核エネルギーの将来をめぐり、日本の関連企業や大学、研究機関が危機感を強めているのが、若者の「原子力離れ」。文部科学省によると、大学と大学院を合わせた原子力関連の学科・専攻への入学者数は、2018年度が262人と10年度から2割弱少ない。原子力分野の教員数も約10年で2割強減り、特に20代、30代の落ち込みが顕著だという。
日本原子力産業協会と関西原子力懇談会が毎年東京と大阪で開いている学生向けの就職セミナーの来場者数も、10年度には計1903人だったのが、11年度には7割強減って同496人となり、それ以降も横ばいが続いている。
大きな原因が、11年の東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故。多くの住民が避難を強いられ、廃炉などの対策は終わりが見えない。国内の原発増設や輸出も実現の見通しが立たず、原子力業界の先行きは不透明だ。東京大学大学院原子力国際専攻教授の上坂充は「事故直後、学生は『いまは原子力だ』と頑張ってくれたが、当時の中高生の選択肢からは落ちた」と話す。
原発の廃炉やメンテナンスを続けるにも、今後も人材育成が必要だという。産官学でつくる原子力人材育成ネットワーク事務局長の桜井聡は「メーカーは、知識や経験が継承されなくなると心配している」と話した。
原産協会などの就職セミナーへの会員企業などの参加数は今年3月は両会場合わせて延べ80団体と過去最高となった。原発事故以降、一時減ったものの増加傾向にあり、原産協会人材育成部は「会員の人材採用へのニーズが増えているからだと考えている」と説明する。
対照的に、将来の原発の建設を計画している新興国では、日本で原子力技術を学ぶ熱意が強く、担当省庁の職員や研究者らが日本にたびたび研修に来ている。IAEAや東京大学大学院工学系研究科、日本原子力産業協会などが7~8月に開いた「原子力エネルギーマネジメントスクール」には、ポーランドやヨルダン、タイなど、日本を含む計13カ国の約35人が参加した。
国内初の原発が建設中のトルコからは、商工関係NGOのジェイダ・ミネ・ポラット(36)らが出席。ポラットは日本の原発が事故を起こしたことについて、「事故は(原発の)失敗で起きたのではなく自然災害。津波は予想できなかった」と述べ、「(事故を教訓に)日本の原子力産業は、いかなる事故にも対応できるよう万全になるでしょう」と気にとめない様子だ。原発の運営には高い技術が求められるとして、「原発導入でトルコの製造業のレベルが向上する」と期待した。