既存の送配電網に頼らずコミュニティで融通しあうシステム
自分の家で発電し、電力が余れば、お隣さんにおすそわけ――。そんなコミュニティ単位で日々の電力を相互にまかなう電力供給システムを、ソニーコンピュータサイエンス研究所(本社・東京都品川区)が開発し、世界に広げようとしている。
この「オープンエネルギーシステム(OES)」は、時間や日によって変動する不安定かつ分散した太陽光などの自然エネルギーを、個々の家庭に設置する太陽光パネルと「エネルギーサーバー」と呼ばれる蓄電システムを通して、住宅同士の需給バランスを自動的に管理する。余剰分を電力不足の家庭へ、専用の直流電力線によって融通、分配するというもの。つまり、すべての家庭が自ら発電と送電の両方を行うということになる。
開発の背景には、原発などの大規模な発電能力に頼らず、それぞれのコミュニティが相互に接続することによって、世界全体のエネルギーの持続性を高めるというねらいがある。お互いの接続を自動的に遮断することもできるので、自然災害やサイバー攻撃などによる停電の影響は受けにくい。
2012年度から2016年度までの5年間、沖縄県の研究補助事業として採択された。地元企業の沖創工とともに実証実験をしている沖縄県恩納村の沖縄科学技術大学院大学(OIST)を訪ねた。
海を見晴らせる小高いところに、教員が暮らす家々が並ぶ。そのうち18軒の戸建てがシステムを導入。赤い屋根には太陽電池パネルが、建物の外には電池が設置され、庭には隣の家とのあいだを結ぶケーブルが通っている。冬は消費電力の半分近くを、夏は7割くらいを、このコミュニティー内でまかなっているという。気象との関係、塩害や雷による影響などもを調べており、将来の商用化を視野に技術の改善を図っている。
補助事業としてのプロジェクトは2016年度でいったん終わるが、引き続き、沖縄県の離島や海外の島しょ国など、この技術とシステムが必要とされる地域でプロジェクトを展開していく予定だ。とくに、台風などによる停電の多い地域や、発展途上国の無電化地域、電力網が脆弱な地域は導入に関心が高い。過去にはこの太陽光蓄電池を利用して、ガーナの村でサッカーの国際試合の中継をしたこともある。ただ、すでに送配電網が整備されている地域では、抜本的な政策転換がない限り、初期投資が大きく、導入は容易でない。
既存の大手電力会社の送電網を使わないため、現在各地で広がっているスマートグリッドとは根本的に違うシステム。同研究所の徳田佳一氏は「自然エネルギーが主電力源の次世代送配電網といえる。必要とされる地域や国へ広げていきたい」と話している。
(梶原みずほ)