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新型コロナ感染者の移動ルートをマップに表示 緊急事態の韓国で使われる個人情報とIT技術

ソウルのアジュンマ通り
新型コロナウイルスの感染者が訪れたとして休店していたロッテ百貨店本店が営業を再開。出入り口には熱感知カメラが設置された=2020年2月10日、ソウル、東亜日報提供

韓国の新学期は3月から始まる。2月のある日の昼下がり、小学2年になる娘の友達の母親から、私の携帯電話にSNSのメッセージが送られてきた。

「○○小学校が休校するって知っています? 新型コロナウイルス感染者に接触して自宅隔離になった保護者がいるんですって」

娘が通う小学校ではないが、自宅から車で10分ぐらいの場所にある。その直後。今度は数学の塾から「緊急連絡」のメッセージが来た。「お子さんがいま塾に到着したのですが、近くの小学校が休校になり、塾も今日から休むことにしました。お子さんを迎えに来てもらうことになりそうです」。さらに、スイミングスクールからも。「今日からしばらく休みます」

娘が放課後に通う他の塾にも電話をしてみた。すると、異口同音に「自宅隔離となった家庭の子どもがいるわけではないですが、念のため休むことにしました」という答えだった。

夕方になると、娘が通う小学校から連絡が来た。「周辺の小学校は休校していますが、私たちの学校には特に問題はなく、対応も万全に行っています」という内容だった。

町の医院には、「新型コロナウイルスが疑われる患者は来院せず、保健当局に連絡を」という案内が張り出されていた=2020年2月17日、ソウル、東亜日報提供

自宅隔離となった例の保護者は、映画を見に行ったところ、横の席に感染者が座っていたという。当然、本人は何も知らなかったが、保健当局から連絡を受けて小学校に通報したところ、休校となったという。

この日は夜にかけて、私の携帯電話には、真偽のほどが確認できないメッセージが洪水のように押し寄せた。戸惑い、身震いのした一日だった。その日のうちに、「ママ友」たちの間では、感染者の隣で映画をみていた保護者の個人情報がさらされた。「どこに住んでいて、子どもは3人おり、○○幼稚園、○○小学校、○○塾に通っている」という具合だ。ただ、それが本当かどうかは分からない。

こんな「フェイク・ニュース」ともよべる情報があふれるのは、私が経験したこの日の出来事だけではなく、感染者や接触者がいるところなら、どこでもそうなのだろう。

ふと、「運悪く本人も知らないうちに新型コロナウイルスの感染者の横に座っていたという理由で、自宅隔離となった人たちは、どれだけ悔しいだろうか」という同情の念にさいなまれた。私にもいつでも起こりえるだけに、押し寄せる不安感と「何が何でも注意しないと」という緊張感に包まれた。

マスクを買い求めるため店の前で列をつくる人たち=2020年2月29日、ソウル、宋永美撮影

自分に近いところに新型コロナウイルスの感染者がいたという事実は、正直、不安だ。外出や旅行はできるだけ避けているが、いつどこで感染者と接触するかなんて、分からない。

そんな不安感は、「感染者の移動ルートを迅速に公開するべきだ」という人々の要求をかきたて、感染症対策にあたる国の「疾病管理本部」は、「コロナ感染者の移動ルート」をホームページで公開するようになった。

この移動ルートのデータを、民間企業がさまざまな方法で活用を始めた。代表的なのが、感染者の移動ルートをひと目で確認できるオンライン地図「コロナ・マップ」だ。大学生が開発し、無料で公開している。

「コロナ・マップ」の画面

「コロナ・マップ」は、疾病管理本部から提供を受けたデータをもとに、感染者の移動ルート、隔離場所、感染者数や症状を訴えている人の数などを表示する。一時、あまりに多くの人が使用してサーバーがダウンしたほどだ。

このように、ほぼリアルタイムで感染者の移動ルートを追跡できるのは、韓国ならではの理由がある。韓国の人たちは、現金をほとんど使わず、クレジットカードや電子マネー、携帯電話のアプリの決済を使っている。これらの使用履歴をたどれば、感染者の移動したルートが分かる、というわけだ。また韓国の地下鉄やバスの中ではWifiが無料で使えるため、その接続の記録をたどれば、いつどこで地下鉄やバスに乗ったのかも追跡できる。

新型コロナウイルスの情報を伝える携帯電話アプリ「コロナのお知らせ」の画面

韓国は2019年12月、「災害及び安全管理基本法」を一部改正して施行し、大きな災害時に国の中央対策本部長らが被災者の個人情報と位置情報を収集できるようになった。これによって、国が通信事業者をはじめとした企業や個人に情報提供を求め、それに応じる義務が生じることになった。

こうしたIT技術の発達は、時にはプライベートの侵害につながることもあるが、災害時には予防や警戒にあたるための重要なツールにもなる。また、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、さまざまな場所で、さまざまな努力が行われている。公共機関、マンション、デパートなどでは出入り口に誰でも使える消毒液が置かれている。幼稚園と小中高校の卒業式や入学式は中止、新学期が始まる時期も遅らせることになった。

ソウル中心部の繁華街・明洞(ミョンドン)にあるロッテ百貨店本店は、感染者が買い物をしたという理由で2月の3日間、休店した。1979年に開店して以来、初めてのことだった。ソウル市内にあるホテルやショッピングセンターなども、感染者が訪れたと確認されると、すぐに休店となる。休店による損失を考えるよりも、まず措置に乗り出し、客の不安感をなくすことが最優先だと考えているのだろう。不安感から客がこなくなれば、さらに大きな損失を覚悟しなければいけなくなる。

新型コロナウイルスの感染者が訪れたロッテ百貨店本店で、休店のお知らせを出入り口に張り出す職員=2020年2月7日、東亜日報提供

ウイルスによる感染症という国家の危機的状況のなか、韓国は混乱の状態にはあるが、人々の不安感を解消して感染の拡大を防ぐために、IT技術と情報の共有を駆使して対応している姿は、韓国独特だといえるのではないだろうか。感染を調べる検査の規模もスピードも圧倒的で、車の中から誰にも接触せずに検査を頼める「ドライブスルー検査」も登場している。

今日も私は出勤前、携帯電話にインストールした「コロナ・マップ」で周囲の状況をチェックする。それが新たな習慣となりつつある。