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紙芝居と絵本を載せて、バイク式図書館はミャンマーを走る

ミパドが行く!
ミャレイヨン僧院学校で、移動図書館を囲む子どもたち=八木沢克昌撮影

この30年間、毎年のようにミャンマーに通ってきた。2011年に民政移管したミャンマーは今、まさに激動の時代。明治維新と戦後とIT革命が同時に進行していているような雰囲気だ。毎回、発見と驚き、感動がある。

そのミャンマー最大都市のヤンゴンから北へ300キロのバゴー地域・ピィ。街から走り出したバイクは、ゆったりと走る2頭の牛が曳く牛車を追い越す。目指すは、街外れの田んぼの中にあるミャレイヨン僧院学校。仏教の僧院の中に信者の寄付によって小学校と中学校が併設されている。生徒は453人だ。

校庭の木陰にバイクが止まると顔に白っぽいミャンマー伝統の顔料の「タナカ」を顔に塗った子どもたちが歓声を上げながら駆け寄ってきた。子どもたちが見守る中でバイクの左右と後ろの扉が開く。左右の扉には隙間なく色とりどりの200冊の絵本が並ぶ。車体には、本を読む子どもたちと虹のシンボルが描かれている。このバイクは移動図書館。ピィの町工場を口説いて、庶民の足でもある三輪式バイクを試行錯誤を重ねて改造し、私たち、シャンティ国際ボランティア会とミャンマー情報省と日本の協力で2015年から走り始めた。現在、このバゴー地域の西部に14台。東部に8台の合計22台が走る。

ミャレイヨン僧院学校で、バイク式図書館を取り囲む子どもたち。外務省日本NGO連携無償資金協力を受けているので、日本の国旗も見える=八木沢克昌撮影

移動図書館の活動は、歌と手遊びから始まる。子どもたちの緊張がとけたら、ミャンマー語の絵本の「読み聞かせ」。続いて、日本式の紙芝居。紙芝居には茶色に塗られた木製の舞台がある。紙芝居は、日本の専門家の指導を受けて、ミャンマー国内で出版されたミャンマー語のものだ。子どもたちは、紙芝居の絵の動きと間合いと語り手の声や表情に引き込まれていく。紙芝居は、一人ではなく皆で、物語の世界に参加し、体験を共有するから楽しい。

紙芝居をするシャンティ国際ボランティア会の図書館職員=八木沢克昌撮影

紙芝居が終わると子どもたちが待ちに待った自由読書の時間。普段は礼儀正しい僧院学校の子どもたちだが、この時ばかりは、我さきにと移動図書館へと向かって走り、本棚を取り囲む。絵本を手に取ると待ちきれずに、立ったまま絵本を読む子どもまでいる。自分の好きな絵本を手に取ると地面に敷かれたシ―トの上で、貪るようにページをめくっている。まるで、蚕が桑の葉を食べているようだ。

自由読書の時間に本を読む子どもたち=八木沢克昌撮影

移動図書館に搭載されている絵本も多様だ。
子どもたちに大人気の世界の名作「おおきなかぶ」(A.トルストイ.福音館)や、「はらぺこあおむし」(エリック・カール 偕成社)といった世界の名作絵本にミャンマー語の訳文シールを貼った絵本。日本から「絵本を届ける運動」で届けられている。日本からの絵本は、訳文を貼るだけでも著書と出版社から許可を得ている。2018年だけで、4,184冊が届いた。ミャンマー国内で購入した絵本や、ミャンマー作家協会との協力により独自に出版したミャンマー語絵本もある。

ミャンマーは、GNPでは東南アジアで最低のレベル。しかし、成人の識字率は隣国のタイやマレ―シアとほぼ同水準と高い。伝統的に読書好きの国民として知られ、それを裏付けるようにピィの街中には数件の貸本屋や古本屋がある。小型トラックの荷台に古本を積んだ移動古本屋まであった。だが、子どもの本となると極めて少ない。長く続いた軍政時代の影響で出版の自由が制限させていたことが影響している。

