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「マンデラの党」の低迷と野党の躍進の理由とは 南アフリカ総選挙

アフリカを旅する 更新日: 公開日:
南アフリカのヨハネスブルクで5月5日、与党アフリカ民族会議の選挙集会に集まった支持者=石原孝撮影

長くアフリカ経済を引っ張ってきた南アフリカで8日、総選挙(下院、定数400)が実施されました。南アの選挙制度は比例代表制で、有権者は候補者名ではなく、政党に投票します。各党の議席は、獲得した得票率に応じて配分される仕組みです。

そのため、各党の顔になる党首選びが大事になってきます。25年にわたって与党の座にあるアフリカ民族会議(ANC)は昨年2月、汚職疑惑が相次いだズマ前大統領を辞任に追い込み、実業家としても知られるラマポーザ氏を後任に選びました。

5月5日に行われた選挙集会で、ラマポーザ氏は「この5年で、1・4兆ランド(約10兆円)の投資を呼び込み、雇用を生み出す工場などを建てていく」と強調し、支持を訴えました。

ただ、派手な衣装を身にまとった約6万人の支持者は演説中に席を立ったり、携帯電話をいじったりと、どことなく上の空。観衆がより盛り上がっていたのは、人気女性歌手によるミニコンサートや高級バイクに乗った集団がスタジアム内を疾走するパフォーマンス。選挙集会というより、お祭りのような雰囲気を感じました。

南アフリカのヨハネスブルクで5月5日、与党アフリカ民族会議の選挙集会中、ハーレーダビットソンやBMWのバイクに乗った集団がスタジアムを疾走した=石原孝撮影

選挙結果は、ANCが得票率の57・5%を得て、230議席を獲得。人種差別が横行したアパルトヘイト(人種隔離)政策を廃止に導いた故ネルソン・マンデラ氏がかつて率いた党として、当時を知る世代を中心に今も人気が健在であることを示しました。

ただ、長期政権による緩みからか、汚職疑惑が相次いだANCの得票率は過去最低になりました。アパルトヘイト時代を知らない若い世代には、マンデラ氏の威光が通じなくなっているのも事実です。

若者の失業率は50%を超え、大学を出ても満足な仕事に就けない人が多くいます。人口の1割にも満たない白人が7割超の土地を持っている現状についても、不満は募っています。20代の黒人の男性は取材に対し、「マンデラは白人に妥協し、土地問題に手をつけなかった。国を裏切った」と怒りをぶつけました。

こうした不満を背景に、今回の選挙では黒人の権利擁護を訴える経済的解放の闘士(EFF)が躍進しました。前回選挙より5ポイント以上得票率を伸ばし、44議席を獲得。マレマ党首は「白人の土地は、補償なしですぐに黒人に分配するべきだ」「鉱山や銀行を国有化する」などと訴え、喝采を浴びました。

今回の総選挙で躍進した野党「経済的解放の闘士」のマレマ党首=4月10日、南アフリカのヨハネスブルク、レフロゴノロ・モコテディ撮影

急進的な主張は、白人や産業界から「ポピュリズム」だと警戒されています。ただ、ANCが身内の汚職を撲滅し、人種間の経済格差や失業率の問題などを改善しない限り、EFFのような政党の台頭を招くことは間違いありません。次の総選挙が実施される5年後に向けて、与党ANCに問われているのはパフォーマンスではなく、実績です。