韓国の建国神話の神は山で生まれています。山にある大きな木のもとで祭祀を行うようになったのは、このためといいます。今でも地方に行くと、山の神の祭りをみることがあります。山にはかつて虎がいたので、山の神に悪いことをしたら虎が降りてくるのだと人々は畏れました。祭祀で虎が好きな豚などを供えるのは、その名残でしょう。虎は1960年代まで目撃情報があったと聞いたことがあります。私は虎の専門ではないので、正確なところは分かりませんが。
森という言葉が頻繁に使われ始めたのは、ここ15年ほどです。それより前は山林という言葉を多く使っていました。この変化には、ある社会運動が背景にあります。1997年に韓国を襲った経済危機で多くの人が失業しました。雇用の場をつくるため、山林庁や大学教授、経営者らが市民団体をつくり、森の間伐で生計を助けるプロジェクトを始めました。この「生命の森」という社会運動がうまくいき、政府から補助金も出るようになって全国に広がった。メディアも山林より森という言葉を多く使うようになりました。
現在では国民の9割以上が都市に住むようになり、人々は憩いの場として森の価値を再発見しています。山の神を信じる人たちが減る一方で、森に憩いを期待する人たちが増えているといえるのかもしれませんね。
森への認識の変化を示すこんな例もあります。先ほどとは別の市民団体が、競馬場の跡地に森をつくってほしいとソウル市に願い出ました。そこで市が土地を提供し、企業や市民がお金を出して森を整備する官民合同の事業が始まりました。できたのが「ソウルの森」です。この森の周りのマンション価格はものすごく上がりました。ほかにも森の近くのマンション価格が上がる例があります。人々の森への認識の変化を表していると思います。
政治家の意識も変わってきています。政治的な側面から始まったのが山林福祉政策です。朴槿恵大統領が候補者だったころ、競合する他の党の候補が福祉政策を目玉にしていました。そこで朴陣営も福祉政策を強調し始め、後にはライバルより強力に推し進めるようになった。山林庁でも福祉を進めることになったのは、今の山林庁長官が朴陣営の側近だったからという面があります。
韓国政府が国民から拍手を受ける、つまり良い評価を受けることを好み、税金を使って試験的な事業をしたがる面もあると思います。ただ、これが行き過ぎてしまうと民間の領域を狭めてしまう。試験的な事業から民間への移行を進めていくことが必要だと考えています。
最後に経済的な面から山林福祉政策をみてみましょうか。1980年代まで森は開発の対象で、そこから資源である木材を切り出して売ることが主な利用方法でした。そこに安い木材が海外から入ってくるようになり、木材の需要も減って価格が下がりました。さらに人件費など伐採にかかるコストも高くなり、林業の収支が合わなくなってきました。
一方、山林福祉は、森を維持しながら利用する方法です。伐採のような高いコストもかかりません。高齢化やストレス社会を反映してニーズも増えるでしょう。輸入品と競合することもありません。こうしてみれば山林福祉は、かつての林業と比べても高い経済性を持った政策だと私は評価しています。
ユン・ヨチャン
1956年5月生まれ