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異文化との共生、地域の力に 国際交流基金が目指す未来

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表彰された団体の代表者ら=吉野太一郎撮影

「地球市民賞」3団体を表彰 地域に根ざした国際交流や多文化共生策に取り組む団体に贈られる「国際交流基金地球市民賞」の2018年度の授賞式が、2月25日に東京都内のホテルで開かれた。少子高齢化が進む一方で、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管法が4月に施行される。こうした背景を受けて、異文化との交流で豊かな社会をつくることを目指す団体が高い評価を受けた。(吉野太一郎)

「地球市民賞」は国際交流基金が1985年から毎年、独自のアイデアで先進的な活動に取り組む日本各地の団体を選んで表彰している。今年度は97団体の応募があり、現地調査などを経て、以下の3団体が選ばれた。

  • 浜松市で暮らす外国人の介護職就労や、技能実習生への日本語教育などを支援する一般社団法人「グローバル人財サポート浜松」
  • 石川県小松市で日米の大学生・高校生が交流するプログラムを運営する「小松サマースクール」
  • 世界の子どもたちをインターネットでつなげ、機械翻訳や動画中継などでコミュニケーションを図る京都市のNPO「パンゲア」。

同基金の安藤裕康理事長は「低成長と少子高齢化社会で、豊かな社会を築くため、異文化と交流することで地域の豊かな伝統と文化を見つめなおす国際交流の重要性が高まってきている。入管法改正で日本語教育の重要性も増している」と、今年度の受賞団体が評価された背景を説明した。

外国人が担い手になる社会を

外国人の介護資格の取得を支援する「グローバル人財サポート浜松」の活動(提供:国際交流基金)

「グローバル人財サポート浜松」は、製造業の街・浜松で、定住外国人が介護職の資格を取得できるような教育や、外国人向けの介護のテキスト作成などを手がけている。創立者で代表理事の堀永乃(ひさの)さんは、かつて日本語教師として地元在住外国人の苦悩に向き合い、支援に奔走した経験から「雇用の調整弁とされやすい外国人を、そのホスピタリティーを生かせる仕事に」と、2011年に同団体を立ち上げた。

改正入管法の施行で、今年4月から外国人労働者の在留資格が新設され、家族帯同も可能となる。「外国人受け入れの環境整備はこれからの課題。浜松の取り組みはその先行事例であり、外国人が地域の担い手として活躍できる社会を指向している」ことが、受賞の理由となった。

授賞式でスピーチする堀永乃さん=吉野太一郎撮影

地元企業での日本語教育の支援、地元大学生による外国人幼児・児童への日本語、日本文化教育の支援など、同団体の活動範囲は急速に広がってきた。堀さんは「がむしゃらに走ってきたことは間違いではなかった。これからの日本はますます外国人に支えられる社会になっていく。その人たちに浜松が選ばれ、人生をまっとうできる社会を作っていきたい」と話した。

地方都市でもできる、若者の国際交流

世界各地の高校生や大学生がワークショップなどを通じて交流する「小松サマースクール」の活動(提供:国際交流基金)

「小松サマースクール」は、毎年夏休みの7日間、日本各地の高校生60人と世界各地の大学生約50人らが石川県小松市に集まり、英語のセミナーや地元の伝統芸能・工芸体験などを学んで交友を深める国際交流プログラム。実行委員会は大学生にほぼ全て任されており「国際交流の機会が乏しくなりがちな地方都市でも、若者のための国際交流事業を若者たち自身が継続的に運営していく事業としてモデルになる」と評価された。

アメリカからの留学生をホストファミリーとして受け入れていた光井一恵さん(現・実行委理事)らが、2011年にホームステイした当時ハーバード大学生のステファン・フシェさんから長野県の先行事例のことを聞き「小松でもぜひやりたい」と、同年に実行委員会を立ち上げたのが始まり。

授賞式でスピーチするステファン・フシェさん=吉野太一郎撮影

卒業後、日本企業勤めを経て起業したフシェさんは、授賞式で「初来日から8年後の今日、日本で暮らし、スピーチするとは夢にも思わなかった。私が日本に導かれたように、このキャンプの参加者も、これからの人生に影響を与える新たなきっかけをもたらしてくれるはず。新たな小松サマースクールを作るため、次のステージに進んでいきたい」と抱負を述べた。

世界の子どもとつながり、橋を架ける

「パンゲア」の活動(提供:国際交流基金)

「パンゲア」は、日本や韓国、オーストリアやケニアなど世界各地の拠点をインターネットで結び、9~15歳の児童・生徒がゲームやお絵かきなどを通じて、国や民族、文化を超えた相互理解をめざす。独自に開発した機械翻訳や絵文字、ウェブカメラを使うことで、「使用言語による序列化を起こさない姿勢を貫き、相手を思いやる態度が醸成される仕組みになっている」と選考委員会は評価した。

アメリカ・マサチューセッツ工科大学メディアラボの客員研究者として玩具の開発などに関わっていた理事長の森由美子さんらが、2001年の同時多発テロでアメリカ社会に広がったイスラム教徒への排他的感情を目の当たりにし、技術を通じた異文化理解の促進を目指して2003年に日本で立ち上げた。16年間で延べ1万人近い子どもたちが参加している。

授賞式でスピーチする森由美子さん=吉野太一郎撮影

国連は2015年に掲げたSDGs(持続可能な開発のための目標)で、「地球市民教育」の必要性に触れた。森さんは授賞式で「私たちの16年間で『地球市民』という言葉は特別な意味を持っている。世界のミドルマン(仲裁者)となって地球市民を広げていくために、教育は最も大切なキー。今こそ壁でなく、橋を架けたい」と訴えた。