■今も変わらない、政府の「原発の発電コスト安い」
2011年の東京電力福島第一原発事故後に停止し、その後、再稼働した原発は西日本にある9基にすぎない。それでも日本政府は30年度の電力に占める原発比率の目標を「20~22%」としている。30基程度の原発を動かす必要があるが、各地で廃炉も進んでおり、達成は極めて困難になっている。
原発事故時、国内の原発は54基だったが、その後、20基以上の廃炉が決まった。原発の稼働期間を原則40年とする法律ができ、延長が認められても最大60年。事故後にできた新規制基準に対応するには安全対策に1000億円以上が必要で、電力会社の「選択と集中」が進んだ。
いまも政府や電力業界は「原発の発電コストは、ほかのエネルギーと比べて安い」と説明している。経済産業省が15年にまとめた試算では、30年時点の発電コストは、原発が1キロワット時あたり10.3円以上。石炭火力は12.9円、天然ガス(LNG)火力は13.4円と、原発の方が割安になっている。
ただ、この試算は現実を反映していないと、脱原発団体などが批判している。例えば原発の1基あたりの建設費は4400億円の想定だが、これは原発事故前の水準。地震や津波などに備える安全対策費が増え、外国の最近の計画では1兆円規模に増えた。実態とかけ離れた数字だ。原発事故後に義務づけられたテロ対策施設などの安全対策費も1基あたり約1000億円と見積もられているが、朝日新聞による電力各社へのアンケートでは約1800億円に上った。
一方、脱原発をめざすNPO法人「原子力資料情報室」がまとめた試算では、18年の1キロワット時あたりのコストは、原発が11.01円以上、石炭火力が13.19円、LNG火力が10.25円。原発の方がLNG火力よりも割高になった。原発事故での賠償や廃炉の費用、安全対策費が膨らんだ場合には、さらに高くなると主張する。
原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する核燃料サイクルの実現にも、膨大なコストがかかる。政府はエネルギー政策の重要な柱と位置づけ、21年には中核となる六ケ所再処理工場(青森県)が稼働する予定だ。ただ、建設費は当初の7600億円から2兆9000億円に膨らみ、40年間の運営費や廃止費を含めた総事業費も13兆9000億円に上昇した。
しかも原子力委員会は昨年7月、この時点で約47トンあったプルトニウムの在庫をこれ以上増やさないため、燃料として使う分しか再処理しない方針を決めた。現状、プルトニウムを消費するには、ウランと混ぜたMOX燃料を普通の原発で燃やすプルサーマルしかないが、四国電力伊方原発(愛媛県)など4基でしか実施できていない。再処理工場は年間7トンのプルトニウムを取り出せる能力があるが、運転の制限は避けられない見通しで、経済性はさらに揺らいでいる。