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ベトナムの牛乳はなぜ砂糖入りなのか?

子連れで特派員@ベトナム
「バビ特産」と看板を掲げた懐かしげな店内で、お菓子や牛乳などを売るお姉さんたち=鈴木暁子撮影

外国で暮らしていると、日本と違う文化や習慣に驚くこともいろいろある。ベトナムに来たばかりの日本人が、あら不思議、と感じるもののひとつは「牛乳」ではないだろうか。

ベトナムでも牛乳は普通に買うことができ、成長ざかりの我が家のポコは毎日愛飲している。先日、大阪からハノイに遊びに来てくれた義母も、近くのスーパーで牛乳を買い、家族のためにクリームシチューを作ってくれた。残りはポコが後で飲めるようにと冷蔵庫に入れておいてくれたのだが、その牛乳パックを手にとったおとっつあんは、「むむ、これは……」とうめいた。パックにはベトナム語で「Co Duong」と書かれていたからだ。

ベトナムの牛乳売り場には必ずといっていいほど2種類の牛乳が置かれている。一つは「Khong Duong」、もう一つが「Co Duong」。Duong(ズオン)とは砂糖のこと。つまり前者は砂糖なし、後者は砂糖入りの牛乳だ。まるでわなをしかけるように、そっくりな容器に入っているため、私もうっかり砂糖入りを買ってしまったことがある。シチューはとてもおいしかったけれど、砂糖入り牛乳をそのまま飲むと、かなり甘い。なぜ、砂糖入りが売られているのだろう。

ポコがよく飲む中部ダラット産の牛乳。左が砂糖なし、右が砂糖入り。「It Duong(砂糖少なめ)」という種類があるメーカーもある=おとっつあん撮影

ベトナムでは食料品はかなり安く手に入る。だが、牛乳の価格は1パック4万5千ドン(約207円)前後と、日本と同じぐらいだ。さらに、ベトナム各地を訪ねても、乳牛らしきものはほとんど見た記憶がない。もしや、機械化されたロボット牛が、工場でひっそりとお乳を出しているのでは……とSFの世界を想像してしまう。

もう一つのなぞは、「ハノイ牛乳通り」だ。といってもこれは、私がひそかにそう呼んでいるだけで、ハノイ郊外のバビという地区の近くの道路のこと。通りに沿ってベトナム語でSua(牛乳)と書いた看板を掲げた店がずらーっと立ち並んでいる。

ある日、ポコと「いくつ牛乳屋さんがあるか数えてみよう」とカウントしてみたら、途中から数えただけで46軒あった。日本だったら、「おいしい生乳ソフトクリーム」「特製ミルクプリン」などとノボリを出して個性を競い合い、店も淘汰(とうた)されていくと思うのだが、ハノイ牛乳通りでは、ドライブインのような店に、どこも同じ箱入りの固形菓子やプリンといった商品が並ぶだけ。試しに買ったヨーグルトはけっこうおいしかったが、なぜかヤギの乳で、なぜかアロエも入っていた。ヤギと牛の生乳らしき値段表はあるものの、後ろの冷蔵庫にしまい込んでいるのか牛乳屋さんらしさがない。このつっこみどころの多さはなんなのだ。

ハノイ牛乳通りにあるなぞの牛乳屋さんの一つ=鈴木暁子撮影

牛乳をめぐる様々な謎を解くときが、ついにやってきた。ベトナムの牛乳市場の4割を占める業界ナンバー2のTHミルクの記者会見があったのだ。そこで出会ったイスラエル出身という同社のコーヘンさんはこう話した。「日本では70年代には牛乳が広まっていたでしょう。韓国で一般化したのはそれから20年後、そしてベトナムは40年後です。ベトナムで牛乳を飲むようになったのはまだごく最近なんですよ」。なるほど。牛乳は、ベトナムではまだまだ新しい商品なのだ。

ベトナムでは、海外から粉末状の牛乳を輸入して加工した「還元牛乳」と呼ばれるものが、まだ多く売られているという。乳牛をあまり見ないのは、そもそも飼育頭数が少ないからなのだ。2009年に設立し、北中部ゲアン省に現在4万5千頭の乳牛を飼っているというTHミルクが、自社製品を「True Milk(本当の牛乳)」と名付けて売っているのは、「還元牛乳ではなく本当に牛からしぼりました」という誇りの表れなのだという。牛乳がもっと早く普及していたら、甘い練乳入りで知られる名物のベトナムコーヒーも、宗主国だったフランスのように牛乳を入れた「カフェオレ」になっていたかもしれない。

では、なぜ砂糖入りの牛乳があるのか。インド出身というTH幹部のマンダールさんは、「ベトナムのような牛乳消費の新興市場では、180-100ミリリットルの小さなパックの製品が多く販売されています。消費するのは主に子どもたちです。砂糖は飲みやすくするための工夫ですが、今後は砂糖なしの牛乳がさらに増えていくと思います」。ふむふむ。日本でも牛乳が苦手という人はいるが、牛乳が広まりつつある段階のベトナムでは飲みにくいと感じる人も多くいるのだろう。カルシウムなどを含む牛乳を子どもに飲んでほしい、じゃあまず砂糖入りからね、というのもいいのか悪いのかよくわからないが、健康志向の高まりで砂糖は避ける方向に向かっているようだ。

牛やヤギの乳を売る売店であることをうたう看板=鈴木暁子撮影

そして牛乳通り。支局助手のビンさんと話していたら、「あれはお土産屋さんよ」という。バビ地区は数少ない乳牛を飼育している場所でもあり、どこかへ出かけた帰りのちょっとめずらしいお土産に、牛乳はぴったりだったのかもしれない。30年近くベトナムに住んでいる日本人の方に聞くと、ベトナムに来た当初は牛乳が売っておらず、「ここでは飲めないんだ」としみじみ感じたのだという。

先日の会見でTHミルクは、日本の慶応大学病院などと組み、ハノイ郊外に大規模な病院を作る計画を発表した。THミルクのタイ・ティ・フオン会長は、「ベトナムのみなさん、もう海外に行かなくても予防医療が受けられます」と呼びかけた。「健康によい」という牛乳のイメージが企業の売りになる時代が、ついにベトナムにもやってきたのだ。