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絶滅と思われていた世界最大のハチが見つかるまで

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
生け捕りにした巨大バチを見る豪シドニー大学の生物学者サイモン・ロブソン=Clay Bolt via The New York Times/©2019 The New York Times

科学者の目で確認できたのは、実に38年ぶりのことだった。

インドネシアの北マルク州の島々だけにすむ「ウォレスの巨大バチ(Wallace's Giant Bee)」。広げた羽の幅は2.5インチ(6.35センチ)、体長は大人の親指ほどもある。世界最大のハチとされ、絶滅したとも思われていた。

そんな危惧は、取り越し苦労に過ぎなかったようだ(少なくとも当面は)。自然保護を目指す国際的な調査隊が2019年1月、野生のこのハチを見つけた。学名Megachile pluto。1匹だけだったが、生きている状態では初めての映像記録を、写真とビデオに収めることができた。森林伐採が進み、生息環境が悪化する中で、絶滅を逃れることができるかもしれないという希望の明かりが、再びともったことになる。

ウォレスの巨大バチ。左上はセイヨウミツバチ=Clay Bolt via The New York Times/©2019 The New York Times

「本当に信じられないぐらい大きく、興奮した」とこの調査に参加した豪シドニー大学の生物学者サイモン・ロブソンは振り返る。

これだけ大きいのに、見つけるのは容易ではなかった。そもそも希少であることに加えて、へき地にすみ、特殊な巣作りをするからだ。

「このハチを見つけようとしたが、うまくいかなかった事例が少なくとも5件はあることを知っている」。やはりこの調査隊の一員で、写真家のクレイ・ボルトはこう話す。

その巣は、樹上のシロアリのアリ塚に作られる。塚に穴を開け、そこに潜んで、出てくることはあまりない。

「カ氏90度(セ氏32度強)に、これ以上ないという湿気の中で森を歩き回った」とロブソン。まさに宝探しで、見つけるのに5日間もかかった。

樹上の巨大バチの巣を撮影する写真家のクレイ・ボルト(左)=Simon Robson via The New York Times/©2019 The New York Times

ハチの名は、チャールズ・ダーウィンとともに進化論を築いた英昆虫学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスにちなんでいる。1859年の調査で、このハチを発見した。「カリバチ(wasp)のような姿をした黒い、大きな昆虫で、あごはクワガタムシのように巨大」とメスの観察記録を残している(オスは体長が1インチ〈2.54センチ〉にも満たない)。

ただし、さほどの興味はわかなかったようで、ウォレスは日誌の中ではたった1行をこのハチにあてているに過ぎない。

他の生物学者の反応は、違った。非常に強い関心を呼び起こしたが、次に確認されたのは1981年になってだった。昆虫学者のアダム・メッサーが見つけ、いくつかの標本にして持ち帰った。それが、ニューヨークの米国自然史博物館やロンドン自然史博物館などに保管されている。

メッサーは、このハチが異常に長い下あごを使って樹脂や木片をかき集め、自分の巣を要塞(ようさい)化するのを観察した。比較的単独で行動することも分かった。

証拠はないものの、身を守るために刺すこともできるとロブソンは見ている。「そうなったらどうなるか、みんな刺されてみたがったが、1匹しか見つからなかったので、大切に扱うしかなかった」

この調査は、米自然保護団体グローバル・ワイルドライフ・コンサベーション(GWC)が、資金をある程度負担して実現した。2017年に始めた「失われた種を見つけよう」キャンペーンの一環だった。絶滅したわけではないが、10年以上も確認されていない25種の生物を探すことを目指した。対象には、インドなどにすむバライロガモやナムダファモモンガ、ガラパゴスゾウガメの一種のフェルナンディナゾウガメも含まれていた。

このハチを守るには、森林伐採が大きな脅威になることを自然保護の活動家は恐れている。地球規模で森林の減少データを提供しているグローバル・フォレスト・ウォッチ(GFW)によると、その生息地域では01年から17年の間に、森林の7%が失われている。

ハチを見つけたときは、ロブソンたちの調査隊は歓喜した。しかし、この確認には、功罪両面があるかもしれないと今は考えている。ネットオークションサイトのeBayで18年に、行方不明だったこのハチの標本を匿名の売り手が出品し、9100ドルで落札されているからだ。

「1匹の昆虫がこれだけ高く売れるなら、新たな宝探しが始まるかもしれない」とロブソンは懸念する。だから、北マルク州のどの島で見つけたのか、調査隊としては明らかにしないことにしている。
次の課題は、現地に戻り、生態をもっとつぶさに調べることだ。「それには、この地域の専門家と連絡をとり、許可を取った上で一緒になって研究する必要がある」と言うロブソンの悩みは深い。(抄訳)

(Douglas Quenqua)©2019 The New York Times

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