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トランプ氏の人種差別発言と「メイド・イン・アメリカ」

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
ホワイトハウスのサウスローンで演説をするために登場するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

強い日差しが照りつける7月15日、私はホワイトハウスの南側にあるサウスローンという大きな庭へ猛ダッシュしていた。「メイド・イン・アメリカ・ショーケース」という、米国製品を奨励する式典が開かれるというのだが、具体的な内容については知らされていなかった。そして、まさかあのようなバトルが繰り広げられるなんて、予想していなかった。

到着して、まず目に飛び込んできたのは大型車両や船舶。その奥に視線を移すと……なんと迎撃ミサイルが!高さ約7メートルの発射装置には、しっかりミサイルが装備されている。その隣には農業機械。そして、会場の中央には大統領の演壇。その前にずらりと並ぶ招待客席。これらが全て同じ空間に存在する光景が、なんとも滑稽に見えた。しかもここはホワイトハウスだ。

ホワイトハウスのサウスローンに展示されたTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)。アメリカ陸軍によって開発された、ミサイルをミサイルで迎撃するという防衛システム=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

トランプ大統領が、いつものガッツポーズをしながら笑顔で登場する。オートバイ、キャンピングカー、ボートなどの展示アイテムを一つ一つ視察した後、ミサイル発射台の運転席に乗り込んだ。なぜか、すぐさまハンドルを握ってみせる。関係者が懸命に説明する隣で、トランプ大統領は「どうだ、すごいだろう?」と言わんばかりの表情で終始カメラ目線だ……。

迎撃ミサイル発射台を視察後、運転席から降りるトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

展示された全ての製品を視察すると、トランプ大統領はなぜか突然姿を消した。会場がザワザワし始める。その時、大統領登場の曲が鳴り響いた。ホワイトハウスの中心にある扉がゆっくりと開き、トランプ大統領が改めて登場する。さっきまで博物館にいる少年のような表情をしていた大統領は、まるで別人のような深刻な面持ちで前を見つめている。暗い室内から陰影を帯びた顔が浮かび上がる様子に、頭の中で「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーのテーマが流れ出したのは私だけだろうか……

ホワイトハウスのサウスローンで演説をするために再登場するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

「今日の式典は米国製品を祝うものです……ここに50の全ての州から製造業者が集まってくれました。素晴らしい才能を持つ素晴らしい職人、素晴らしい実業家の方たちです!」。メイド・イン・アメリカ一色の舞台で、米国産業を讃える大統領の演説とともに、「トランプ劇場」第2幕が始まる。トランプ大統領は、約20分、準備された演説を読み上げた。

ホワイトハウスで行われた「メイド・イン・アメリカ」の式典で演説するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

演説が終わろうとした時、トランプ大統領は背広の内ポケットから1枚の紙を取り出し、「報道陣の皆さん、製造業について質問ありますか?」と目の前に並ぶ招待客に向かって切り出した。一瞬会場が静まり返る。通常ホワイトハウスで行われる式典で、大統領は演説や署名を終えてすぐ退場するため、質疑応答は行われない。が、「トランプ劇場」にその「通常」はない。トランプ大統領は、問いかけた相手が招待客と気付くと、その約20メートル先に並ぶテレビカメラに向かい「今日もたくさんの報道陣が来ていますねぇ」とごまかした。

演説終了とともに背広の内ポケットからメモを取り出すトランプ大統領。お馴染みの太字マジックが見える=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

マイクが準備されていなかったため、奥のカメラスタンドから女性記者が大声で叫ぶ。「自分の国に帰ればいいというツイートは誰のことを指しているのですか?」。みるみるうちに式典が会見に変わる。この前日、トランプ大統領は4名の民主党議員に対し、「帰って、完全に崩壊し、犯罪まみれの国を直す手伝いでもしたらどうか」などというツイートを発信していたことは、日本でも報道されていただろう。議員らがトランプ大統領の移民政策を批判したことから始まった大統領による反撃は、相手が全員非白人の女性であったため、人種差別発言として物議を醸していた。

ホワイトハウスのサウスローンで演説するトランプ大統領(中央、奥)とプレススタンドから式典を撮影する記者団(手前)=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

