新型コロナウイルスの影響で、事実上、多くの活動が実行不可能となった。職種によっては仕事が激減し、経済的に不安な状態にいる人がノルウェーでも相次いでいる。
人口530万人と、北海道ほどの人口のノルウェーでは、感染者が3845人( ノルウェー公衆保健研究所の発表、28日付)、死亡者が20人、これまで検査した人は 8万2584人。
ノルウェー政府は、国境管理を厳格にし、滞在許可のない者は入国を拒否される。ノルウェー人を含め、国外から入国する場合は、自宅待機の対象となる。
公衆保健研究所の方針により、多くの人が集まるイベントや飲食店などの運営も、難しい状況だ。
活動自粛で悲鳴を上げているのが、文化業界。コンサートなど、多くのイベントが中止・延期となっており、フリーランスとして働く人が多い業界に押し寄せる、困惑と不安の波。
3月になり、国内の状況が日々、激変する中、「返却はいらない」という投稿がSNSで見られるようになった。
#返却はいらない
ノルウェー語で「インゲン・レフショーン」(#ingenrefusjon)は、「返却はいりません」という意味だ。3月12日に「アルトソ」という女性向けのネットマガジンが、Facebookでチケット料金の返却を求めない呼びかけを行う。
ノルウェーが停止しているという理由で、収入がなくなり、ひとりで立っている人たちに、連帯しましょう。私たちは、チケット料金などの返却を求めません。カルチャーがこれからも存続していけるように、貢献します。あなたは、どうですか?#ingenrefusjon
Facebookではおよそ4000回もシェアされている。私の友人でもシェアしている人が多く、この投稿は何度もネットで目にした。
投稿先のコメント欄には、このような意見がある。
「同感!今は冷静にならなければ。収入がなくなった人とは助け合い、感染の拡大は防いでいく」
「主催者だけではなく、アーティストに直接お金がいくとよいのだけれど」
「なんて素晴らしい活動なの!」
しかし、眉をひそめる人もいる。
「でも、イベントに行くために、チケットだけではなく、宿泊先や旅費も事前に払っています。そのお金も返すなってこと?ダメージを受けているのは、主催者だけじゃないのに」
「文化関係の人って、もともと免税対象や補助金で優遇されているから、これって観客の問題ではないのでは?お金は返却されるべきだと思うけれど」
文化イベントで返却を求めない市民の動きは、現地でもニュースとして取り上げられた。
Facebookライブで、不安解消!
キャンセルが相次ぐコンサートやライブで、大好きな音楽と触れ合えずに、がっかりしている人たち。コロナのニュースが続いて、気分が落ちている人もいる。
不安やもやもやを吹き飛ばそうと、アーティストたちがネットで無料コンサートを開催する動きも起きている。
ネットコンサートは基本的には無料で、FacebookやInstagramでイベント告知。オスロ観光局Visit OSLOも協力して、アーティストたちのネット配信の情報を公式サイトにまとめている。
ネットコンサートでは、チケット料金を請求しない代わりに、募金を募り、集まったお金は新型コロナのために、懸命に働いている医療機関者を支援する団体などに送られる。
医療スタッフのみなさん、ありがとう!感謝の拍手
イタリアでは、孤立感を和らげるために、市民が自宅の窓辺から一斉に歌う動きがあった。その動画はノルウェーでも知られることとなり、感動した人が続出。
15日、「コロナのために、働いてくれている医療者や、がんばってくれている人たちに感謝を届けよう!」と、みんなで拍手をするキャンペーンが全国各地で盛り上がる。呼び掛けをおこなうページが、Facebookにいくつも立ち上がり、公共局NRKはニュース記事で取り上げた。
19日には、「ありがとう!」とお医者さんたちが拍手でお礼をする動画も話題となった。
Til alle som bidrar til å begrense smitte. Takk for innsatsen dere gjør for å hjelpe oss, slik at vi får tid og plass til å hjelpe dere. #flattenthecurve @legeforeningen pic.twitter.com/3XU4NeHgM4
