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サメの絶滅とたたかう研究者

美ら島の国境なき科学者たち 更新日: 公開日:
研究で採集したツノザメの胎児を見せてくれたファビエン

危機にさらされるサメ

遥か4億年以上も前から生息していたとされるサメは、浅瀬から深海に至るまで大海を支配してきた海の王者といった存在です。しかし、ここ数十年の人間の活動により、そんなサメたちが危機にさらされています。

サメと聞くと誰もが震え上がるような恐ろしいイメージを持つのではないでしょうか。しかし意外にも、サメによって命を奪われる人間は、毎年平均4人とごくわずかな数です。対照的に、世界中で人間によって殺されているサメの数は、年間1億匹以上と推定されています。これは、1時間に1万匹以上という驚異的な数のサメが殺されている計算になります。これらのサメは、ふかひれスープのためのヒレを狙われたり、需要が高い他の魚と共に混獲されたり、ゲームフィッシングなどによって脅かされているのです。

「ほとんどの種類のサメが毎回ほんの数匹しか出産または産卵しない上に、妊娠期間は人間に比べて長く、数年もあるものもいます。さらに妊娠には休息期があります」と説明してくれたのが、OISTで海洋生物を研究しているファビエン・ズィアディ博士です。「サメがこのようにゆっくりと繁殖するという事実は、彼らが広範囲に漁獲された場合、すぐに総個体数が減ってしまうことを意味します」

スイス出身のファビエン・ズィアディ博士は、琉球大学で海洋科学を研究したのち、OISTにやってきた。

未確認の種を明かにしようと研究スタート

周りに海のない内陸国スイス出身のファビエンは、もともとチューリッヒの大学院で水力発電が河川の淡水魚に潜在的に与える影響について調査していました。

ドキュメンタリー番組をきっかけに海の世界に興味を持った彼女は、海外旅行で試したダイビングですっかり熱帯魚に夢中になりました。

その結果、ファビエンはサンゴ礁にいるさまざまな魚やサメが生息する沖縄に移住することを決め、琉球大学で海洋科学の修士号と博士号を取得した後、OISTに博士研究員としてやってきました。

「当初はサンゴ礁の魚だけを研究していました。サメには興味がありましたが、サメの研究はサンプルを入手するためのフィールドワークに費用や労力がかかるため諦めていました」とファビエンは言います。 「でも、博士課程のときに所属していた琉球大学の立原一憲教授の研究室で一緒だった学部生の櫻井もも子さんが、沖縄のツノザメ類の生活史の研究を始めたのです。ある時、彼女が研究を進める中で、その種が沖縄に固有のものであり、まだ名前もついていない未確認の種であるのではないかという疑問が生じました。それを、私が明らかにしようということになりました」

実は、日本、特に沖縄は、サメの多様性において世界的なホットスポットとなっています。 400を超える現代のサメのうち、3分の1以上が日本の温帯および熱帯の海域に生息しています。

最近、ファビエンたちがOISTと琉球大学とで継続的に行ってきた研究の成果として、新たに2種のサメが追加されました。

OISTマリン・サイエンス・ステーションに配置されたサメのサンプル。この度の研究で新種であることが分かった。

分類が間違っていたことも

ホホジロザメやイタチザメなどの有名なサメとは異なり、これらの2つの新しい、まだ名前が付けられていない種はツノザメ属に属します。通常、長さが約1メートル程度までしか成長しない比較的小さなサメで、水深500メートルまでの深海に棲んでいます。2種のうち1匹は東京湾から、もう1匹は沖縄県の離島である西表周辺の海域から採集されました。

「これらの種は当初、誤って分類されていました。ツノザメ種に属しているサメはそれぞれ非常によく似ており、頭の形状、背びれの高さ、尾びれの色の違いはほんのわずかです」とファビエンが説明してくれました。

ファビエンとチームメンバーが、これらが実際に日本国内の2つの異なる種のツノザメであると結論付けることができたのは、ミトコンドリア遺伝子のDNA配列を比較した結果です。

サメは生態系にとって重要な存在

ファビエンは、この発見が、私たちが日本のサメやその多様性ついて少しでも興味を持つきっかけになることを望んでいます。実は、日本は、サメの捕獲量の多い国のリストで上位にランクされています。ファビエンにとって、日本でサメを研究することは、異なる種のサメの個体群が漁業によってどのように影響を受けたかを理解するために不可欠なのです。

「サメは海の生態系において重要な役割を果たしています」とファビエンは言います。 「サメのような食物連鎖の頂点にいる捕食者の数が減ると、海洋生態系に影響をもたらし、多くの海洋生物に影響を与える可能性があります」

サメの種数、個体数、そして生活史の調査など、より良いデータがなければ、サメの持続可能な管理は不可能であると彼女は付け加えます。

共同研究を指導した琉球大学の立原教授も、「まだ深海性のサメ類には、分類が定かではない種がおり、彼らの生活史を研究するためには分類の再検討が、不可欠です。魚の生活史研究は、さまざまな資源状態、その保護、持続可能な有効利用に関する基本的な情報を提供する重要な研究分野です。特に、サメ類の中には絶滅の危機に瀕したものも多く、将来の保全対策を策定することが急務です」と言います。

ファビエンと、沖縄美ら島財団で研究する宮本圭さん。新しく発見されたツノザメをさらに理解するためにCTスキャンで検査する。

https://sketchfab.com/3d-models/dogfish-squalus-sp-7e17d86b0e024a2facb1172a67ad5160
(クリックして3Dでインタラクティブにご覧いただけます)

「特に日本ではサメの固有性が高いと、私たちは考えています。つまり、特定の種は限られた地域でしか見られないということです」とファビエンは付け加えます。「これらの個体群が漁獲量の制限なしに持続的に漁獲されると、絶滅につながってしまう可能性があります」

最後に、ファビエンは、この生き物が、私たちの海にとってどれほど不可欠であるかを、みんなに理解してもらいたいと言います。漁師も消費者も、私たち全員が、サメの減少による海洋環境への影響について意識する必要があるのだと。

ファビエンの目には、日本におけるサメの多様性が、何物にも代えがたいほどの宝物に映ります。今保護しなければ、サメは永久に失われる可能性もあるのです。

ファビエンと筆者のダニ。

(OISTメディアセクション ダニ・アレンビ)