――電力網がかつてないほど広域化していますが、どんなリスクがあるのでしょうか。
電力網がつながるメリットは大きいですが、つなげばつなぐだけ、1カ所で起きた問題がほかに伝搬するリスクが必然的に高まります。2003年に北米で起きた大規模停電は米国とカナダの連系線が原因でしたし、同年の欧州の大規模停電も、イタリアとスイスの連絡の不手際で影響が広がりました。よく切れる刃物は便利ですが、人も殺せるのと同じです。送電会社同士が接続相手と具体的な運用ルールを合意して、協調して管理するしかありません。
――サイバー攻撃の懸念も強まっています。
再生可能エネルギーの割合が高まって電力網のオペレーションが複雑になる一方、需要側の管理もしなくてはなりません。いわゆるスマートグリッドの技術です。電力システムにITは今や不可欠で、サイバーセキュリティーは大きな課題になりつつあります。
サイバー攻撃を受けた時にどう対応するか、停電時にどう情報を共有するか、といった机上演習がこれまでも行われてきましたが、実際に2015年にウクライナでサイバー攻撃による大停電が起きたことで、送電事業者による検討も加速しています。
――情報漏洩も心配です。
スマートメーターの導入で、住人がいつ家にいるのか、不在なのかが分かります。時間帯や季節別の電気料金制度ができるようになり、需要管理とか投資の効率化にはとても価値あるデータですが、犯罪者が一番欲しいデータでもあります。安心してシステムを使えようにするには、データをしっかり守れる仕組みが重要です。
――中長期的にはどんなリスクがあるとみていますか。
出力が変動する再生エネには、その「パートナー」として、出力を柔軟に調整できる化石燃料による発電設備が必要です。欧米、そして日本でも発電と送電の分離が進んでおり、そうした発電設備を、今の電力市場の設計で確保できるかという問題があります。
欧州では実際、再生エネの導入を促す補助金制度によって、パートナーとなるべきガス火力発電所を市場から追いやる状態になっています。たまたま08年のリーマン・ショック前につくった大量の発電設備があるので、大規模な停電は起きていませんが、この状態が10~20年先まで持続可能なのかは疑問があります。
発電で稼いだお金で設備投資するという、電力会社のビジネスモデルが成り立たなくなる可能性もあります。発電側ではなく、(電気を利用者に届ける)配電ネットワーク側に風力と太陽光の発電設備がどんどんできていることも、今の規制制度の想定外です。電力市場や規制制度が、電力システムの急速な変化についていけるように設計を考えていかなくてはいけません。
(聞き手 村山祐介)
さだもり・けいすけ
1983年通商産業省(現経済産業省)入省。通商交渉官、2011年に菅直人首相(当時)の秘書官などを経て、12年から現職。
<国際エネルギー機関>
第1次石油危機を受けて、米国の提唱でエネルギーの安定供給を目指して1974年に設立された。経済協力開発機構(OECD)メンバーの29か国が加盟し、エネルギー政策の評価や提言、市場分析、緊急時対応を担う。事務局はパリで、職員は約250人。