者だったが、徐々に消費者のニーズが多様化したことから、現在では一般大型スーパーやファミレスにも参入。代替肉ハンバーガー、チキンナゲットをファストフード店にも供給し、海外進出を果たして世界市場を見据えた快進撃を続けている。

一方、「インポッシブル」は初年度に200億円、これまでに約1,500億円の投資を集めている。商品デビューは2016年。サンフランシスコ、ニューヨークのエッジーなレストラン6軒から始まった。斬新なバーガーメニューとポップな宣伝イメージは、たちまち若者を中心にSNSで盛り上がった。2017には巨大な工場がオークランドに建設され供給量は一気に拡大。2019年、「バーガーキング」の「インポッシブル・ワッパーバーガー」発売を皮切りに、今年は食品店の小売りも始まった。アジア方面の海外進出も果たしている。

一見同じように見えるバーガーパテ。しかし決定的な特徴の違いは代替肉の要でもある生肉のような色素と肉汁もどきを再現する「赤い液体」にある。「ビヨンドミート」はビーツを使用し、「インポッシブルフーズ」は、前述したヘムを使用している。主原料の非遺伝子組み換えにこだわる「ビヨンド」に対して、「インポッシブル」は分子レベルの加工技術を特徴としている。

色素と肉汁もどきを再現する食材にビーツを使用をする「ビヨンドミート」 ©Beyond Meat

両社は代替ビーフに続き、代替ポークも開発。中南米、アジアメニューにも販売領域を拡散している。「ビヨンドミート」は、ケンタッキーフライドチキンとタッグを組み、代替チキンも供給している。一方、「インポッシブルフーズ」では、前人未到の代替魚を開発中というニュースが話題になっている。

これはまさに食革命だ。環境、健康、そして食べ物を超えて思想、宗教にもつながる新時代の食習慣となり得る。規模や業種は違えど、まるで「世界を変えよう」と同時期に出現したビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスの再来のようだと興奮しているのは、私だけではないはずだ。

代替肉ムーブメントの影響でアメリカでは、この2年で約100社以上がこの業界に参入しており、それは世界に波及している。もちろん日本も例外ではない。私達が選ぶ食品が、「地球を救う」根源となり、代替肉はこれから世界的に大きなうねりを起こすのではないだろうか。

代替ビーフ、ポークを開発しレシピの多様性が拡大した @Impossible Foods