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内戦、難民、飢餓……「世界最悪の人道危機」に目を向ける

世界報道写真展から――その瞬間、私は
ロレンゾ・トゥニョリ撮影(The Washington Post)

意外にも、食料品店にはたくさんの果物や野菜が売られていた。中東イエメンの南部アザンで昨年5月、フリーランスのイタリア人報道写真家ロレンゾ・トゥニョリ(39)が買い物をしていると、店の外から視線を感じた。幼児を抱きながら、食べ物を恵んでほしいと訴える女性だった。入り口には別の少女も立ちつくしていた。

「食べ物はあるのに、お金がなくて買うことができない。でも、この村はまだいい方だった。北西部では深刻な飢餓が起きていた」。激しい内戦の影響で「世界最悪の人道危機」が起きているといわれるイエメン。約1000万人が飢餓の瀬戸際にある。その窮状は、米紙ワシントン・ポストの取材で訪れた南西部の主要都市アデンの病院で目の当たりにした。

集中治療室には、全身の骨格が皮膚にはりついたような幼児が複数いた。内戦難民の子どもたちだ。栄養失調は様々な臓器に異常をもたらす。「写真を撮るのがつらかった」。当時を振り返るトゥニョリの声が揺れる。撮影を促したのは母親たちだった。「世界に現状を訴えてほしい」。内戦も難民も飢餓もすべて含めて「イエメン危機」。世界に訴えるのが自分の義務だと強く感じた。

イエメン各地を取材で回った。行く地域によって支配勢力が異なるため、事前に各方面と連絡をとって取材の実現可能性を確認した。どの道路を使うのか、どこまで行けるのか、そして逃避ルートをどう確保するのか。安全な取材を維持するためのロジスティックに予想以上の時間を費やした。戦闘の前線に近い地域では、勢力図がころころ変わる。慎重に取材計画を立てても、当日になると状況が一変して、取材自体を断念せざるを得ないこともあった。

「入国が難しいイエメンに長期滞在できたことは素晴らしかった。ただ、多くの時間をロジスティックにかけたため、実際の取材時間は限られた」。一歩間違えれば、過激派組織の影響を受けたテロ集団に拘束される可能性は常にあった。危険な目にあわずに取材を終わらせることができたのは、こうした慎重な事前準備のたまものだったという。

「地域紛争ではあるが、戦闘では欧米製の武器が使われ、人々を苦しめている。我々にはイエメン危機に対する責任がある」。世界報道写真展には、イエメンで撮影した多くの写真の一部がセットで出展された。「なぜイエメンでこんなことが起きているのか。そんな疑問からイエメン危機に関心を持つ人たちが日本でも増えれば、私は満足です」。トゥニョリは再びイエメンで取材するため、暫定政権などと再入国の交渉を続けている。(山本大輔)

■入国困難なイエメンの取材

2015年に暫定政権と反政府武装組織の内戦が勃発。「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)などの過激派組織も入り交じって混乱が続く。国連は犠牲者を1万人以上としているが、実際は大きく上回るとみられ、実情把握は難しい。

激しい戦闘が続き、報道陣の入国もほぼ不可能だ。米紙ワシントン・ポストは、暫定政権と反政府武装組織双方との独自交渉で現地ルポを実現した。昨年5月中旬と11月末からの2回、計約7週間滞在し、同国の15以上の都市や集落を訪れた。

監視下での取材のため制約があり、戦闘の最前線には行けなかったが、イエメンの現状を描写したスクープルポとして世界的な評価を受けた。

■「世界報道写真展2019」8日、東京で始まります

6月8日~8月4日の東京都写真美術館から各地で写真展を開きます。7月13日から3日間、プロをめざす人のワークショップもあります(詳細は美術館HPで)。