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日韓関係の荒波にもまれて20年 日本人ロックバンド佐藤行衛さんインタビュー

現地発 韓国エンタメ事情
コプチャンチョンゴルのライブ

ロックバンド「コプチャンチョンゴル」

「コプチャンチョンゴル」という、メンバーは日本人で、韓国で活動するロックバンドがある。1999年に韓国デビューし、昨年20周年を迎えた。お祝いの年のはずが、昨年は日本の輸出規制をきっかけに「日本製品不買運動」が韓国で広がり、それは「物」のみならず「人」にも及んだようだ。ボーカルの佐藤行衛さん(56)から話を聞いた。

韓国語でコプチャンはホルモン、チョンゴルは鍋。コプチャンチョンゴルは韓国の「もつ鍋」だ。変わったネーミングが韓国で話題になったこともあり、私もその存在は以前から知っていた。

コプチャンチョンゴルのライブ

実際に佐藤行衛さんに初めて会ったのは2018年の終わりの方だった。とある日本人の集まりに参加したら、見覚えのある風貌の男性がいた。宴会の途中でギターを手に弾き語りを始めたので、「コプチャンチョンゴル」の佐藤さんだと気付いた。その時、「来年は韓国デビュー20周年なので、本格的に活動する」と宣言していた。

その1年後、佐藤さんのソロ公演に知り合いに誘われて行った。日本の歌も韓国の歌もオリジナルも、初めてじっくり聴いたが、さすが韓国で通用するだけあって、うまい。ほとんど踊りだしそうなぐらいノリノリで楽しんだ。音楽バーのような場所だったので、歌い終わった佐藤さんも一緒に飲んだが、「20周年の1年はどうでしたか?」と軽く聞いたところ、「いやあ、7月以降は大変でしたよ」と言う。どうやら活動に支障があったらしい。

日韓音楽交流の先駆者佐藤さんには一度しっかりお話を聞いてみたいと思っていたこともあり、後日、別途機会をもらった。インタビュー場所は、ソウル市内の佐藤さんの自宅。「最初から家に呼ぶとか、韓国人みたいでしょう?」と笑った。入ると、壁も床もレコードだらけ。佐藤さんはレコードコレクターでもあるようだ。

ソウルの自宅で、コプチャンチョンゴルのアナログレコードを手にする佐藤行衛さん=成川彩撮影

遡れば、佐藤さんが韓国を初めて訪れたのは1995年。この時、韓国の音楽と料理にはまった。レコードを買おうと思ったらCDしかなかったが、手当たり次第に買いあさった。東京に戻って聞いて、「なんじゃこりゃ」と思ったという。「もともと日本のグループ・サウンズが好きなんだけど、それと似ているようで全然違う。これは研究したいと思った」

一方、佐藤さんは豚カルビやプデチゲ(注:ソーセージやラーメンの入った鍋料理)など旅先で味わった韓国料理にも魅了され、韓国の音楽と料理を知るために韓国語を勉強し始めた。バンド名が「コプチャンチョンゴル」なのも、そういう理由だ。

日本人バンドとしての韓国公式デビューは、「コプチャンチョンゴル」が初めてだった。金大中政権下で日本の大衆文化が徐々に開放され始めた時期だったが、先駆者の苦労は想像以上のものだった。デビューアルバムのジャケット表紙にメンバーの写真はない。日本人が写っているものはダメだと言われたためだ。佐藤さん作詞作曲のオリジナル曲も入れたが、日本人の作った曲もダメということで、仕方なく当時のマネージャーの韓国人の名前を作詞作曲に使った。

ビザの問題など、たびたび難題に直面しながら、メンバーも一部入れ替わり、なんとか続いてきた20年だった。その間、佐藤さんは韓国人女性と結婚し、「僕のビザの問題は解決した」と笑う。佐藤さん以外のメンバーは日本を拠点にしており、飛行機代などを考えるとなかなかバンドでの活動は難しく、普段はソロで活動することも多い。

2016年発売のコプチャンチョンゴルベスト盤

昨年はデビュー20周年に合わせて5枚目のアルバムを発売し、メンバーともども本格的に活動する予定だった。ところが、7月以降、佐藤さんほか複数のアーティストが出演予定のイベントで、佐藤さんだけが直前にキャンセルという事態が相次いだ。「おそらく、主催者は僕のことをよく思っていても、市民の中からプログラムを見て『なんで日本人を出すの?』という意見があったのだと思う」。5枚目のアルバムを出すのは延期せざるを得なかった。

一方で、そんな事態を知って、忘年会などの集まりに積極的に呼んでくれる韓国の人もたくさんいたという。聞いている私の方が、なんで佐藤さんみたいな人が日韓関係の割を食うのかと腹立たしいが、「韓国の人は情に厚いからね」と、本人は楽観的だ。「今の日本の子どもたちは韓国の音楽が大好きでしょう?この子たちが大人になった頃には、もっと日韓はいい関係になりますよ」。先駆者としてもがいてきた佐藤さんの懐の大きさに、私も見習いたいような気持ちになった。今年こそ、5枚目のアルバムが発売できますように。