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難民から大統領補佐官になった彼女が東ティモールで起こすイノベーション

アジア発のソーシャルイノベーション 〜バリ島からの便り〜
人身売買、少女兵、亡命を経て大統領補佐官となり、東ティモールの未来のために人生を賭けるベラ・ガルヨスさん(アースカンパニー提供)

3歳で父親に軍隊に売り飛ばされ、虐待や暴力にさらされ、難民となりながらも、祖国の独立運動に身を投じた、そんな人が東ティモールの大統領選に立候補しようとしているのをご存じでしょうか。

彼女の名前はベラ・ガルヨス。

私は、世界から社会課題の解決を目指す人々が集まるバリ島ウブドを拠点に、並外れた変革力を持っているアジア太平洋のチェンジメーカーを支援するEarth Companyという団体を運営していますが、この団体を設立するきっかけとなったのがこの女性、ベラ・ガルヨスとの出会いでした。

今日は、彼女のために団体を設立するほどに私たちをインスパイアした彼女の想像を絶する生き様を通して、そこから生まれたソーシャルイノベーションと、変革を生み出す「源」について、ご紹介します。

(アースカンパニー提供)

ベラと私が出会ったのは2008年、ハワイ大学大学院で共に学んでいた時です。彼女は奨学金の一部を仕送りに当て、43人の兄弟始め100人を超える親戚・遠戚の家計を支える傍ら、独立して間もない東ティモールを 再建するため、勉学に励んでいました。日々、彼女の過去、そして描く未来についての話を聞き、「将来この人が動く時には、絶対に支援しよう」と心に決めていました。

「当事者」だからこそ生まれる信念と覚悟

ベラの母国、東ティモールは、ポルトガルの植民地支配からインドネシア軍による占領まで500年近くもの間、他国の支配下にあり、紛争が続いていました。内戦により多くの人が家族や親戚を亡くし、暴力が日常化していた同国で家庭内暴力は珍しくなく、男勝りだったベラは幼いころから、父や兄弟から日常的に暴力を受けていました。3歳の時、実父にたった5ドルでインドネシア軍に売り飛ばされ、ベラの母親が命をかけて彼女を救い出しましたが、母親もまた身の危険を感じるような家庭内暴力を受け続けていました。父が母親の太ももに刺した錆びた釘を幼いベラが泣きながら抜いた経験は、未だに彼女の中でトラウマとなっていると言います。

暴力の被害者であり、「暴力が日常に溢れる社会を変えたい」と切実に願ったベラは、そのためにも、まずは他国の支配から独立し紛争を終わらせなければと、当時は珍しい少女兵として独立運動に身を捧げましたが、インドネシア側に目を付けられ、身を守るために自らインドネシア軍に入隊。そこで性的・肉体的な暴力を受けながらも、水面下で独立運動を支える二重生活を続けていました。その後、国外へと逃がれ、難民生活を経てカナダに亡命。国外から独立を支援しました。

独立後は、大統領補佐官に大抜擢され、国の再建のために大統領と共に荒れ果てた国中を歩いて回りました。そこでベラが目にしたのは、独立を果たした新しい国への希望ではなく、長い紛争がもたらした貧困と、意欲や向上心を失い荒んでしまった人々の心でした。

(アースカンパニー提供)

父や兄弟のように人々が暴力的なのは、破壊と争いの中で育った彼らが「何かを育む」「人を大切にする」ことを知らないからだと悟ったベラは、この国から暴力をなくし社会を変えるには、未来を担う若者たち、子どもたちの教育が必要だと痛感します。

現にベラも、それまでに受けてきたあらゆる暴力による「怒り」に悩まされていました。そう、彼女もまさに、溢れる暴力により「育むことの喜び」を知らないジェネレーションの1人だったのです。

それは彼女にとって何よりの葛藤でしたが、彼女にとって、「怒り」を唯一忘れられる場所があったのです。それが、自然と触れている時でした。彼女は、土に触り、種を植え、そうして自分が植えた野菜や花が命を実らせていくのを見ることで「育む喜び」を初めて知り、その中で彼女のトラウマは、徐々に癒されていったのです。

東ティモールを持続可能な発展へと導くグリーン・ビレッジ

(アースカンパニー提供)

そしてベラは、アジアで最も若く貧しい国・東ティモールを、持続可能な発展へと導くためにソーシャルイノベーションを起こします。

石油資源に依存して他の産業が育たず、その石油資源もあと30年もすれば枯渇してしまうといわれる東ティモールで、従来の資本主義に代わる持続可能な発展モデルとしてベラが設立したのが、豊かな自然と地域のリソースを活かし、人と自然が共存する「グリーン・ビレッジ」でした。

日本からの支援で2015年に設立されたこの「ルブロラ・グリーン・ビレッジは」は、首都ディリから車で3時間の貧しい山岳地域にあり、①環境教育を通じて子供たちの「育む心」を育て、持続可能な未来を創るリーダーを育てるグリーンスクール、②地域の貧しい女性たちの経済的自立を支えるオーガニック農業組合の運営、③それらの事業運営を支える収益事業としてのエコツーリズム、を展開しています。

(ルブロラ・グリーンスクール提供)

ベラと仲間達が自ら山を切り拓き開墾していった土地は、今や年間500人の子どもたちが学び、過疎化しきった貧困地域には年間2000人以上が国内外から訪れるようになり、地域の女性達に生計を与えることで地域の活性化が進んでいます。