— Yngre leger (@YngreLeger) March 19, 2020
大好きな店員さんに、これからも会いたいから
多くのお店が臨時休業を余儀なくされる中、今後の生活費や店の未来を心配する人が続出している。普段から高い税金を支払い、福祉制度がしっかりしているので、大抵の人にはセーフティネットという保証がある。急に収入がゼロ円になるわけではなく、労働福祉局からは手当がでる。しかし、店の家賃や光熱費などを考えると、小さな店舗の未来には暗雲が立ち込める。
そのせいか、飲食店やサービス業の常連の間では、「大好きな店員に、数か月後にまたお店で再会したい」と、彼らの運営費を支援しようと送金する動きもでている。
また、「いつも行くカフェが、閉店してほしくない」と、コーヒー代を個人間送金ができるアプリ「Vipps」などを使って店主に送金し、「私の気持ちは、今日もお店にあるよ」という思いを表す人もいる。
「貢献する」という意味で、bidra.noというクラウドファンディングのサイトには、危機にある店舗の支援企画が相次いでいる。
ここをのぞくと、私が今まで日本に紹介してきた店舗も数多くあり、胸が締め付けられる思いがする。
お店や店員が助けてと求めているのではなく、その店やその店員が大好きだからと、常連客が自主的に動いているのだ。普段から愛されていなければ起きない現象だろう。
首相が子どものための記者会見を開催
今までとは違う日常は子どもたちにも影響を与えている。幼稚園や学校は閉まり、友達とも遊べず、ずっと家の中。楽しみにしていたクラブ活動やお誕生日会もキャンセル。
どうして? いつまで続くの? 友だちと会っちゃだめなの? どうして、おじいちゃんやおばあちゃんの家に、遊びにいけないの?
政府は毎日、新型コロナ対策で記者会見をしているが、その内容は子どもには分かりづらい。一部の親は急に職をなくし、なんだか不安そうだ。子どもはその不安を感じ取る。
ソールバルグ首相は、子ども向けの記者会見を16日に開催した。会見には、教育大臣と子ども大臣も一緒になって、全国各地からの子どもの質問に答えた。
「1~2人のお友達となら、遊んでもいいですよ」
「おじいちゃんやおばあちゃんには病気になってほしくないから、今は遊びに行くのはやめておきましょう。その代わり、ビデオ通話でなら話せますね」
首相は子どもに向けて、分かりやすく、やさしく話しかけた。
記者会見の場の演出を、子ども向けだからと子どもっぽく設定するのではなく、いつも使う記者会見の会場から生放送した。子どもたちも、「首相が僕たちに真面目に話しかけてる」と思っただろう。
ノルウェー政府の子ども記者会見は、国外でもニュースとして報じられた。
記者会見の動画は公共テレビ局の公式HPでも閲覧できる。
身体の距離は離れていても、心の距離は近くに
今、ノルウェーでは、「団結」や「連帯」を意味する「ソリダリテ」(solidarite)という言葉を毎日聞く・見るようになった。
「他者と距離を取ろう、相手には触らないように」、「でも、お互いを気にかけて、思いやろう」という言い方を、政治家も市民もするようになった。
不安がたまる中、人と集まっても距離をとらなければいけない、いつものように相手と抱擁や握手であいさつができないのは、つらいことだ。
だからこそ、「互いを思いやる気持ちを、忘れずにいよう」という呼びかけが毎日生まれている。
ノルウェーでも、スーパーでトイレットペーパーなどの大量買いをする人たちは、後を絶たない。この現象は、頬袋にモノを詰め込むハムスターに似ていることから、「ハムスターをする」という表現がされる。
ハムスター行為で、自分はいいかもしれないが、本当に必要としている人たちが、そのせいで物資を購入できないかもしれない。ハムスターになることは、団結や思いやりとはほど遠いのだと、「今一度、自分の行いを振り返ってほしい」と呼び掛ける政治家や市民もいる。