製造業についての質問を受けるかのような素ぶりを見せたトランプ大統領だが、最初からそんな質問は想定していなかったに違いない。なぜなら、ポケットから取り出した紙には「この国は世界中で一番偉大だ」、「ここで満足しないのであれば出て行ってくれて構わない」などとタイプされていたからだ。右上には、手書きで「アルカイダ」の文字が追加されている。ちなみに、油性マジックで書かれた「Alcaida」のスペルは間違っていた。正しいスペルはAl Qaeda。トランプ大統領はよくこのようなメモを持ち歩くため、油性太字マジックの手書きは大統領本人のものだと思われる。

問題ツイートをめぐる質問に対して、トランプ大統領はメモ通りにこう答えた。「ここで満足しないのであれば、(米国から)出て行ってくれて構わない」。次の瞬間、招待席からの拍手喝采と記者団からの更なる質問が交差した。

ホワイトハウスのサウスローンで演説を終えた後、記者からの質問に答えるトランプ大統領。左手にはメモを持っている=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

「4議員のうち3名はアメリカで生まれていますが、(国に帰れとは)どういう意味ですか?」と他の記者が続ける。すると大統領は、「この国を出たいのであれば、出て行ってくれて構わない」と繰り返した後、メモを見ながら、「議員の一人はアルカイダを讃えているじゃないか」と声を張り上げた。

「でも彼女たちは米国市民ではないですか?」「差別ではないのですか?」などと記者たちが一斉に叫ぶ。すると、トランプ大統領は続けた。「でも彼女たちはこの国を愛していない!」

途中、大統領の両脇に終始無表情で立っていた護衛隊員たちが背後の扉を開け出した。もちろん護衛隊員は指令に従っているだけだが、「そろそろ時間ですよ」とでも言っているかのように見えた。その5分後、護衛隊員らはトランプ大統領を一人残し、ホワイトハウスの中へ去っていった。

ホワイトハウスで行われた式典で、記者からの質問に答えるトランプ大統領。後ろにいる護衛隊が後ろの扉を開け、大統領退場の準備に入る=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

そんなことはもちろんおかまいなしで、バトルは続く。話の途中で遮られることを嫌うトランプ大統領は、記者を指差し、「静かにしなさい!」と何度も叫びながら、まるで口喧嘩をするようなやりとりが10分ほど続いた。会見がエスカレートするにつれ、トランプ大統領は「彼女たちはこの国を憎んでいる!」とまで言い出した。トランプ大統領のいう「この国」とは、大統領自身のことを指しているように聞こえた。

多くの人が不法入国していることを強調し、突然行われた「会見」がやっと終了した。大統領令に署名するため、隣に準備された机に移動したトランプ大統領は、「製造業の人たちをこのステージに呼びましょう!カモン!」と手招きをする。たちまち演壇に集まった招待客に遮られ、トランプ大統領の姿がカメラから消える。すると大統領が、自分がカメラに写るようにと、目の前にできた群衆を交通整理し始めた。署名した大統領令をカメラに見せて、「はい、ポーズ」。ようやく式典が完了した。

トランプ大統領が大統領令に署名する机を囲み、集まる招待客たち。カメラを遮る=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

振り返ってみると、この「メイド・イン・アメリカ」の式典は、トランプ大統領にとって、4人の女性議員の「非愛国性」を印象付ける舞台演出だったようにも思える。事前にメモを用意して突然の会見を仕掛け、自分の主張を何度も繰り返した。すべてトランプ大統領の台本通りだったわけだ。

「メイド・イン・アメリカ」という式典で、大統領演説の演壇の隣に展示されたタバスコ(ルイジアナ産)、サンダル(フロリダ産)と帽子(ワイオミング産)。サンダルには「大統領」と書かれている=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月15日

式典が終わる頃、あれほど存在感を放っていたミサイルがなんだか小さく見えた。演壇のすぐ脇には、ワイオミング産の帽子、フロリダ産のサンダル、そしてルイジアナ産のタバスコが、小さなテーブルに並んで「トランプ劇場」を見守っていた。