国外で暮らす日本人の在留先で一番多いのはアメリカですが、その中でも日本の本社から海外赴任先としてやってくる駐在員人口が世界一多いエリアはサンフランシスコ・シリコンバレーではないかという気がします。シリコンバレーはご存知、Apple、Google、Facebook、Uber、Salesforceをはじめとした巨大ハイテク企業だけでなく、次々と新しいスタートアップが集中して誕生するエリアでもあります。
駐在員を配置する主な目的は、新規事業のネタとなる情報収集、次のプロジェクトや製品開発に繋がるスタートアップのお買い物、提携先探し、ネットワーク構築、自社製品の海外展開などで、100人規模で駐在員を送る大企業メーカーもあれば、シリコンバレーブームのさなか、一人か二人とりあえず駐在員を配置しておかないと取り残されるのではというプレッシャーを感じて投入する企業までさまざまです。
駐在員家族で圧倒的に多いのが、夫の赴任が決まり、妻と子供を連れてくる(もしくは現地で子供が生まれる)というパターン。単身女性の赴任は今までもわりと存在していましたが、ここ数年、妻(子供の母親)の駐在が決まり、家族を連れてくるケースが見られるようになりました。
夫の駐在が決まった場合、仕事を中断して夫に帯同し、駐在員妻(略して駐妻)となる人も多いですが、妻の駐在が決まった場合は、子供のサポート体制や夫の仕事をどうするかなど、家族の間で決めるのはなかなか複雑かつ難しいようです。
また、「すべての女性が輝く」活躍を目指す政策に寄り添った大企業であっても、彼女たちが長年の念願の海外赴任が決まって、「子供を連れて行きます!」と会社の人事に伝えると、「なんで連れて行くのですか?」とびっくりされたり、男性の駐在員には絶対に言わないような露骨な嫌味を言われたり、「前例がありません」などと抵抗されたりすることもあるようです。それでも男性も含めた同僚の「後に続く女性たちのローモデルになるように頑張って!」「海外赴任なんて諦めてたけれども、そういう方法もあったのねー。私も手を挙げてみる!」という声が励みになったと、ママ駐在員たちは振り返っていました。
私の周囲には下の3パターンで、シリコンバレーで活躍している駐在員ママがいます。
1. 夫(子供の父親)が仕事を辞めて、もしくは配偶者の転勤に伴う休職制度などを利用して、もしくは同じ地域に赴任して妻に帯同する。
2. 夫は日本に残り、妻が子供と自分の母親を連れてくる(妻の父親は日本に残り単身生活となる)。
3. 夫は日本に残り、妻が子供だけを連れて赴任する。
1のケースが一番多いですが、3の場合は、任地に頼れる家族がいないので、子供のサポート体制はいくつものバックアップを用意しておく必要があります。夫の出張が多くワンオペの日々が多い私も、学校の後には日本の学童保育のようなアフタースクールに入れる、信用できて子供との相性がいいシッターを何人か確保する、出張のときにお泊まりさせてもらえる家族ぐるみの友人関係を構築するなど、さまざまな対策を練っています。毎日綱渡り状態の調整が続き、アレンジに費やす時間もかなりのものです。そして、もちろん子供は病気になったり、怪我もします。そんなときは一瞬目の前が暗くなり、軽く動悸がします。これは、日本で共働きの方も同様かもしれないですが、何の人脈もなく転勤してきたママたちにとってはなおさら大変なことでしょう。
アメリカには子育てのサポート体制の一つのオプションとしてオペアという選択があります。オペアはその国以外の若者がホストファミリーと一緒に暮らし、ベビーシッターとして働きながら、語学学校などで学ぶ留学システムです。共働きが多いサンフランシスコ・シリコンバレーにはオペアを利用している家庭は多いですし、小さい時にオペアがいた、という人も結構いるんです。
他人と一緒に住むなんて、というのと、費用のことで驚かれることが多いのですが、エージェンシー代、保険、授業料のサポートなどの初期費用は1万ドル(100万円弱)かかるものの、その後は食費と週に200-250ドルの給与で済みます。物価の高いシリコンバレーではシッターの時給も20ドル以上。オペアが1週間40-45時間働いてくれるのと同じ時間量をシッターにお願いするよりずっとリーズナブルにすみます。シッターの手配を常にする手間が省ける、いつも同じ人にお願いできる、スケジュールがフレキシブルなどのメリットもありますが、家族以外の人と一緒に住むわけですから、その人の性格やホストファミリーとの相性はもちろん重要です。
日本で英語圏のオペアを雇った場合、子供に英語で話しかけてもらってバイリンガル教育につながるということもあるかもしれません。一人部屋を提供しなければいけないなど家のスペースのハードルはあるかもしれませんが、日本に暮らしてみたい、日本で日本語を学びたい、という若い外国人は多いので、共働きの増加に伴い、オペアもいつか日本に普及する「かも」しれないですね。