校長のトゥザナ住職は「小学校には図書室もなく本はわずかしかない。あっても古い。子どもたちは移動図書館が来るのを待ちわびていました」と語る。

ミャレイヨン僧院学校で読み聞かせをする公共図書館の職員=八木沢克昌撮影

ミャンマー式の伝統的教育と読書の違い

だが、実は私たちが軸とする「読み聞かせ」の読書は、ミャンマーの伝統的な学習スタイルとは異なっている。仏教国のミャンマーでは、僧院での経典を暗唱した伝統から、教育は「知識暗記・暗唱型学習」型で、教科書を繰り返して読み、教師が一方的に説明するスタイル。教育とはどれだけ知識を暗記し、試験でいい成績をとるかが重要で、進学するにも熾烈な競争が待ち構えている。

昨年、公共図書館に来る小学生たちに、インタビューをして衝撃を受けた。「図書館で絵本を読む暇があったら勉強しなさい」と親から叱られ、「家で読む本は試験勉強のための本だけ」という子までいたのだ。

子どもたちが地方の農村の貧困から抜け出すためには、より高い教育を受けることが必要で、学校で良い成績をとらなければ将来が閉ざされる。学歴社会のタイやカンボジア等のアジアの国でも同様だ。一方、私たちの活動の支柱であり、魂である「読み聞かせ」は、子どもが声をあげて笑い、読む楽しさを知り、世界を広げ、知る喜びを味わい、想像力を養う土台を築くことを願っての活動だ。私たちは、大きなジレンマを抱えている。

ピィ市街地にあるヤーベータンアン小中学校での移動図書館活動で自由に本を読む子どもたち=八木沢克昌撮影

変わるミャンマーの教育と図書館

それでも、民政移管後の2011年からは、様々な教育改革が実施されている。その一つが日本のJICAの支援による「初等教育改訂プロジェクト」。教育を「子ども中心型の教育」へと転換するもので、新教科書も昨年から小学校1年生を対象に使用が始まった。ピィから2時間も離れた電気も水道もない貧しい村の僧院学校にも新教科書が届いていた。教室の机の配置もコの字型に変わっていた。「子どもたちが自ら考え、伝え、協力し、意見の交換を行いながら学ぶように改訂された」と僧院学校の先生が語っていたのには、驚いた。今年は2年生にも教科書が届いている。

新しい教科書を使用して勉強する小学2年生=タヤワディ県モニョ郡ポーカウン小学校、八木沢克昌撮影

また、私たちがミャンマーでの図書館活動を開始して3年後の2016年には、情報省の傘下の全国の公共図書館410館に、子ども図書コーナーを設置する方針が打ち出された。さらに、私たちの支援で今年からは、小学校への常設図書室の設置も始まった。今年だけでも8校に設置され、2020年間までに28校に設置される計画だ。点から面、そして、定着と普及への段階に入ってきた。伝統的なミャンマーの教育改革が本気で始まっている。

「読み聞かせ」が、貧富の格差を縮小させる

日本の最新の文科省の全国学力調査で、親の経済的社会的地位を問わずに、幼児期に「読み聞かせ」をしている親の子どもは学力が高いという結果が明らかになった。私は、タイ、バンコクのスラムから外交官になった女性や、ラオスの国営テレビの看板アナウンサー女性が、親の離婚からの貧困を克服して夢をつかんだきっかけが一冊の絵本だった事を知っている。改めて、日本の最新の調査結果は、格差や貧困の撲滅、縮小に幼児期の「読み聞かせ」や読書の機会が有効な方法となりうることを裏付けているのだと思う。

ポーカウン小学校の図書室。子どもたちは思い思いの本を手にする=八木沢克昌撮影

ミャンマー国内でのバイク式移動図書館も4年目になった。私たちの夢は、移動図書館をミャンマー全土に広げて、全ての子どもたちに絵本や紙芝居を届け、「読み聞かせ」を普及すること。世界でオンリーワンのモデルだ。私たちがタイやカンボジア、アフガニスタンなどの国々で38年間続けてきた図書館活動の経験を結集し、「ミャンマーモデル」を創り上げたい。

ピィには、ゴミ箱の食べ物を漁る路上生活の子どもたちもいる。子どもたちの約3割が小学校を卒業できないで、中学には半分しか通えていない。図書館活動は、全ての子どもたちを支援することはできず、直ぐには結果がみえないというもどかしさを、嫌という程突き付けられる。だが、「一冊の本が人生を変える」「一冊の本がミャンマーを変える」と私は信じる。様々な可能性と夢を載せたバイク式移動図書館は、きょうも、これからも、試行錯誤を重ねながら道なき道を切り開き、時に立ち止まっては走り続けるのだと思う。