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「ローマにうまいものなし」は覆された マイケル・ブースが驚いた一皿

マイケル・ブースの世界を食べる
北村玲奈撮影

パリの最たる秘密は、パッとしない天気だと人はいう(確かにそうだ)。ローマに関していえば、パッとしない食事だろう。飾らない食堂から気取ったミシュラン星付きレストランまで、何年も何食も食べてきた。「郷に入っては郷に従え」を守り、地元の人たちと食事をともにすることを心がけてきた。なのに依然、この国の首都で、まっとうにおいしいイタリア料理を楽しめたことがない。

私にとってイタリア料理は、日本、中国、フランス、インドと並ぶ世界5大料理だというのに、なぜローマにはがっかりさせられるのだろう?

私は最近、再びかの地にいた。ローマの食がいかに残念かを嘆いていたので、嫌気がさした担当編集者の一人が私を「テイスト・オブ・ローマ」という食の祭典へと送り込んだのだ。この祭りでは、ローマのトップシェフ14人が自身の店で出すような料理の低価格版を、使い捨て食器で提供する。ミシュラン星付きのシェフも多く、料理は確かにおいしかった。ただ、プラスチックのカトラリーで立ったまま、屋外で人にもまれながら食事をするのは楽しくなかった。私は全く「食フェス」向きではないのだ。

シェフの中には今ローマで一番有名なハインツ・ベック氏もいた。彼のレストラン「ラ・ペルゴラ」は、名門ホテル「ウォルドルフ・アストリア」にあるミシュラン三ツ星店だ。彼はローマの食風景はよくなっていると主張した。古くて退屈な食堂や驚きもない昔気質のレストランに挑む、刺激的な店の誕生という革新が起きているというのだ。しかし、そこには問題もあった。「観光客はローマに来ると古典的な料理を求める」とベック氏。「メニューにカルボナーラがないと文句をいうんだよ」

うまみの爆弾が炸裂

翌日、それを体験することとなる。有名なカンポ・デ・フィオーリ広場近くの「ロスチオーリ」でランチしたときのこと。高齢の日本人男女2組と相席になった。うち1人の女性が、他の3人をカルボナーラ目当てで連れてきたことがわかった。だから、カルボナーラが最近メニューから外れたことをウェーターから礼儀正しく告げられた彼女は、世も末といった雰囲気だった。女性は、この衝撃的な知らせをウェーターに何度も繰り返させた。「カルボナーラが? メニューにない?」。彼女は、信じられないとばかりに私を見た。「なぜ?」。たぶん、何年も何千回もカルボナーラを作ることにシェフも飽き飽きしていたのでは。心の中でそう思った。

その夜、デボラ・トメウッキ氏というシェフが経営するディナークラブ「クオチンカーサ」で食事をした。味は最高だったが、ローマに特化しているわけではない。シチリア料理もあれば、イタリア北部で食べられるラビオリもあり、デザートはアマルフィ産レモンを使っている。しかし、デボラ氏が教えてくれたローマでお薦めのレストランが、あの街の食風景に対する私の考えを覆してくれたのは喜びだった。

その店「ラ・マトリチャネッラ」は、観光に適した立地でありながら、子牛や子羊、豚の内臓を専門的に扱っている。肉は通常、大きく四つの部位に分類するが、内臓は現地の肉屋から「第5の部位」と呼ばれている。万人受けはしないだろうが、私には一番味わいがいのある部分だ。

そこで食べたのが、今は絶対的お気に入りの一品になった「リガトーニ・コン・ラ・パヤータ」。母親のミルクしか飲んだことがない乳離れ前の子牛の腸を使った料理だ。腸にはおいしいミルクが消化されたものだけが詰まっている。リコッタチーズにも似て、うまみの爆弾ともいうべきだろうか。トマトソースの酸味の切れ味もいい。私はすっかりやみつきになった。

何より、ローマでもこんなに素晴らしい料理に出合えるということが、ようやく証明されたのだった。(訳・菴原みなと)