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不法移民と犯罪 関連性はあるのか?

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Family units from Central America await their turn on the Mexico side of Rio Grande river as Eliani Valentin, a five-month-old girl from Honduras, is held by a man after a group used a raft to illegally cross into the U.S. from Mexico in Granjeno, Texas, October 5, 2018. Reuters photographer Adrees Latif:
米国境のテキサス州リオグランデ川のメキシコ側で、いかだによる国境越えを待つ中米出身の家族グループ=2018年10月5日、ロイター

米国において、移民と犯罪に因果関係がないことは多くの研究で指摘されてきた。しかし、「The Marshall Project(ザ・マーシャルプロジェクト、米国の刑事司法システムを調べている非営利のニュース編集組織)」と「The Upshot(ジ・アップショット、訳注=ニューヨーク・タイムズ紙のニュース解説サイト)」が2018年に同じような共同研究結果を報じたところ、読者から納得できないという不満が出た。すなわち、米国で犯罪を増やしているのは移民全般ではなく、不法に滞在している移民たちだと、多くの人たちが主張したのだった。

この問題に対しては、新たなデータから得られた分析が役に立つ。分析は、不法移民の増加が地元の犯罪率の上昇につながっていないことを示している。

不法移民と犯罪の関連性については、データを集めるのが難しいということはある。というのも、これまで犯罪との関係を含めて不法移民に取り組んだ研究はほぼ行われていなかったからだ。しかし、ピュー研究所(訳注=米シンクタンク)は最近、主要都市圏別に不法に滞在する移民の推定数を発表した。ザ・マーシャルプロジェクトは、これを米連邦捜査局(FBI)が出した地域ごとの犯罪率と比較した。これによって初めて、07年以後に不法移民が犯罪率にどう影響してきたかという広範な分析の機会が得られることになった。

07年から16年の間、調査の対象地域の大多数では暴力事件と窃盗犯罪の両方とも減少した。これは米国全体で25年にわたって犯罪が減少していることと一致している。この分析で分かったことは、不法に滞在している人が増えようが減ろうが、それとは関係なく、似たような比率で犯罪が減っていたことだ。不法移民が多い地域では、より大幅な犯罪の減少がみられたが、違いはあっても、差は少なく、はっきりしたものでもなかった。

(不法移民に関しては、ビザ切れか許可なしで国境を越えたかといった事案にもよるが、不法移民自体は民事法違反か軽犯罪のどちらかだ)

調査対象のさまざまな主要都市圏では、ほとんどの種類の犯罪が、ほぼフラットな傾向を示していた。つまり不法に滞在する移民の数が変わっても犯罪件数にはほとんど影響していなかったか、まったく影響していなかった。ただ、殺人だけは上昇したように見えたが、それでも大した差はなく、確たる差でもなかった(実質的に差はゼロだった)。

国内に不法に滞在している移民にとっては、いかなる理由であれ逮捕は国外追放を意味することになる。しかも、危険や権利の剥奪(はくだつ)から逃れるために国を捨ててきた人々には、強制送還は元に戻されることにつながる。

米国に不法に滞在している移民の正確な人数は分からない。推定値を出すため、ピュー研究所の専門家は国勢調査局が算出した外国生まれの人の数から国土安全保障省(DHS)が出している合法移民者数を差し引いた。この「残差推定方式」は、DHSを含め、多くの関係組織が採用しており、一般的には現段階でとり得る最良の方式と見なされている。それによると16年現在、不法に米国に滞在している移民は1070万人と推定され、07年から150万人減った。

A border patrol agent surveils the Voices From Both Sides festival which is held on the banks of the Rio Grande, an international boundary, to celebrate their cross-border community on both sides of the US-Mexico in Lajitas, Texas, U.S., May 11, 2019. Picture taken May 11, 2019.  REUTERS/Jessica Lutz
米テキサス州ラジータスのリオグランデ川側で監視する米国境警備隊員=2019年5月11日、ロイター

ピュー研究所上級研究員の人口統計学者ジェフリー・パッセルのチームは、07年から16年までの間、約180の大都市圏地域で不法に滞在している人びとの数の変遷を推定した。比較するために、ザ・マーシャルプロジェクトはFBIの統一犯罪白書プログラムからこれと符合する暴力事件と窃盗事件の3年間の平均発生率とその変化を算出した。

その分析結果をみると、不法移民と犯罪の関連性に関する他の研究結果と似たようなものだった。18年、リバタリアンの米シンクタンク「Cato研究所」の報告書は、テキサス州に不法滞在している移民の方が、米国生まれの移民より犯罪数が少なかったと明かした。また、学術専門誌「Criminology(犯罪学)」の州レベルの調査によると、不法移民が暴力犯罪を増やすことはなく、実際にはわずかながらも暴力犯罪の低減との関連性がみられた。さらにCato研究所の別の研究が、不法に滞在している移民は投獄される傾向が低いようだ、とも指摘した。

もっと地域レベルでみてみるとどうか。月刊誌「ガバニング」によると、14年段階で、不法滞在住民が比較的多い大都市圏と少ない地域を比べたところ、暴力犯罪は同じような比率だったが、窃盗犯罪率では不法滞在者の多い大都市圏の方が、少ない地域より大幅に低かった。この分析結果を著したMike Maciagは、いくつかの社会経済学的要因を加えて調整した後、以下のことに気づいた。すなわち、不法滞在者がその地域の人口において1%増えるごとに人口10万人当たり94件、窃盗犯罪が少なくなった、と。

犯罪に関する不法移民の潜在的影響については、さらなる研究が行われている。ザ・マーシャルプロジェクトとジ・アップショットは以前、ニューヨーク州立大学バファロー校教授のロバート・アデルマンのグループが出した研究結果を典拠としたが、現在、アデルマンは調査チームを率いてガバニング誌の分析をさらに詳しく調べている。その初歩的な結果によると、やはり不法移民は暴力犯罪に影響しておらず、Maciagが注目したのと同様、窃盗犯罪の低減と関連付けられている。

予備的な調査では、失業率や住宅不安、経済的困窮の度合いといった社会経済学的因子がすべて、異なったタイプの犯罪発生率を高めると予測している。その一方で、不法滞在者の数は犯罪発生の増加は予測していないと示唆している。

米国生まれのアメリカ人に比べ、移民の犯罪率が一貫して低いことは多くの研究で立証されている。しかし、共通の心配事は、移民が生来のアメリカ人に何らかの形で圧力をかける――例えば就職競争の激化――が、間接的に犯罪増や悪影響につながりかねないのではないかということだ。

しかしながらアデルマンのチームによると、不法に滞在している移民の影響は、移民全般に関して研究が示している内容とおおよそ似たようなものだ、としている。すなわち不法移民は経済的、文化的な利益を彼らが所属する社会にもたらす傾向にある。彼らはまずアメリカに仕事を求めてやって来るのであって、犯罪をしに来るわけではない、と同チームのメンバー、ユーリン・ヤンは語った。

データは示している。犯罪に関して言えば、いわゆる合法的な移民と呼ばれる者と不法移民の違いが問題になることはないのではないか。(抄訳)

(Anna Flagg)©2019 The New York Times

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