1. HOME
  2. World Now
  3. 外国人の子どもの教育、支える民間の学び場

外国人の子どもの教育、支える民間の学び場

芝園日記
「たぶんかフリースクール」の授業=東京都荒川区、大島隆撮影

「大島さん、私は合格しました」

3月中旬、WeChat(中国のSNS)のメッセージが届いた。芝園団地に住んでいた高铖铎(コウ・セイタク)くんからだ。高校受験をして合格したのだ。

コウくんと初めて会ったのは2018年2月。私がボランティアとして手伝っている、芝園団地日本語教室にやってきた。母親に連れられてきたコウくんは当時、黒竜江省から来日したばかりの15歳だった。

芝園団地公民館で毎週日曜に開かれる教室には、様々な人がやってくる(ボランティア募集中です!未経験者も歓迎)。IT技術者の中国人、ベトナム人の技能実習生、バングラデシュ人の主婦……。その中でも気になるのが、たまにやってくる15歳から16歳の、日本の学校に通っていない子供たちだ。

芝園団地日本語教室の様子。団地の公民館で、毎週日曜の午後3時から開かれている

小学生や中学生であれば、日本の公立小学校や中学校に入学できる(ただ、学齢期だが学校に行っていない外国人の子供も相当数いると言われている)。一方、すでに母国の中学校を卒業してから来日した子供たちは、日本の中学校に編入することはできない。そこで、学校に通わずに高校入学の準備をすることになる。コウくんもそうした一人だった。

右も左もわからないまま日本に来た彼らには、何をどうやって勉強したらいいかがわからない。とはいえ、私たち芝園団地日本語教室のボランティアは、日本語会話の練習を手伝う程度で、日本語教師と呼べるようなプロではない。高校受験の科目を教えられるわけでもない。

そこで日本語教室にしばらく通った後にコウくんが通ったのが、東京都荒川区にあるNPO法人「多文化共生センター東京」だ。センターが運営する「たぶんかフリースクール」は、コウくんのように日本の中学校に通えない子供たちが、高校進学のために学ぶところだ。

私たち日本語教室のボランティアは、コウくんと同じような状況にある子供たちに「こんなところもありますよ」と紹介していた。ただ、私自身は、センターの活動内容を詳しく知っているわけではなかった。そこで、センターに連絡を取って、一度話を聞かせてもらうことにした。

■担当部署がない……実態把握の難しさ

1月末、荒川区内にあるセンターに向かう途中でコンビニに立ち寄ると、通学途中のコウくんにばったり出会った。コウくんは「たぶんかフリースクール」に通ってからは団地の日本語教室には来ていなかったので、顔を合わせるのは久しぶりだ。

「受験勉強はどう?もうすぐ試験じゃないの?」

「大丈夫です。試験は3月です」

初めて会ったころは日本語をほとんど話せなかったが、だいぶ上達していた。コウくんに案内されてたどり着いたセンターは、老朽化して使われていない荒川区の教育施設の一角にあった。荒川区から、無償で間借りをしているのだという。

NPO法人「多文化共生センター東京」は、使われなくなった荒川区の教育施設の一角を間借りしている

ちょうど授業が始まる時間で、様々な国籍の子供が教室に入っていく。いくつかのクラスのうち、8人の生徒が学ぶ日本語の授業をのぞかせてもらった。

「ハイ、先生のあとに皆さん。ともだちは…」

「ともだちは…」

生徒たちの声が響く教室の壁には、自分の出身地を紹介する紙が貼られている。中国の長春、ミャンマーのヤンゴン、フィリピンのブラカン州……。今年度は、中国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、ネパールの35人がこの荒川校で、もう一つの杉並校と合わせると57人が学んでいるという。

「たぶんかフリースクール」の教室の壁に貼られた紙。生徒たちが、自分の出身地を紹介している

子供たちはここで週4日、1日5時間の授業を受ける。東京都や埼玉県は外国人向けの高校入試を実施し、入学枠を設けている。東京都の場合、年々外国人の受験者が増えていて、昨年度の倍率は2.06倍と高めだ。

代表理事の枦木(はぜき)典子さんは、「ここに来ているのは、中学と高校の狭間の子供たちです。どこにも在籍していない人たちなので、どのくらいの人数がいるのか、全く見えていない人たちです。こういう子供たちがいること自体も、あまり認識されていません」と語った。

ここに通う子供の大半が、母国で中学を卒業した15歳から19歳くらいの若者だ。母国で高校に通っていた場合は日本の高校に編入できるのでは?と思ったが、日本語が話せない状態で来日して編入試験を受けても合格は難しいのだという。

「多文化共生センター東京」の運営スタッフ。写真奥が代表理事の枦木さん

義務教育と高校教育の狭間におかれているため自治体も担当部署がなく、実態の把握や支援が進んでいない。こうした子供は年々増えているが、センターも受け入れ人数には限りがあり、今年度はやむなく断った子供もいたという。

文科省は3月15日に出した通知で、義務教育を受けられる年齢だが義務教育を終えていない外国人については、希望すれば公立中学で受け入れるよう自治体に求めた。だが、コウくんのようにすでに母国で義務教育を終えた子供たちは、依然行き場がない。

財政状況について聞いてみると、「毎年が綱渡りです」と枦木さんは答えた。

生徒からの学費だけでは足りないので、国や自治体の助成金のほか、企業や個人の寄付で運営をしている。国からの助成金はすでに終わり、過去3年は東京都からの毎年500万円だけが公的な助成金だった。近年は埼玉県からの生徒が増え、3分の1ほどになっているというが、埼玉県の自治体から助成金が出ているわけではない。心苦しい気持ちになった。

枦木さんは、ここで学ぶ生徒たちから「私たち自身も学ぶことが多い」と語る。

「ここに来ている人たちは、二つの国の言葉、文化を知っている、豊かな可能性を持っている若い人たち。そういう人たちがしっかり活躍できる社会にしていくための施策、体制づくりが必要だと思います」

3月末、高校入学を控えたコウくんが、挨拶のため芝園団地日本語教室にやってきた。せっかくだからと、コウくんも久しぶりに教室に参加した。

同じテーブルに座ったのは、1週間前に来日したばかりという14歳の双子と、その母親だった。4月から中学校に通うという。コウくんは日本語が話せない2人に言葉の意味を教えたり、母親に日本の高校受験の仕組みについて説明したりした。

1年間の「たぶんかフリースクール」での経験が、コウくんの成長と自信につながったことが、その様子から想像できた。4月から新しい一歩を踏み出す3人を見ながら、「豊かな可能性を持った若者が活躍できる社会を」という枦木さんの言葉を、思い出した。