幼い頃に親の愛を十分に受けられず、感情が乾いてしまった児童文学作家コ・ムニョン(ソ・イェジ)、病気の兄の世話をしなければならない現実の重さから愛を拒む精神病棟の保護司、ムン・ガンテ(キム・スヒョン)、ガンテの兄で、自閉症のムン・サンテ(オ・ジョンセ)。9日に最終回を迎えたtvNドラマ「サイコだけど大丈夫」の登場人物は、皆何かが欠け、傷を抱えて生きている。ドラマは、世の中の基準では「サイコ」のように見える彼等が互いの痛みを理解し合っていく過程を温かく描いた。SBS「嫉妬の化身」やtvN「ボーイフレンド」に続き、「サイコだけど大丈夫」を演出したパク・シヌPDに書面でインタビューした。
「サイコだけど大丈夫」は、放送直後から東南アジアの多くの国でネットフリックスの今日の「トップ10」で1位となり、日本でも12話の放送後、1位となった。南米やオセアニア地域でもトップ10に入り、世界的な人気となっている。
「生きづらさを抱えた人たちの話なので、どうやって紹介し、展開するかについての悩みが最も大きかった。気軽に見られては個性がないと思うし、見ていてしんどいのも嫌がられると思い、その間をいこうと努力した。ムニョンの奇妙さがむしろ魅力的に、ガンテの平凡さがむしろ特別に、サンテの病気はむしろ愛しく感じられるようにと、作った」
ドラマは3人の主人公をはじめ、ガンテが働く「良い病院」の精神疾患の患者たちのそれぞれの事情や心理を描いた。特にベトナム戦争に参戦して経験した殺戮で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患うカン・ピルオン(キム・ギチョン)がバスの中で、工事現場のドリルの音を聞いて戦争当時にフラッシュバックする場面は、視聴者たちに「PTSDのフラッシュバックを最も実感させる場面」と、好評を得た。耳をふさいで、目をギュッとつぶって、バスのど真ん中で座り込んだカン・ピルオンの両側の窓の外で、大砲が撃たれ、銃弾が飛び交う場面は、実際の戦争を思い起こさせる。
「バスは目的地に行くための移動手段だが、自分が本当に行きたい場所ではない、その近くの停留所まで行って、停留所ごとに誰かが降りては誰かが乗って……。人生と似たところがあると思った。そういう所で、カン・ピルオンの痛みが瞬時に再現されるのは本当に魅力的な設定だと思った。バスのいくつもの窓が、場面を映す装置としても有効だった」
ムニョンのファンのサイン会へ行くウキウキしたサンテの感情を壁画の中の絵が動いて、桜がこぼれ出るように描いた場面、躁症と露出症の患者キド(クァク・ドンヨン)が国会議員の父の遊説の舞台に飛び込んで歌って踊る姿など、数々の名場面があった。この中でパクPDが選んだ名場面は、アイロニーだが、最も平凡な瞬間だ。
「ガンテとムニョンが平凡な高校生、サンテは会社員として出てきたガンテの夢の場面が一番好き。すごいファンタジーではないが、私には他のどんなファンタジーよりも良かった。強力な何かをせず、何でもないように見えるその感じが、むしろ強烈だった」
多くの人たちが精神疾患を患っている現代社会で、「互いの欠如を互いに補い合う温かさ」を見せようとした「サイコだけど大丈夫」。パクPDはドラマが人々にどのように記憶されることを望むのか。
「ドラマの中で『サイコ』たちと正常な人の違いよりも同じところを見せることに集中した。『サイコだけど大丈夫』に出てきた人たちは『大丈夫な』人たちだったと記憶してもらえるとうれしい。私たちはみんなどこか少しずつ『サイコ』だ。それでいいんじゃない?」
(2020年8月18日付東亜日報、キム・ジェヒ記者)
(翻訳・成川彩)