(ルブロラ・グリーンスクール提供)

東ティモール初の環境学校の運営や、貧しい女性たちが生計を得る手段をもたらし、荒廃した土地を緑豊かな大地に変えたベラの取り組みは、「東ティモールで最も美しい場所」「東ティモールの全地区で展開すべきだ」と大統領からも絶賛されるほどのモデルとなっています。

LGBTIの子どもたちを守るシェルターの設立

(ルブロラ・グリーンスクール提供)

さらにベラは、同性愛者であることを公言している国内唯一の女性でもあります。そして近年、自らの経験と同じ境遇に苦しむLGBTIの子どもたちを支援するプロジェクトも始めました。

東ティモールには、親から虐待を受けたり、捨てられたり、教師や友達からも追いやられ、学校にも行けず、就職もできないLGBTIの子どもや若者がたくさんいます。そんな子どもたちの支援をするため、オーストラリアからの助成でシェルターを建設し、雇われずとも生計を立てられるように職業訓練を提供しています。

さらに課題の根源の対策として、LGBTIだからと子どもを虐待をする親と直接話し合い、LGBTIへの理解を促進しています。元大統領補佐官でもあり国内では有名人のベラの話を聞いて、初めてLGBTIに理解を示してくれる親も少なくありません。

同性愛者であるベラは、親にさえ「お前はおかしい」と差別され虐待されるLGBTIの子どもたちの痛みがわかります。自分自身も、男の子のように振る舞う彼女を毛嫌いした父親にインドネシア軍に売られるという経験をしているからです。当事者だからこそ、被害者の気持ちを誰より理解することができ、その課題の真の弊害、深刻さ、根深さを知っています。そして、それに苦しむ人達の信頼を得て、「希望」となることができるのです。

LGBTIへの偏見が根強い東ティモールでカミングアウトすること、また一般的な価値観を破って「LGBTIのためのシェルター」を設立することには、大きな勇気が必要です。しかし彼女には、「止まる」という選択肢がないのです。それは彼女は多くの人たちの思いを背負い、彼らの未来を託されているからなのです。

社会的弱者を生み続ける社会は発展しない

(ルブロラ・グリーンスクール提供)

「環境学校やエコツーリズムの運営」と「LGBTIの子どもたちのシェルター運営」というベラが取り組む2つの事業は、一見、何の関連性もないように見えるので、疑問に思う方も多いでしょう。

しかしベラにとってはとてもシンプル。「環境」と「LGBTI」という二つのことに取り組んでいるのではなく、「社会的弱者を作らない社会を創る」という一つのことをしているだけなのです。「社会的弱者を生むような社会は発展しない」というのがベラの信念なのです。

彼女はもちろん、ソーシャルイノベーションを生み出すことそのものを目指しているのではありません。「自分が生きた苦悩を、次世代に絶対に継がない」というゆるぎない信念と覚悟が、結果的にソーシャルイノベーションを生み出しているのです。

だからベラはよく言います。「私は特別ではない。変革を起こす力は誰もが持っている。そしてその変革は、自分の内側を見直すことから始まる。誰もが変革を起こす力があることを、思い出してほしい」と。

そしてベラは2022年、東ティモール大統領選挙に出馬します。元大統領でノーベル平和賞受賞者であるジョゼ・ラモス=ホルタ氏はじめ、若者、女性、マイノリティ、変革を求めるたくさんの人々が支持を表明しており、当選すれば東ティモール初の女性、かつ同性愛者の大統領が誕生します。

そんなベラに会える機会があります!

(アースカンパニー提供)

国連が掲げる2030年までの持続可能な開発目標SDGsは、今や毎日ニュースで聞かれるようになり、民間企業までもが取り組み方を模索していますが、「どこから始めて良いのか分からない」「私にできることは?」「社会課題ってそもそも解決できるのか」という声がよく聞かれます。

確かにそれは答えるのが困難な質問です。しかし、ベラのようなチェンジメーカーたちには「解決できるとわかっている課題だけ解決しよう」というチョイスはないのです。課題解決は、言うまでもなく一筋縄にはいきません。しかし彼らは、強く彼らを突き動かすものがあるから、できることから始め、必死に走ってきたのです。

世界には、ベラのように自分たちと同じ境遇の社会的弱者たちを全人生を賭けて救おうとするチェンジメーカーがたくさん存在します。私たちはそんな彼らを「IMPACT HERO(インパクト・ヒーロー)」と呼んでいます。人身売買経験者、元少女兵、元難民、元ストリートチルドレン、10代を刑務所で過ごした無実の少数民族出身者、家族が課題の犠牲となり命を落とした人…。従来の発想に捉われないソーシャルイノベーションを生み出す彼らのバックグランドは様々です。

Earth Companyは、そんな彼らに日本で出会えるイベント「IMPACT HEROES DAY」を10月6日(日)、東京・日比谷で開催します。ベラや、アジアで無償医療を提供する「現代のマザーテレサ」始め、社会課題の「被害者」から「チェンジメーカー」へとシフトしたイノベーターたちに会ってみたい方、彼らの覚悟と情熱に触れてみたい方、自分の中にもある変革の力を見つけたい方、ぜひ、足を運んでみて下さい。

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