ノルドプールは1996年、ノルウェーとスウェーデンが参加する世界初の国際電力市場として発足。今ではフィンランドとデンマーク、英国とバルト3国、ドイツも加わった9カ国の電力が取引されている。といっても、取引はすべてコンピューター上で行われ、オペレーション室ではラフな服装の職員2人がコーヒー片手にディスプレーを静かに見守っていた。
ここで売買されるのはほとんどが翌日分の電力だ。午前8時から正午まで売り注文と買い注文が入り、地域を結ぶ送電線の容量も加味して時間ごとの価格を算出している。当日の風の強さなどに応じて、24時間いつでも売買できる市場もある。
市場運営で重要なことは「オープンで透明であること」とヨハンセン。発電所や国際連系線のトラブル、メンテナンスなどの情報が共有されていれば、余力のある事業者が発電量を増やしたり、利用者は節電したりと価格に応じた行動がとれる。「なぜ市場が動いているのかが理解できるため、我々の電力価格には極めて高い信頼が寄せられている」
市場には、国によって偏りの大きい電源構成を補完する役割もある。
例えば96%を水力で発電するノルウェーの場合、雨が少ない年は貯水量が減ってしまう。海底送電線で結ばれたデンマークで強風が吹いて電力が安ければ、市場を通じて輸入して貴重な水はためておいた方が得策、という具合だ。「一カ国だけであらゆる状況に備えるより、連系して協力した方が電力を効率的に使うことができる」と話す。
再生可能エネルギーの普及や送電網の充実で電力取引は拡大を続け、2015年の電力取引量は発足当初の約12倍に達した。蓄積したノウハウを生かして、アジアや中東アフリカで電力市場づくりの支援業務も手がける。
時代の先頭を走ってきたノルドプールだが、22年目を迎えた今年、かつてない試練を迎える。
欧州連合(EU)の欧州委員会が14年、北海とバルト海で市場を独占するノルドプールと、仏独など大陸で強いライバルのEPEXに対し、競争を避けるためにカルテルを結んだとして計約600万ユーロ(約7億2千万円)の制裁金を科したのだ。競争を迫られたノルドプールは今年、EPEXの本拠地であるフランスなど大陸5カ国に参入し、EPEXもノルドプールのおひざ元の北欧など5カ国に乗り込む。
電力市場は、ライバルが同じ土俵で競い合う新たな局面に入る。
「あらゆるテクノロジー企業と同じで、未来はいまとは全く違う姿になっているかもしれない。常に一歩先を見て、革新的になる必要がある」。ヨハンセンは表情を引き締めた。(村山祐介)
<ノルドプール> 北欧4カ国とバルト3国の送電会社計7社が株主で、本社はオスロ。20カ国の380社が参加し、2016年には5050億キロワット時が売買された。従業員は114人。