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タコも夢を見る? 動物はなぜ眠るのかを探し求めて

美ら島の国境なき科学者たち 更新日: 公開日:
OISTマリン・サイエンス・ステーションに住むタコの「オットー」

私たちが毎日当たり前に行っている「睡眠」。人間だけでなく、多くの動物にとっても眠るという事は重要なのです。この睡眠については、まだわからない事も多いため、多くの研究者がいろいろな観点から研究を行っています。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の物理生物学ユニットの研究員であるテレサ・イグレシアス博士もその一人。テレサは今、特にコウイカやアオリイカのような頭足類がどのように、そしてなぜ眠るのか理解しようとしています。

テレサは幼少の頃から、いろいろなことに疑問を持つ子どもでした。近所の犬たちの大合唱に熱心に耳を傾けて鳴き声の意味を理解しようとしたり、鳥の群れが電線に止まるときに美しく均等に並ぶのはなぜなのか考えたりしていました。米国オクラホマの実家で百科事典をめくっては、答えではなく、むしろさらなる疑問を探求していました。

「私が特に魅了されていたのは、動物の世界でした」と、テレサは言います。「動物と触れ合うことで、優しい気持ちや愛情を感じることができました。でも、動物は私のことをどう思っているのか?彼らの心の中では何が起こっているのか?それはわからないんですよね」

大学院に進学したテレサは、鳥の一種であるアメリカカケスの行動について博士論文を書きましたが、その後、彼女の興味は空から海へと移りました。ある動物学会に参加したときに、とある研究者によるコウイカの睡眠に関するポスター発表を見たことで、睡眠の研究に興味を持ったのです。なぜなら睡眠こそ、動物王国における最大のミステリーであり、それを解き明かす研究にはすごく価値があると思ったからです。現在、彼女は多くの時間をOISTの臨海施設であるマリン・サインエンス・ステーションで過ごし、頭足類の睡眠パターンを研究しています。

テレサが研究しているコウイカ

睡眠における多くの謎

テレサの最大の関心が、睡眠中に起きる急速な眼球運動(レム)です。レムについてはまだ謎が多いのですが、レム状態は記憶の統合にも重要な役割を果たしていると考えられています。レム睡眠中の人間の目は、まぶたを閉じたまま素早く前後に動き、血圧と心拍数が増加し、呼吸が早くて不規則になります。

レム睡眠は人間固有のものではない、とテレサは言います。驚くべきことに、他の哺乳類や鳥、そしていくつかの爬虫類もレム睡眠をします。レム睡眠がどのように、いつ発生して進化したのかはまだわかっていません。複数回、または一度だけだったのかもしれませんが、その進化が生物種によって生理学的および神経学的に異なるレム睡眠を発達させて来たのかもしれません。さまざまな動物のレム睡眠を理解することで、この神秘的な行動がどのように発達して来たのか、またその目的を明らかにすることができるでしょう。

外を覗くタコのオットー

生涯にわたる変化も観察

10月のある晴れた日、テレサは、キャンパスから8kmほど北に位置するOISTマリン・サイエンス・ステーションを案内してくれました。テレサはこの施設で、水槽の外に置いたビデオカメラでコウイカを継続的に撮影し、コウイカのレム睡眠と見られるような行動の証拠を探しています。

動物が周期的に色素胞を活動させるのは、レムに似た行動の一つです。色素胞とは、色素が入った袋のような器官で、その端から筋肉が放射状に広がっています。眠っている間、筋肉が収縮して袋が拡大すると、イカは色が濃くなります。これまでにテレサは、腕のけいれん、目の動き、肌の質感の変化も観察しており、これらがレム睡眠のような状態を示していると考えています。

OISTマリン・サイエンス・ステーションからの眺め。OISTメインキャンパスと同じく沖縄県恩納村にある。

テレサの研究は、行動を観察するだけではありません。行動の背後にある進化的理由と、それが時間とともにどのように発達したかを理解しようとしており、頭足類の睡眠行動において個体発生を研究しています。個体発生とは、個々の動物の生涯にわたって行動がどのように発達するかを意味します。

全体として、若い動物は、成長した動物よりもかなり多くの時間を睡眠に費やしています。これは皆さんも実感としてわかるかもしれませんが、人間にも当てはまります。ティーンエイジャーは高齢者よりもはるかに多くの睡眠を必要とします。テレサは、イカの卵をビデオ撮影し、成長を追跡することにより、イカの睡眠時間がだんだん短くなるという、私たちと同様の発達軌道を持っているかどうかを調べようとしています。また、イカの卵は半透明であるため、中の様子を見ることができることから、孵化する24時間前にすでにレム睡眠のような行動をしていることも見出しています。今後テレサが目指すのは、イカの脳のどの領域が、この謎めいた行動に関係しているのかを追求することです。

テレサがビデオ録画しているコウイカの水槽

聞いてみたかった質問をしてみました。イカやタコなどの頭足類は寝ている時に夢を見るのでしょうか?

テレサは、「それ、よく聞かれる質問なのよ」とした上で、最近、寝ている状態のタコの体が、鮮やかな白から黄色、紫へと急速に変化したのをある科学者たちが観察し、これは、タコが夢を見ている証拠ではないかというニュースが話題となった話をしてくれました。ただ、テレサは、これはまだ時期尚早の結論ではないかと考えています。

「イカやタコが夢を見ているかどうかを判断するための十分な情報は、まだないと言うしかないの」と、テレサは言います。 「でも、私たち人間は夢を見る。そして私たち人間も動物。そう考えると、不可能とは言えないわね」

今後テレサたちの研究が進むと、動物の夢についてもっとく詳しくわかるようになるかもしれません。

(OIST広報メディアセクション アナ・アーロンソン)

OISTキャンパスの中庭で海を見ながら話すテレサと著者のアナ・アーロンソン