「石油離れ」への不安隠さないサウジ
「原油価格が高すぎる。良くない!」
米大統領のトランプはこの数カ月、こんなツイートを繰り返している。シェールオイルで世界最大の産油国になった米国だが、なお大きな影響力を持つ石油輸出国機構(OPEC)を牽制したものだ。
原油価格は5月、米国のイラン制裁による供給不足の懸念などで、1バレル=70ドルを超す3年半ぶりの高値に跳ね上がった。一方、イランは「米国による政治的緊張のせいだ」と反発してきた。
こうしたなか、OPECは6月下旬、原油価格を下支えしてきたこれまでの協調減産を緩める形で原油の増産を決めた。
「我々は石油の需要を失ったり、石油離れを招いたりしたくない。米大統領のツイートは、それを計る指標の一つだ」
サウジのエネルギー産業鉱物資源相ハリド・ファリハは決定後の会見で、トランプの意向を考慮したことを認める一方、原油が高くなりすぎることによる「石油離れ」への不安も吐露した。
背景には、「石油の時代」がいつまでも安泰ではない、との危機感がある。
石油消費の6割を占める運輸部門で、電気自動車(EV)の技術革新が急速に進む。温暖化対策のパリ協定を背景に、英仏が2040年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を発表し、中国やインドなど新興国も、EVシフトを加速させている。
その結果、いずれ埋蔵量が枯渇するという従来の「ピーク論」に代わり、需要のほうが先に頭打ちになるという新「ピーク論」が台頭した。ピークを迎える時期をめぐり、早ければ「2030年代後半」(OPEC、英BP)などの分析も相次ぐ。
「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」。技術革新による新時代の到来を予見したサウジ元石油相の警句が現実味を増している。
迫られる国内改革
「石油の時代」を謳歌してきた中東の産油国はどうなるのか。
日本エネルギー経済研究所は、需要が減って原油価格が下がると、中東の純輸出額は2050年に1兆6000億ドル(約180兆円)減る、とはじく。その通りになれば、名目GDPの13%が消えてしまう計算だ。
主な産油国は脱石油を目指した改革計画を打ち出している。特に世界が注目するのが、サウジの皇太子ムハンマドがまとめた「ビジョン2030」だ。
石油以外の政府収入を6倍にするなどの数値目標を並べ、原資として世界最大の国営石油会社サウジアラムコの株を一部上場する計画をぶちあげた。石油収入を国民に分配するだけでは体制を維持できないとの危機感が透けるが、実現には懐疑的な見方も強まっている。
一方、イランは突然の逆風にさらされている。
もともとほかの産油国と比べると、エネルギー輸出への依存度は低い。工業品、農産品ともに国内生産が進み、とりわけ自動車は昨年だけで約150万台を生産し、基幹産業に育った。
だが、トランプ政権による圧力で外資の撤退表明が相次ぎ、8月には自動車産業などを狙った制裁が復活。11月には本丸の原油取引も対象になる。
すでに通貨リアルの下落とドル高、物価高が市民生活を直撃している。テヘランの生地店主チャルチ・ホセインプール(33)は「マイカーを売らざるを得ない」とため息をついた。「シリアやイラクもいいが、まずは自国の貧しい人を助けるべきだ」。批判の矛先は現体制にも向き始めている。