蓄電池を安く使える時代へ
記者会見があったのは7月25日。両社が蓄電池の開発および販売で提携し、価格を抑えた蓄電池を開発して、来年中に発売するというものだ。背景には、2012年よりFIT(固定価格買取制度)を利用した大規模な太陽光発電設備の建設がおこなわれてきたが、太陽光発電の価格競争力が高まったことで、FITを利用しないケースが広がり始めているということがある。
こうした流れの中でもとりわけ注目を集めているのは、事業者が無料で需要家の屋根上に太陽光発電設備を設置し、発電した電力を需要家に供給する「第三者所有(TPO)モデル」。今後、TPOモデルには、発電設備だけでなく蓄電池が標準搭載されるようになるとみられている。蓄電することで安価な電源を獲得できるうえ、再エネの不安定性を回避することができるため、多くのエネルギー事業者が参入を検討している状況だ。
会見冒頭、ネクストエナジーの伊藤淳社長(写真下)は、今回の業務提携で、「蓄電池のトータル導入コストが1/4になること」「調整可能な電源のコストが2/3になること」の2つを実現させるのが狙いだと説明。従来の分散型電源(再エネ)がコストダウンされることで「安価に使える主力電源」になれば、災害対策・レジリエンス強化などにつながると話した。
さらに、TPOモデル事業で競争に勝つためには、世界トップの信頼性と製品力を誇るCATLとタッグを組むことが不可欠だと話し、「最高峰のTPOモデルをつくりたい」と決意を表明した。
一方、CATLチーフカスタマーオフィサーの谭立斌氏(写真下)は、「CATLはEV(電気自動車)とESS(エネルギー貯蔵システム)用にバッテリーを作っていて、2018年からは蓄電池関連の事業も伸びている。日本では家庭においてもESSが重要だからチャンスも大きいと思う」と期待を寄せた。また、EVではトヨタと組んでいるCATLに対して報道陣から「(ESSに対しても)数多くの日本メーカーからのアプローチがあったと思うが、なぜネクストエナジーを選んだのか?」と問われると、「実力があるし、日本市場をよく知っているからチャネルの開拓にも期待ができる。お互いの強みを活かしながら、日本の市場、太陽光発電を活気づけたいと思った」と語った。
太陽光エネルギーを効率よく貯め、再エネ増加へ
記者発表後、有識者による基調講演がおこなわれた。一人目の登壇者は、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻准教授 田中謙司氏。「再生可能エネルギーの主力電源化へ向けた新しい電力流通の可能性」をテーマに話を進める中で、イギリスやドイツはすでに家庭用に蓄電池を提供していることに触れ、「向こうでは、リモートで系統の周波数を調整したり、北部で発電した電気を南に放電したりしている。日本では、昼間に太陽光が余る5、6月頃の間に充電ができれば、国全体としての再生可能エネルギーが増えることが期待できる」との見解を述べた。
2人目に登壇したのは、東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本浩氏。日本の電気事業は、法的独占や総括原価規制の下にあった「Utility1.0」から、経済成長の鈍化や電力自由化などが目立つ「Utility2.0」へと移り、今後は、技術革新が他産業のプラットフォームとの融合をもたらす「Utility3.0」へと変わっていくと話した。
また、「Utility2.0」から「Utility3.0」への変遷に大きく関わっているのは、自由化、人口減少、脱炭素化、分散化、デジタル化の「5つのD」であると説明。あらゆるモノがエネルギー(電気)と情報で連携され共有される社会になり、イノベーションの展望があると締めくくった。
蓄電池はランニングコスト縮小にも貢献
続いて、記者発表会に登壇した伊藤氏、谭氏および東京ガス株式会社デジタルイノベーション本部基盤技術部応用技術研究所所長 藤峰智也氏、U3Innovations LLC 共同創業者・代表取締役 伊藤剛氏をパネラーに迎えてディスカッションがスタート。
伊藤(剛)氏が、「企業が許容できる投資回収年数に収める技術開発」「コストメリットの最大化」「太陽光発電の価値を最大化する発電オペレーターの育成」を課題として挙げると、藤峰氏は、ネクストエナジーは独占的、集約的な「旧来型」から民主的、自律的な「DRESs」型への移行を実現するパートナーであると信じているとエールを送った。
また、谭氏はコスト削減について「設備そのものやデバイス単体ではなく、全体的なことを考えなければならない」と話し、「ネクストエナジーとの協業によって新しいモデルを生み出すことで、サプライチェーンのコストを下げることができたら最終ユーザーにとってのメリットが大きくなる」と期待感を示した。
伊藤氏は、「これからの産業のキーワードは“電化”」と指摘。ビジネスの立ち上げに、電気代が占めるコストは大きくなり、その変動リスクは事業収支のリスクにつながると述べた。「我々は、コストを下げることだけを重視するのではなく、価値を高めることにも注力していきたい」と話した。
(取材・執筆:松本玲子)