バリ島に、自然分娩で子どもを産みたい女性たちが世界中から出産しにくる助産院があります。その助産院の名は、ブミセハット国際助産院。
筆者も実はその一人。2014年にバリ島に移住する際、第二子を妊娠8ヶ月だった私は、バリ島で息子を自然分娩で産めるところを探していて出会ったのが、伝説の助産師、「現代のマザーテレサ」として知られるロビン・リム。
ロビン・リムはフィリピン系のアメリカ人ですが、今から27年前に、当時アメリカに住んでいた妹が、出産間際に不調を訴えたのに医者が忙しくて診てくれなかったために、お腹の子と共に亡くなってしまいました。悲しみに打ちのめされたロビンは、人生を再開する新天地として、バリ島を選んだのです。
その頃、バリ島のウブド、ニュークニン村では、伝統の産婆さんが亡くなろうとしていました。不安を隠せない村の人々に、その産婆さんは、「大丈夫、10日後に、私の代わりが来るから」と言い残し、亡くなりました。まるで映画のような話ですが、その10日後にニュークニン村に現れたのがロビンだったのです。
そこでロビンが目の当たりにしたのは、自分の妹のように、救える命なのに救われないケースが、途上国であるバリ島では日常茶飯事だ、という事実。そして彼女は、
「愛に生きよう。そうでなければ、なんのために生きるのでしょう。」
と悟り、助産師になることを志しました。
それからロビンはアメリカで助産師の資格を取ってバリ島に戻り、以来、貧しい妊産婦に寄り添っているのです。そしてその活動は20年という時を経て、今やインドネシアとフィリピン4拠点に拡大し、また世界各地の被災地域で、24時間365日、医療にありつけない妊産婦に対して、産科医療を無償で提供する国際NGOとなりました。これまで約1万人の赤ちゃんを安全にこの世に迎え、年間8万人の人に手を差し伸べています。
ブミセハット流お産モデルの特徴は、とにかく妊産婦さんの声に耳を貸す、彼女たちのニーズに寄り添う、自然の力に逆らわない、ということ。なぜなら、お母さんたちには本来「産む力」が備わっている。そして赤ちゃんも、「生まれる力」を持っているから。それを最大限に引き出すことができれば、多くの赤ちゃんは、安らかに生まれることができると考えています。
それは高度な医療や膨大なコストを伴うことではなく、お産を、マニュアル的なプロセスではなく、愛を持って産婦さんに接すること、お母さんの人としての尊厳、そして「いのち」の尊厳を大事にすること、そんな基本的なことが根底にあるのです。
それは途上国や被災地という、人が貧しく、医療設備が足りないハイリスクな環境では、大きな効果を発揮しました。ブミセハットでの母子死亡率、大量出血率、会陰切開率は、医療設備があり、高い医療費を請求する大型の病院よりも遥かに低く、実は先進国の水準と比べても優良な実績を残しています。
またブミセハットでは、出産に留まらず、産後も、100%のお母さんが授乳をできる状態にして退院させてあげることを徹底しています。貧しいお母さんたちが自宅に帰った時、おっぱいがあまり出なければ、赤ちゃんが鉄分欠乏症や栄養失調に陥ったり、人工乳を買えたとしても、母乳でしか得られない免疫力がつかなければ、途上国のようなハイリスクな環境では生存率を最大化できないからです。
だからこそ、今、世界中からブミセハットが求められています。パプア、フィリピン、ロヒンギャ難民キャンプ、ギリシャのシリア難民キャンプ…。これらは全て、ブミセハット国際助産院に、昨年クリニック開設の依頼があったところです。
しかし実は、ブミセハットを求めているのは医療アクセスが不足する途上国だけではなく、欧米からも、わざわざブミセハットで産みたい!と海を越えてやってくる妊産婦が急増しているのです。なぜなら、日本でもそうですが、近年、無痛や和痛分娩、陣痛促進剤の使用、そして帝王切開が急激に一般的になり、ごく自然に、お母さんが産みの苦しみを噛み締めて出産をできるところが減ってしまったからです。
かつ、「いのちの尊厳」を大事にし、丁寧で自然な出産が母子にもたらすメリットも、近年注目されています。つい今年2月には、あのWHO(世界保健機関)も、それを科学的根拠に基づいて推奨する文書を発表しました。世界がやっと認識し始めたことを、ブミセハットは20年も実践し続けてきたのです。
「子どもにとって、人生で一番最初の学びの場は子宮」とロビンは言います。ブミセハットは、出産が赤ちゃんの今後の健康、知能、意識と人間性に与える影響を何よりも大事にしています。
そんなロビン・リムが、まさに今、来日しています!9月10日まで、様々なイベントで登壇されますので、ご関心のある方は、ぜひ足を運んでみて下さい!