1. HOME
  2. World Now
  3. DVD鑑賞で遙かなる北方領土に思いを馳せる

DVD鑑賞で遙かなる北方領土に思いを馳せる

迷宮ロシアをさまよう
北方領土、ロシアで言うところの南クリル諸島は、ロシアの行政区画ではサハリン州に属す。サハリンの空港にある観光案内所では、クリル諸島の魅力も伝えられていた(撮影:服部倫卓)
北方領土、ロシアで言うところの南クリル諸島は、ロシアの行政区画ではサハリン州に属す。サハリンの空港にある観光案内所では、クリル諸島の魅力も伝えられていた(撮影:服部倫卓)

平和条約締結交渉は厳しい出だしに

1月22日にモスクワで日露首脳会談が開催されましたが、北方領土問題の解決と平和条約の締結に向けた交渉は、厳しい出だしになったようです。

個人的なことを申し上げると、私は一般社団法人ロシアNIS貿易会という団体に勤務しており、日本とロシアの経済関係を促進する仕事に従事しています。私がこの団体(当時はソ連東欧貿易会という名前でした)に入社した頃は、まだ社会主義のソ連邦は健在で、東西冷戦構造も残っていました。

その時期の日本政府は、北方領土問題の進展がなければソ連との経済協力にも応じないという「政経不可分」の立場をとっていました。ですので、私の所属団体の活動も、自ずと一定の枠内に限られていました。当時うちの会では、新入りの私がうっかり「北方領土」という言葉を口にしただけで、上司に怒られるような、そんな雰囲気でした。

その時代から我が国でしばしば言われ、近年でも時々耳にするのは、「国益=領土か、経済か」という二元論です。私は、日本のような資源もない島国にとって、経済の問題はきわめて優先度の高い国益の一つだと思っているのですけど、なぜか巷には「領土こそが唯一無二の国益であって、経済的利益などは些事」といった固定観念があると感じます。

時代は移り変わり、安倍晋三総理の下では、領土問題解決と平和条約締結に向け、日露間の経済協力にきわめて大きな役割が与えられています。かつては、ソ連/ロシアとの経済協力に取り組むことが、あたかも非国民のような言われ方をされることもありましたが、今日では「国益」という観点からも対露経済協力の意義が認められるようになり、隔世の感があります。ただ、私に言わせれば、経済そのものも、立派な「国益」なんですけどね。

服部倫卓0129_1
北方領土のうち3島の自然を描いたドキュメンタリーDVD

北方領土のDVDを堪能

昨年、ロシア極東のサハリンに現地調査に出かけた際に、空港の売店で、南クリル諸島(北方領土のロシア側の呼び名)についてのDVDが売られているのを見付けました。実は、ロシアの地方都市などに出かけた際に、現地のドキュメンタリー的なDVDを買って帰ってくるのが、私の趣味の一つです。ですので、ロシアの空港・駅・本屋・博物館などでは、常に「DVDはないか?」と目を光らせているのですけれど、サハリンの空港で運良く南クリルのDVDを見付けたのでした。

多くの日本人と同様に、私は北方領土を実際に訪れたことがありません。ですので、せめてこのDVDを鑑賞して、まだ見ぬ北の島々に思いを馳せることにしました。

このDVDでは、北方領土の4島のうち、色丹島、国後島、択捉島が取り上げられており、残念ながら歯舞群島は登場しません。「サハリン州自然シリーズ」の第3巻ということらしく、3島の自然を描いたドキュメンタリー作品です。タイトルは「クルの土地」となっており、「クル」とはアイヌ語で人間のことを指すそうです。

さて、このDVD、映像作品のスペックとしては、相当厳しいものがあります。画質は、ハイビジョンでなくスタンダード。アスペクト比は、昔懐かしい4:3。フレームレートが低いのか、映像が妙にぎこちなく動き、とても気持ち悪いです。セルゲイ・アサウレンコという人の監督作品とされていますが、こう言っては申し訳ないですけど、田舎監督が20世紀の機材で撮影しましたといった風情です。制作されたのは比較的最近(2012年)なのに、なぜこんな低スペックの映像になったのか、理解に苦しみます。今日日、スマホでももっと良い画が撮れるはず。画質が悪くても、音声が5.1チャンネルというところがいかにもロシアらしいですが、BGMとナレーションが主体なので、サラウンド効果もあまり感じられません。

それでもなお、このDVDは素晴らしいのです。それは、被写体の3島が圧倒的に美しいからに他なりません。北海道をさらに荒々しくしたような、手付かずの自然、見たこともないような造形が、そこに広がります。

服部倫卓 北方領土の歯舞諸島と色丹島
北海道・根室半島上空からのぞむ歯舞群島(手前)と色丹島(最奥)=2018年12月11日、朝日新聞社機から、藤原伸雄撮影

まず、色丹島。切り立った断崖、複雑な海岸線、奇岩の数々が、えもいわれぬ景観を形作っています。ナレーションでも、「色丹島はあまりに美しいので、素人でも、プロのカメラマンが羨むような写真が撮れます」と語られていましたが、それも納得の自然の造形美でした。1972年にソ連でロビンソン・クルーソーの映画が撮られた時には、色丹島がロケ地になったそうです。

次に、国後島。色丹島とは数十キロメートルほどしか離れていないのに、国後島の自然環境はかなり異なっているようです。国後島については主に、貴重な動植物、火山、天然の露天風呂などが紹介されています。

最後に、択捉島。この島には、北方4島で最多の9つもの火山があるそうです。日本には火山島がいくつもありますけれど、多くは単一の火山によって造られた島のはずであり、この規模の島に9つもの火山がひしめいているというのは、珍しいのではないでしょうか。火山と温泉の島なので、DVDでもその紹介が主な内容となっており、特に観光客が滝に打たれているシーンが印象に残りました(日本の滝行と違って、温かい温泉の滝なので、気持ち良さそう)。

このDVDを観ていると、「我々の生きているうちに、これらの島の土を自由に踏めるような時が来るだろうか」、「ただ、この手付かずの自然は、ソ連~ロシアのインフラ開発の遅れと表裏一体だな。日本領だったら、これだけの自然が保たれたかどうか」、「いずれにしても、中国や韓国資本による開発で、この地が荒らされるような事態だけは避けたいな」などと、色んな思いが頭を巡ります。

それにしても、これだけ画質が酷いのに、それでもなお美しいという映像作品には、初めて出会いました。ぜひとも、最新の4K8Kカメラで、この映像作品の撮影をやり直してほしいものです。実はこのDVDには英語の字幕がついており、その点はなかなか気が利いているのですが、今度は日本語の字幕を付けるか、あるいは音声自体日本語も選べるようになることを希望します。何ならそうした映像作品の制作を、北方領土における日露共同経済活動の第一弾プロジェクトにしてもいいのではないでしょうか。放送用でも、パッケージソフト用でも、ニーズはあると思います。それくらい、北方領土の自然は、とにかく美しいのです。