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ネズミの骨を研究して分かった、「イソップ物語」の正しさ

ニューヨークタイムズ 世界の話題
ドブネズミ(写真はVWPics via AP Images)のエサは人間の社会を映し出す。イソップの世界を突き詰めれば、さまざまに応用できそうだ
ドブネズミ(写真はVWPics via AP Images)のエサは人間の社会を映し出す。イソップの世界を突き詰めれば、さまざまに応用できそうだ

イソップが、「田舎のねずみと町のねずみ」を記してから3千年近くにもなる。都会と田舎のネズミの食物の違いが描かれているが、その正しさが最近の研究で科学的に裏付けられた。

カナダ最大の都市トロントとその周辺で、1790年から1890年の間に生存していたドブネズミの骨を分析して判明した。都会のネズミは、田舎に比べてより質が高いエサをより安定的に食べていた。まさに、イソップ物語にあるように、人間が出す豊富なゴミにありつけたことで得をし、なんとか食いつなぐのがやっとという田舎とは大きな違いが生じていた。

「都会の方が、明らかに肉をたくさん食べていた」とブリティッシュコロンビア大学の考古学者エリック・グイリーは言う。2018年10月に英科学誌「Proceedings of the Royal Society B」で発表された研究論文の主執筆者で、「今回の分析で明確に把握できた」としている。

グイリーと共同執筆者のマイケル・バックリー(英マンチェスター大学)は、いずれも古い細胞などのたんぱく質を研究する新しい学問分野パレオプロテオミクスの専門家だ。古代の骨でも、含まれるたんぱく質を分析すれば、その動物がどういう行動をとっていたかが浮かんでくると言う。

グイリーは、この手法を使ってネズミを調べ、そこから1800年代の人間がどう暮らしていたかを明らかにしようと考えた。と言っても、人の骨を掘り起こして調べるようなややこしいことをするわけではない。トロント地区の博物館や大学などにあったネズミの骨を収集したに過ぎない。

なぜ、ネズミなのか。「エサが、人間の食べ残したものを反映していて、とても興味深い」とグイリーは語る。その関係をつぶさに調べれば、都会のネズミの数をもっと効果的に抑える手助けができるかもしれないと見ている。
最初に調べたのは、ネズミの骨の分子構造。調査対象が、すべて同じ種のRattus norvegicus(ドブネズミの学名)かどうかを確認した。

次に、高性能の分光計で各種たんぱく質の比率を調べた。さまざまな食物を特定する有力な手がかりをつかむためだ。

「食物を摂取することで自分の体がつくられるという前提に立てば、いろいろな骨の科学的特性によって、それぞれの個体が過去に何を食べていたかを特定することができる」とグイリーは説明する。「その結果、都会のネズミと、農場や地方にいたネズミとでは、大きな違いがあることが分かった」

それは、食べていたエサだけではなかった。調べた骨はさまざまなところから集めたが、都会の場合はどこでも同じようなエサを摂取していたことが認められたのに対し、田舎ではバラつきがすごく目立った。

このバラつきの理由を探るために、同じ時代に田舎にいた他の動物の骨も調べた。アライグマやグラウンドホッグなどだ。すると、田舎のネズミのエサのバラつきとかなりの部分が重なっていた。ドブネズミは、欧州からきた船に潜んでいて1800年代に北米に広がったと見られる外来種だが、在来の動物とエサを奪い合いながら生き残ってきた実態が浮かび上がった。

都会のネズミが田舎と比べてエサに恵まれていること自体は、それほど驚くべきことではないかもしれない。紀元前600年ごろの人物ともされるイソップも、そう思っていたのだろう。

ネズミが人間の暮らしの鏡なら、今回の調査方法は、あまり文献資料のない時代にさかのぼって、食物から当時の人口密度を推定するのに応用できるのではないか――グイリーは、こう期待する。そのカギを握るのは、分析可能な骨をきちんと確保することにある。「つい最近まで、考古学者はネズミの骨を見つけても、『なんだ、ゴミか』と思っていたのだから」
さらに、もっと喫緊の課題がある。都会のネズミ対策として応用することだ。ネズミの習性を突き詰めるのに今回の手法を用いれば、(訳注=どこで、どのようなエサを食べて繁殖しているかの実態が分かり)膨大な予算を注ぎ込んでいる駆除費の削減が可能になるかもしれない。

「ネズミが都会でいかにエサをとり、長期にわたってどう行動してきたか、その概要がこの研究で分かった。繁殖するには、そのエサがカギを握るのだから」(抄訳)

(Douglas Quenqua)©2018 The New York Times

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