1. HOME
  2. World Now
  3. ロシア、今度こそちゃんと石油減産するってよ

ロシア、今度こそちゃんと石油減産するってよ

迷宮ロシアをさまよう
サウジアラビアのエネルギー相、アブドルアジズ氏(左)とロシアのエネルギー相、ノバク氏=ウィーン、2019年12月6日、ロイター

協調減産の鍵を握るロシア

新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした経済面での副産物が、石油価格の暴落でした。世界的な需要低下を受け、石油価格は2月後半から下がり始め、3月に入ると急落しました。その下落を決定的にしたのが、OPECとロシア等の産油国(いわゆるOPEC+という枠組み)の減産協議が3月6日に決裂したことでした。

しかし、3月から4月にかけての大暴落は、さすがに産油国を慌てさせたのでしょう。OPEC+は4月12日、5~6月に日量970万バレルの減産を行うことで最終合意しました。これは、世界の原油供給の約10%に当たる大幅な減産です。さらに、6月6日にOPEC+はこの歴史的な減産を7月末まで延長することで合意しました。

この間にも石油価格はジェットコースターのような変動を示し、4月20日にはニューヨーク市場で原油先物(5月物)のWTIが史上初めてマイナスの値を付けました。つまり、供給のだぶつきで5月には貯蔵施設が溢れてしまうので、売り手がお金を払ってでも誰かに引き取ってほしいという前代未聞の状況となったのです。マイナス価格になったのはあくまでも先物でしたが、筆者が普段参照しているブレント油価のスポット価格も、4月21日に1バレル当たり9.12ドルという近年の最安値を付けています。

ロシアは輸出の6~7割を石油・ガスで稼ぎ、連邦歳入の半分近くも石油・ガス収入で賄っている国です。通貨のルーブルも、ほぼ石油価格に連動して動いており、2020年に入って大幅なルーブル安が進みました。

OPEC+の歴史的な減産合意が効き始め、石油価格は4月下旬以降は回復傾向にあります。一方、ロシア・ルーブルは3月24日の1ドル=80.88ルーブルが底であり、それ以降は価値を戻しています(下図参照)。

ところで、このように威力を発揮している4月の減産合意ですが、近年OPEC+の枠組みで達成された減産合意としては、2016年、2018年に次いで今回が3回目です。ただ、最新の減産合意は、過去2回のそれと比べて、ロシアにとっての意味合いがまったく異なります。そして、それはOPEC+合意全体の実効性を左右する要因です。そこで今回のコラムでは、石油の生産量を調整する上でのロシア国内の問題を考えてみたいと思います。

言うほど簡単ではないロシアの減産

実は、根本的な問題として、ロシアの石油産業は技術的に減産が難しいのです。以下はほとんど筆者の先輩でエネルギー問題に詳しい坂口泉さんからの受け売りになりますが、解説してみましょう。

まず、国家が圧倒的に強く、石油産業でも国営企業が幅を利かすロシアではありますが、石油生産企業は零細なところも含めれば200以上存在すると言われます。それぞれの会社が置かれた状況はまちまちであり、たとえば生産がピークを過ぎて放っておいても減産していく会社もあれば、逆に生産が伸び盛りの会社もあります。異なる利害がせめぎ合う石油業界に号令をかけ、足並みを揃えさせるのは、簡単ではないのです。

また、諸説ありますが、ロシアにおける油井の数は、15万本程度に上ると見られます。それが、シベリアの奥地のようなところに、点在しているわけです。石油会社としては、「明日から減産だ!」と急に言われても、僻地に散らばる一つ一つの油井に出向き、バルブを閉めて回るのは、至難の業。特に、シベリアが酷寒に見舞われる冬場に、ロシアが生産調整をするのは、非現実的だと指摘されています。

さらに言うと、ロシアの油井の多くは古い井戸であり、いったん休止させると、生産が再開できなくなる恐れがあるということです。したがって、止めるとすれば、すぐに生産を復活できる若くて活きの良い井戸ということになり、そうした生産性の高い井戸を止めなければならないとしたら、生産・経営効率の点から非常に痛いことになります。

このように、ロシアの石油産業は、そもそもが減産には不向きなのです。ゆえに、「常に掘れるだけ掘る」というのが、ロシアの伝統となってきました。

あのロシアもついに動いた

さて、近年OPEC+が最初に協調減産に合意したのは、2016年終盤のことでした。OPEC諸国が同年11月に、2017年初頭から日産量をそれまでより120万バレル少ない3,250万バレルまで減少させることを取決めると、ロシアもそれに同調し、2017年5月までに30万バレルの減産を達成すると表明したものです。これはロシアの生産量を2.7%削減するものであるとされました。

ところが、ここで不可思議な現象が起こります。2016年のOPEC+の合意では、2016年10月の生産量を基準として、そこからどれだけ削減するかが決められました。そうした中、ロシアでは、まるでそのことを予期して申し合わせたかのように、2016年10月の生産量が過去数年で最高を記録したのです。上のグラフを見ても、確かに2017年の生産水準は若干低下しているけれど、基準となる2016年10月の数字が高かったため、ロシアはそれほど大きな減産義務を負わずに済んだことがお分かりいただけると思います。

次にOPEC+が減産で合意したのは、2018年12月のことでした。これによりロシアは、2019年初頭から、2018年10月の生産量を基準として、2%減産することにコミットしました。しかし、前回と同じく、この時も基準となる2018年10月のロシアの生産量は不自然に高まり、この時もやはりロシアの減産は本格的なものにはなりませんでした。

そして、コロナ危機による油価暴落を背景とした今回のOPEC+合意は、上述のとおり4月12日に成立しました。その結果、ロシアは今年3月の生産量を基準に、5月から約15%という過去に例のない減産を実施する義務を引き受けました。しかも、今回ばかりはロシアも基準となる3月の生産量を引き上げるという布石を打っておく余裕がなく、平常運転だった3月の生産量が基準になってしまったわけです。

果たして、ロシアは本当に減産の約束を守るのか? ロシアに詳しい専門家ほど、上述のようなロシア固有の事情を知悉しているがゆえに、「ロシアが実際に大幅減産するのはまず無理だろう」と見ていました。ところが、このほどロシア・エネルギー省が発表した5月の石油生産量を見ると、平均日量939万バレルとなっており、3月の1,130万バレルから17%も縮小しています。

ただし、ロシア・エネルギー省発表の石油生産量にはガスコンデンセートが含まれているのに対し(上図も然り)、4月にOPEC+合意でロシアが負った削減対象にはそれが含まれなかったという違いがあります。ガスコンデンセートを除いた原油生産では、5月の生産量は平均日量859万バレルで、850万バレルへの減産という目標はわずかに達成できなかったと報じられています。ただ、「あのロシアが、本当に大幅な減産を実施した」という事実の方が重大でしょう。

ロシアのノバク・エネルギー相は6月初旬のインタビューで、「ロシアは5月の減産義務を96%履行し、日量200万バレル近くの削減をした。我が国は、世界の石油市場の需給を均衡させる課題に、責任をもって取り組んでいる」と発言しました。それだけ、ロシアとしてもこの春の油価暴落は応え、態度を改めざるをえなかったということなのでしょう。もう今までのような「なんちゃって減産ロシア」ではないようです。

(参考文献:坂口泉「ロシアが直面した油価下落と新たな減産協定」『ロシアNIS調査月報』2020年7月号)